2、危険な弟(レファール視点)
姉さんが父様と一緒に城に向かった。
部屋を出たと同時に、僕は隣に居るレオグルをちょっと睨む。
「んで? 実際、姉さんと何してたの」
「別に。予定を話していただけですよ、レファール様」
「ふーん。……ホントかな?」
そう言って僕の纏う魔力の質を変える。プレッシャーをかけるようにして、魔法を重みとしてレオグルにぶつける。これで大体の奴は、恐れるし白状する。だけども、レオグルの表情は変わらない。
無表情ではないけど、特に焦った様子もない。
「番犬君はそこいらの侵入者と違うよね。……そうでないと困るけど」
「誉め言葉として受け取らせて貰います」
すぐに魔力を引っ込めた。表情を変えない相手に無駄な力は使いたくないしね。
しかもレオグル自身、僕が言った事にそんなに驚いてない。……彼も勘が鋭いよ、ホント。
「貴方がお嬢様に、あの魔法を教えたのですね」
「なんのこと?」
「とぼけないで下さい。俺はあの類の魔法をお嬢様には教えていません。調べられても困るので、隠したのに……」
あぁ、そんな事してたの。
コソコソしているなと思っていたけど、姉さんに余計な事をしない為の策か。ごめんね、失敗に終わって♪
「別に教えただけで、使うかどうかは姉さん次第でしょ?」
「貴方ならお嬢様の行動を予想できます」
「予想って……。いくら弟だからって」
「レファール様は優秀ですから。それ位は簡単でしょ?」
なんでそう喧嘩腰なのかな。
そんなに姉さんに服従の魔法を教えたのがいけないってことなの。
僕は姉さんの想いを応援しただけなのに……酷いなぁ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕が生まれてから姉さんと兄さんは率先して世話をしてくれた。2人は可愛い弟だからと言うのが嬉しくてしょうがない。
だから、自然とレオグルの事も知る形になる。首元には首輪が付けられていて、そこから強い力を感じ取った。
嫌なものだとすぐに思い、姉さんに近付かないでと無言で睨んだのが懐かしい。あと、兄さんにも頼まれていたしね。
『レファール。報告はキッチリ上げろよ。隠す真似なんてすんじゃねぇぞ』
弟相手に脅す兄さんもどうなんだと思うけど、僕もレオグルには良い印象は持っていないから頷いた。兄さんの言う通りにしたし、怪しいそうな動き――姉さんと距離が近ければすぐに報告した。
その度に兄さんがレオグルと争って屋敷が少しずつ破壊されていくのを見て、『別の方法、ない?』と言ってお願いをした。
兄さんは僕と姉さんにかなり甘い。
家族を大事にしていると言えばいいのだろうが、たまに父様に対して殺気を向けている。理由としては姉さんの相手探しが原因だけど……。
まぁ、僕も許すなんて言ってない。じっと父様を見たら顔をそらされた。……あの態度は反省してないな。
『絶対に嫁に出すか!!! 俺がエーデルとレファールの世話をする!!!』
他所に出したくないから兄さんの熱は凄い。
だけど、父様もアトワイル家として子孫を残したい気持ちもある。そしたら、兄さん「家督を継ぐし相手も見つけてやる!!」と啖呵をきった。
あれには僕も姉さんも驚いた。滅多に表情を崩さないレオグルも、驚いていたのを思い出す。
そう宣言してからバーティス国の王城に務めて5年。
王に気に入られたのもあるし、王子が兄さんの性格と変に仮面を被らないのを気に入ったらしく……護衛として傍に置いたと手紙で知った。
姉さんとの手紙のやりとりでそんな事は書いてないから、驚かせたいんだと思う。
最初は……兄さんに従ったよ。
気配を消すのは元から得意だし、父様にだって気付かれた事はない。だから、レオグルがどういう経緯でここに連れ等来られたのか知っている。
実際に2人の会話を隠れて聞いていたし、報告しにひっそりと王城に行っているから楽しいんだけども。
だから兄さんがワザと姉さんに伝えていない事も含めて、僕は全部知っている♪
『レファール、助けてえぇ~~』
ある時、姉さんが僕の部屋に突撃したのだ。レオグルが居ると思ったけど、聞いてみたら抜け出してきたんだって。しかも話を聞くとレオグルが全然、振り向いてくれないんだって。
『挨拶して今日も素敵だよって言ったり、カッコいいねって言ったんだよ!? 魅力、ないのかなぁ』
そう泣きながら僕にすがる。
ギュウにギュウに抱きしめて来て、振り向いてくれないって言うから違うと答えた。レオグルの気持ちは告げないまま、他のアピール方法をしてみたらどうかと言ってみた。
『他の、アピール……?』
キョトンとした顔でじっと見られる。困った感じに頭をひねり、唸るからいくつか提案をしてみた。
言葉だけじゃなくて、自分からグイグイいってみたらだどうだと言った。
あと不意をついて抱き着いたり、とか。
『ふむふむ』
姉さんは僕の意見を真剣に聞いてくれる。どうにか振り向いてもらおうとしているから必死だ。その姿を見て、自然と思ったんだ。
『レファール?』
見つめ返してくる姉さんにふっと笑う。
兄さんの言う事も分かる。可愛い姉さんに誰も近付いて欲しくないって気持ち。でも……ここまで真剣に悩んで、レオグルに振り向いて貰おうとしているのを見てようやく分かった。
意外に頑固な姉さんの事だ。兄さんと喧嘩になるのは目に見えているし、屋敷が半壊する未来しか見えない。それは……かなり困る。
僕は姉さんの幸せを選んだ。だから、その為にはレオグルともいい関係を築いていこうとは思う。向こうは、知らないけど♪
だから姉さんにある魔法を教えたんだ。それが、服従の魔法。
この魔法は従わせるのもそうだけど、特に強い呪いに対しての打ち消す効果もある。
あとは姉さんの努力次第で、レオグルの事をどうにか出来るだろう。出来ないって言うのなら何度だって付き合うし、レオグルに悟られないようにするのだってやる。
だから、姉さんは頑張ってレオグルを誘惑してくんないと困るんだよ。
(さーて。邪魔してくる連中は駆除しておかないと)
最近、アトワイル家を狙っている連中が多くなってきた。ま、姉さんの可愛さにやられて求婚したいんだろうけど……誰がやらせるか。
姉さんの幸せを奪うのなら殺されても文句はないよね? いいや、絶対に息の根を止めるけども。逃がす気もないし、命乞いなんてしても僕は許さないから安心していいんだけども!!!
さて、どうあぶり出そうかな。
楽し気に笑う僕をレオグルは不思議そうに見た後で、「あまり派手にはしないで下さい」と言って出ていく。……許可貰ったから動こうっと♪