【番外編】お義兄ちゃん同盟
弟のレファール視点。
「待ってよ、お兄ちゃん!!!」
その言葉を聞いて、僕はふと振り返る。王都はいつも賑わい僕と同じ吸血鬼が人間達と同じように暮らしている。通常は太陽の光を浴びると死ぬんだけど、この王都には強い結界が張ってある。
吸血鬼の上位種として、君臨している始祖。
僕等よりも魔力が多く、従わせる力が強い。その対象は始祖以外ならなんでもありだ。人間、吸血鬼、魔物。始祖によってどれだけのものを従わせるかは分からない。
(お兄ちゃん、か……)
その呼び方が羨ましく思う。振り向いた先に居たのは、10歳前後の兄妹が手を握り笑い合っている。
「周りでそう呼んだら――」
そこでピタッと足を止めた。
ある事を思い出し、食べていたお菓子を食べつつ確認を行う。……いる。僕の周りにそう呼んでも違和感がない人がいる。確信を得た僕はすぐに屋敷に帰る。憧れを持つとどうしても実現したくなる。
「絶対に、嫌です!!!」
「そう言わずにさぁ。ねっ、お願い?」
「無理です!!!」
屋敷に戻り僕はさっそくとばかりにある人物に突撃。
黒髪に青い瞳、姉さんの好きな人で家族になるレオグル・トロワ。姉さんの専属執事にお願いして、何が悪いっ!!!
「お願いだから。ねっ、レオグル」
「い・や・です!!!」
「……仕方ない」
追いかけても屋敷内は互いに把握している。屋敷内で動き回ってても、隠れる場所の把握は僕の方が上だ。これでも未だに父様に見つかったことないしね。姉さんに心配させないようにって色々と秘密裏に動いているようだけど、全部知ってる。
1度、憧れを持つとどうしても成り立たせようと動く。
僕は姉さんが好きでしょうがない。兄さんの事も好きだし、父様も母様の事も好きだ。屋敷で働いている人達の名前と顔は完全に一致する。
僕にとっての家族は、アトワイル家全体。
だからレオグルも家族に入る。姉さんが好きな人だし、いずれは結婚するんだから義理の兄になるのは確定だ。
今から呼び方を強制して、何が悪いのか僕にはよく分からない。
「っ、うわ!!!」
屋敷内で暴れるとマズいと思って、お互いに外に出ていた。今は屋敷の屋根の上にいる、けど……。僕はレオグルに狙いを定め、魔法で鎖を瞬時に作った。空間を介して出現するそれらは、僕の体の一部みたいに呼び出せる。
だから、空中で生み出すのもレオグルに気付かれる前に縛り付けるのも簡単だ。
「レファール様、外してください。何でこんなことするんです!!!」
「やっ。レオグルが僕の言う事を聞いてくれれば、文句なんて無いし」
「脅迫ですよ、それ!!!」
「言う事聞いてくれないんだから、従わせるしかないでしょ?」
なんでそうなるって、目で訴えないで欲しい。うー、文句なら兄さんに言ってよね……。僕が魔法を使えるようになったのは3歳の頃だ。兄さんはそれを見て、何か閃いたように呼んだんだ。
『レファール。エーデルの事、好きか?』
『うん!!!』
『おーし、よしよし。じゃ、これから俺とで守るぞ。悪い連中を近付かせるなよ?』
『……?』
そこから兄さんとで魔法の訓練を行った。
姉さんに近付く男達は許さず、特徴を覚えるようにとも言われた。屋敷内で働く人達を例外にして、外から来る連中の顔と名前だけでも把握しろって、訓練されたんだ。まぁ、今では役に立っているから全然構わないんだけど、さ。
「レファール? レオグル? どこにいるのーー」
「「!!!」」
姉さんが僕達を探している。
それで少し緩んだのがいけなかった。レオグルはその隙にとばかりに、無理に引きちぎって脱出。その際に闇の魔法を使っての徹底ぶり。
「っ、ぐう……」
逃げられないようにときつめに縛ったのがいけなかった。脱出した時に、自分の腕を切って突破口を作り出すなんて……そんなに嫌なのか。
いくら再生するっていっても、痛覚はあるし血も多少は流す。すぐにくっついたけど、服はどうしようもない。
「キャッ!! な、何で血が出てるの!?」
「そ、それは……」
姉さんの元へと逃げたけど、自分の失態に気付いて言葉に詰まる。
弟に追い掛け回されたって言いたくないしね……。
「姉さん、ごめん。魔法のコントロールが上手くいかなくて」
姉さんは屋敷の外に出ていた。
母様と僕と同じ金髪に、父様と兄さんと同自紫色の瞳。今日はピンク色のドレスを着ているから、魅力的なのにもっと引き立たせている。
キョトンとした顔は珍しく、僕の嘘を疑うということもない。
「レファールが? 一番得意なのに」
「細かい出力が、ね。もっと集中しないといけないんだけど……レオグルに被害を与えちゃったし」
「そう……。あんまり危ない事、しないでね?」
そう言ってしゃがんで「めっ」と言って頭を撫でる。もう危険な事はしないように、怪我をすると心配するからって言われてしょんぼりする。一気に大人しくなった僕に、レオグルはホッとした様子なのを見てて悔しいんだけどさ。
僕が姉さんに弱いのを知った上で狙ったんだ。
タイミングを逃したとばかりに、ちょっとむくれる。姉さんはそれを拗ねているんだと思ったのか、僕の口にクッキーをかじらせた。
「はい。これで少しは機嫌良いでしょ?」
「……ん」
姉さんから貰うのが嬉しいけど、それは言わないでおこう。
頷いて無言で食べて、城の方に目を向ける。……ある人に相談しよう。
「用事思い出したから、僕これから出かけて来るね」
「え、そうなの?」
「夜には戻るから平気だよ。じゃあね、姉さん、レオグル」
クッキーを少しずつ食べながら移動し、城へと急ぐ。僕の気持ちを分かってくれそうなのは、この国の王子しかいない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「へぇ~~。なるほど、ね」
「僕の考え方、間違ってます?」
城に着いてすぐ僕が訪ねたのは、王子であるラーバル・バーティス様。
仕事中だったようだけど、今、兄さんはいない。話すのに都合が良いから、思った事ときっかけを伝える。
「ま……憧れを持つのは良いんだけどね。いきなり彼に求めるのは、急すぎだよ。捕まえるのもだけど」
「兄さんに狙ったものは逃すなって、言われてきてるんです」
「アレスは君の育て方を間違えたな……」
そう言って仕事の手を止めて、僕と同じようにソファーに座る。隣に来るからビックリしたけど、真剣に聞いてくれるんだと思って黙っておく。
「んー、そうなると私もアレスにとってはお義兄さんになるのかな」
「レナリ様と少しずつだけど、距離を詰めてるし手探りだけど上手くいくと思いますよ」
「君のアシストのお陰だね」
ま、レナリ様に兄さんの好みを教えたしね。家督を継ぐ気でいる兄さんと始祖のレナリ様。……兄さん、王族として迎えられるって事?
「私は既に決まった人がいるから気にしないで。レナリには自由に生きて欲しいから」
「王でなくてもいいと?」
「レナリがそう望むのならね。正直に言って、アレスみたいに任せられるのいないんだよね。他はねぇ~……なんか嫌」
「ワガママですよ」
「君に言われたくないよ」
僕がワガママだって?
姉さんと兄さんなら違うって言うんだけども、ダメなのか。
「んーー。とはいえ、アレスとは普段でも一緒に居るのが多いからなぁ。お義兄さんっていうの、違和感しかない」
「じゃ、僕と同じくちゃん付けで呼びます?」
「……それか」
何かピンと来たらしい。手を取って「良いね!!」と嬉しそうに言ってくれた。って、事でさっそくラーバルお義兄ちゃんって、呼んでみると嬉しそうに何度も頷いた。
「じゃ、私はアレスの事をそう呼ぶから頑張ってレオグルの事も呼んでみて。あ、結果を聞きたいからまた来て良いよ」
「やった♪」
「なにやってんだ、レファール」
兄さんがいつの間にか来ていていた。相談に乗ってもらい、解決したと言えばラーバル義兄ちゃんを見て「近付くな」と言って引き剥がす。
「ねぇねぇ、アレス義兄――」
「誰がだ!!!」
直後、ラーバル義兄ちゃんは吹き飛ばされた。……外まで吹っ飛んじゃったよ。その後の始末に忙しくしているから、気を使って気配を消して屋敷に戻る。彼が失敗したから、今度は僕の番だ。
「お、おまっ……!!! 俺の妹だけでなく、俺の弟にまで手を出しやがって!!!」
「誤解です!!! これには訳が――」
どうにか無理に呼ばせてみたけど、運悪くその現場を兄さんに見られてしまった。
手足をグルグル巻きにしたから、簡単には逃げられないんだけど。そう思っていたら兄さんはそのまま寝込んでしまった。
レオグルに全部取られたのが悔しいんだって。……兄さんが居ない時にそう呼ぶしかない。
後日、ラーバル義兄ちゃんに事情を言えば「こっちは当分、呼んでもらえないや」と悲し気に呟かれる。僕達は固い握手をし約束をした。僕はラーバル義兄ちゃんと呼び、彼は僕の事を義弟と呼ぶことにした。
まずは兄さんのお見舞いから。そう思って、ラーバル義兄ちゃんと共に兄さんの好きな物を選びに買い物に向かった。




