14、頑張って攻めました
アトワイル家と同じ公爵家としての爵位を授かった筈のアーカイル家。その息子が起こした私の誘拐事件により、ラーバル様は見せしめに屋敷を全壊したそうだ。
その現場を見ていないからよく分からないが、兄さんが言うにはレファールのを上乗せしただけだと言われた。
『えへへ、ごめんなさい♪』
てへっ、と謝るからついヨシヨシと頭を撫でた。そしたら、レオグルが『軽すぎでは?』と呆れ声。それもそうかと思い、物は破壊しないでと言う。レオグルが更に頭を抱えた。
思っていた反応と違うってことかな? 兄さんを見ると『それで合ってる』と満足気にしている。うな垂れたレオグルが兄さんとレファールの事を睨んでいる。屋敷を出る前に面白いものが見れた。
「あの、レナリ様」
あの時の騒動から3日後。
魔力を削られただけだが、父様が念入りにと言われてしまい遅くなった。レナリ様は秘密裏に調べていたのもあったが、本人から言わせると「子犬君のお陰よ」と言う事らしい。
お兄さんのラーバル様にもお礼をと思ったのだが「そんなものいらん!!!」と、兄さんに追い出された。それだと私の気が治まらないから、お茶会でレナリ様にとプレゼントをした。
「いいの? あら可愛い」
手乗りサイズの鳥の水晶。
それに魔力を込めれば、同じ物を持った者同士での通信が可能だ。こういう加工技術もアトワイル家の特徴だから、城に置かれている水晶はこちらで管理している。
私も同じ物を取り出して、お互いの魔力を込めて話しかければ声が通る。レナリ様は夜にも話せると言い、嬉しそうにした。
父様にはあの騒動でかなり不安にさせた。今後はレオグルだけじゃなくてレファールも付き添うように徹底されてしまった。そう話せば「大事にされているわね」と言われてしまい、恥ずかしい思いをした。
「初めて出来た友達だもの。私の力が必要ならなんだって貸すわ」
「それなら……また誘ってください。レナリ様から他国の話を聞くと、私も行った気になるので」
「そ、そう?」
驚いたように固まり、プイッと顔を逸らした。よく見れば耳まで真っ赤になっているので、照れているのだと思って何も言わない。すると、レファールが「お菓子のおかわりあります?」と間に入って来た。
「雰囲気を読まない人ですね」
「いやいや。一応は読みましたよ? レナリ様が気まずいと思って」
「ふんっ、なんの事」
そう言って控えていた執事に、お菓子のおかわりと別の種類の紅茶を用意するようにと伝えにいった。レナリ様の瞳の色を改めてみる。今は普通に戻っている灰色だ。
しかし、あの時の彼女の瞳は紅かった。兄さんから聞いたが、始祖が力を使う時には瞳の色が変化するんだって。
圧倒的な力を使い、ねじ伏せるのは簡単だ。
だからこそ。その力を誤った方向に使うべきではないと聞いている。取り締まる気でいたのは、兄のラーバル様だけだったのを彼女が無理に押してきた。
『お兄様が行くなら私も行きます。念の為にエーデルに渡した物は壊されていない。あとを追えばすぐに助け出します!!!』
彼女に変化が起きたのは、ラーバル様にとっても嬉しい事のようで彼から手紙を貰ったのだ。もちろん、兄さんが1度中身を確認し尚且つ読み上げるという形ではあるが……。
私さえよければ、このままレナリ様の友達として友人としてこれからも接して欲しいのだと。
「レナリ様」
「はい。どうしましたか」
「今回の事、本当にありがとうございました。手紙にも伝えましたが、やっぱりお礼が言いたくて……」
そう言えば、彼女はフルフルと体を震わしてガバッと抱き着いて来た。
無事でいた事とこれからもよろしくという事で、泣いてしまったのだ。慌てる私達に、微笑ましいとばかりに侍女や執事に見られてしまう。
あの……誰も止めてくれないのかな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「レオグル」
「はい。なんでしょうか」
戻ってから目を覚ますまで、彼は寝ずに傍に居てくれた。
自分も無理を押しているのに、私を優先したのだ……。屋敷についてから、今の様に髪をとかしてくれるとほっとする。
振り返ると彼は変わらずに笑顔を向けてくれる。
あれ以来、彼は無表情で接するのを止めてレファールと同じく笑顔を見せるようになった。
他の使用人達にとっては、その変化に驚き慣れるのに時間がかかった様子だが、じきに慣れるだろう。
母様も嬉しそうにしており『そっちの方は私は嬉しいわ』と言い、照れくさそうに受け取るのを新鮮な気持ちで見ていた。
「あの、ね。……これ」
「え」
本当ならもっと早くに渡したかった。
レファールと一緒に見付けたのは、青い石が加工されたイヤリングだ。それを買ってから、父様に秘密裏に言い石ではなくサファイヤに変えてもらい出来上がったもの。
私が連れ去られた時……その日は、レオグルと会った日だ。
彼は自分の誕生日というのを知らないでいる。1年過ぎたら1つ歳をとる。そう言う判断で年齢を重ねて来た為に、記念日と言う概念がないのだと言っていた。
「だから……その、誕生日プレゼントなんだけど」
「……」
手を口で抑え、言葉を発しない。喜んでくれると思ったけど、その表情はなんだか優れない様子だ。
「し、しかし……お嬢様。俺は……」
「あ、やっぱり気付いてないね?」
「「うわああっ!!!」」
2人してギクリと体と震わした。
レファールがいつの間にか入って来ていた。しかも、扉からじゃなくて窓からだ……。
気にした様子もなく着地して、レオグルに説明を始めた。休みを与えたあの日、後をつけられていたのは分かっているからと言いポカンとだらしなく口を開ている。
私も知らなくて、同じくポカンと口を開けてしまった。
「あとね。あの時に姉さんの隣にいたの僕だし、レオグルの事を背負って屋敷に戻ったのも僕」
「え……。し、失礼ですが、レファール様とあの時の人物とでは身長が……」
「本当に失礼だな。ほら、これなら良いでしょ!?」
怒った様子でもあり、拗ねたレファールはレオグルに自分の変化した姿を見せる。
珍しく「あっ!!」と声を上げたレオグルを見て、気付かなかったんだと見守る。青年の姿になったレファールは、レオグルと並ぶと自分の方が背が大きいと自慢を始めた。
「ほら!! 見覚えあるでしょ? あの時に着てたのは、父様の服だから分かると思ったんだよ……。バカ、なんで気付かないかなぁ」
「わ、分かる訳ないでしょ!!! レファール様はもっと、小さくて」
「小さくないよ!!!」
言い合いを始めた2人に私は止めもせずに、ずっと見ている。こうしてみると兄さんよりも、兄弟っぽく見える。その後、怒った様子で出ていくレファールに疲れた様子だ。
「騙された……。まさか、お嬢様がこんなことを」
「ううん。レファールとレナリ様とで意見をかわしたの」
「……やっぱり」
そんなレオグルには悪いが、イヤリングを付けさせて欲しいとお願いをした。すると、固まって暫く考える様子だったが、諦めた様子で分かったと言った。
「うん。レオグルに似合う♪」
使っている手鏡を彼に見せれば、恥ずかしそうにしていた。視線を彷徨っているので、固定させようと両手で真正面を向かせる。
「ちょっ、お嬢様っ!?」
驚く声がどこか遠くに聞こえる。
私も恥ずかしいけど、これも度胸だと思って勇気をもってキスをした。息を飲む音が聞こえ、自分が予想していたよりも恥ずかしさで一杯だ。
「こ、これでも……信じてくれない? 私、レオグルの事が好きなの。ディラスにもちゃんと断っ――」
「止めて下さい」
否定する声が聞こえ、首筋にチクりとした。驚いていると、自分が居るのに他の男性の名を呼ばないで欲しいと訴えた。
「俺は……お嬢様の物です。あまり怒らせないで下さい」
そっと見上げるとイヤリングが見える。つけてくれたのが嬉しくて、レオグルの事が好きな気持ちが溢れる。だからか、そっと目を閉じた。
彼が期待に応えてくれるか分からなかったが、「お嬢様の望むままに」と言ってキスをした後で強く抱きしめてくれた。
私は幸せ者だと、心から実感した瞬間だ。
火曜日、午前10時に番外編を載せます!!!(まだ続きますよ)




