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11、逆鱗(レオグル視点)


「おい、起きやがれ!!」

「兄さん。乱暴にしないで!!」



 周りの音が、騒がしい……。いつの間に、俺は気絶していたのか。そう言えば、お嬢様は……?



「っ、お嬢様!!!」



 さっきまでいた存在の名前を言えば、アレス様が俺の首を掴んで締め上げる。壁にめり込む様な強い力に、苦し気に息を吐く。俺を見るアレス様は、憎い相手だと親の仇と言われても納得できる。

 それを止めたのはレファール様だ。



「兄さん、止めてよ。レオグルは起きたばかりで……!!!」

「お前も黙れ。コイツ、妹に手を出した上に攫われやがって……。何の為の護衛だ!!!」



 そう言って力をさらに込めて来る。もう、息を吐くのも辛いし気が遠くなりそうだ。

 そんな時、ザワリと空気が変わった。



「それ以上の事をするなら、兄さんでも許さない」



 ジャラリと鎖がアレス様の腕に巻き付く。ギリギリと絞め上げれる鎖の音だけがやけに響く。



「レファール、お前っ……」

「兄さん、腕を引きちぎられたいの? 今、怒ってて冷静さを失っているなら――」

「ちっ」

「ごほっ、ごほっ、こほ……」



 空気が、入る……。酸素を吸い込み、フラフラになるが起き上がる。アレス様に叩きつけられたからか背中も痛い。見えた状況に俺は未だに驚きを隠せないでいた。


 未だに腕に鎖を巻かれ冷めた目で兄を見ているレファール様。冷徹な表情をした彼は纏う雰囲気を変えた。



「平気?」

「は、はい……。ありがとう、ございます」



 いつものレファール様の雰囲気に戸惑う。

 お嬢様に接する時のような、明るさと人懐っこい笑顔の少年。だが、先程のは……俺と同じ、敵と判断した時の目。

 アレス様は特に痛がった様子もないが、俺に舌打ちをする。



「お前。いつの間にレオグルの味方になったんだよ」

「さぁ……? 僕は姉さんを悲しませたくないだけだよ。それに兄さんだって、見張れとはいったけど妨害はしろとは言ってないよね」



 その時点で俺の事はある程度、認めているようなものだと言われアレス様を見る。

 彼はバツ悪そうに顔を逸らし「見んじゃねぇ」と、乱暴に自分の頭をかいた。


 レファール様から詳しい事情を聞いた。俺は背負われたらしいが、それが誰なのかいまいちはっきりしない。アレス様に、それは気にするなと言われ帰りの出来事を話した。


 帰る途中におきた襲撃。沼から出て来た狼により、警戒を怠った俺は噛みつかれた。しかも、噛まれた所から呪いの力を流し込むという相性の悪さ。

 それを助け出したのはお嬢様だ。


 俺の中に温かい力が流れ込んでくるのは分かった。同時に、体に広がっていた気持ち悪さもなくなり意識が浮上していったことも。

 


(そう、だ……。あの時、お嬢様は)



 泣きながら生きて欲しいと懇願していた。謝りたいことがあると、そう言っていたのに……。



「おい、襲撃者が誰なのか覚えてないのか」

「……すみ、ません」

「役立たず」



 アレス様の言う通りだと思い俺は黙る。レファール様がそれに怒っているのを、少し嬉しく思う。部屋をノックする音が聞え、他に誰か来るのだろうかと思った。


 俺が対応しようとしたが、アレス様が扉を開けすぐに閉めた。しかもガチャリと鍵をかけるという徹底ぶり。



「あの、アレス様……?」

「場所を変えるぞ。都合が悪い」



 どういう事だろうかと思っていると、次の瞬間には壁がぶち抜かれていた。破片が飛んできても、俺達は普通に避ける。アレス様は嫌な顔になり、レファール様は何故だかニコニコしていた。

 入って来た人物の雰囲気を見て、俺は悟った。――始祖だと。



「人が来てそんな態度って、十分酷いんだけど」

「王子が何の用だよ」

「ひどっ!? せっかく妹さんの――」



 その言葉に、俺達は全員で詰め寄った。

 妹のレナリ様も動いているからと聞き、全てを話し終えた彼は凄く疲れていた。また起き上がるのに、ふらついていると、ラーバル様に支えられる。



「君、怪我してるから無理しないで。友達になったエーデルの大事な人って聞いてるよ」

「……っ」



 そう言われ、俺の顔はすぐに赤くなる。現にレファール様はそれを嬉しそうに見ており、アレス様は機嫌を悪くする。


 最近のお嬢様は……行動が大胆になった。元から言葉で伝えて来たのに、いつの間にか行動が伴って追い詰めていくのだ。それに対して俺がどれだけ我慢をしているのか、きっと知らないはずだ。



「レオグル、お願いがあるんだ」



 襲撃者の元へと行こうと準備をする。傷は塞がり、魔力も多少はある。魔法での戦闘は無理だがと思ってると、レファール様に呼ばれる。

 


「姉さんの方をお願い。はい、これ」

「これ、は……」



 渡されたのは、お嬢様がしていた腕輪と同じもの。それに魔力を込めれば、レナリ様の所に飛ぶからあとは任せて欲しいのだという。



「血祭りにするのは僕がやるから、レオグルはさっさと姉さんの所に行ってね? 嫌なら無理にでも連れて行くけど」

「行きます」



 本気の脅しに頷いたのは悪くない。満足気になるレファール様は、そのままアレス様の所へと向かい何かを告げている。何だろうかと思っていると、妹の事を頼むなと言って思い切り腹を殴って来た。



「う、あの……」

「ふん、これで勘弁してやる。戻らなかったら承知しないぞ!!!」



 乱暴な足取りで屋敷を出ていくアレス様。「またねー」と明るく告げるレファール様。呆然となる俺に、ラーバル様は肩にポンと手を置き「お互いに大変だね」と言って2人の後を追って行った。


 

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