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1、私の家族と恋人


 エーデル・アトワイルとは私の名前だ。母様と同じ金髪に、父様と同じ紫色の瞳。


 家の特徴なのか、男しか生まれてこなかった流れで私が生まれた。上には兄さんがいて弟もいる。どちらも自慢だし、特に弟は可愛い……。父様は特に私を可愛がり、母様にはよく叱られているのを見る。


 どうも甘やかせすぎだからと言うが、それでも父様はめげないし変わらずに可愛がった。母様も呆れている様子だし、兄はまた始まったとばかりに引き離す。そんな中、父様は私にと専属執事を紹介した。


 忘れもしないあの日。まだ私が7歳の時の事だ。


 綺麗な青い目が印象的な黒い髪のレオグル・トロワ。海を思わせる様な色は、私にとって憧れなんだ。


 だって私達は吸血鬼という、太陽の下には出られない種族。

 海はどんな所なのかとよく絵本で見ていただけに、その絵本の色に似た瞳の色を持った男の人。その時から私は夢中になっていたかもしれない……。


 その時の兄さんがレオグルを睨んでいた事も気付かないまま、私は父様にお礼を言っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから10年経って私も立派な令嬢だ。変わらず専属執事はレオグルだし、彼以外ではあり得ない。不満な所なんてないし、例え失敗したとしても必死で父様を説得するだろう。彼の仕事が完璧だからそんな必要もなかったけど……。



「お嬢様。今日の予定は――」



 彼の淹れる紅茶は茶葉もあるだろうけど、凄く美味しい。いつも予定を言うレオグルを横目に私はほっと息を吐く。

 今、自分の部屋でゆっくりしている。椅子に座り、用意してくれたお菓子に手を伸ばす。



(はうぅ、昨日もカッコいいけど今日もカッコイイよぉ~~)



 予定を言っているレオグルには悪いけど、私は今凄く幸せだ。

 彼の首筋にはうっすらとだけど、淡く光る蝶が見える。あれは私が施した服従の魔法だ。彼がここに来る前に事は知らないけど、元奴隷だと言うのは聞いている。


 奴隷の印である黒い首輪があって、綺麗な首筋が見えないのが凄く悔しかった。どうにか外せないかと密かに動きたかった……が、レオグルはいつも傍に居るからそんな事は出来ない。

 

 代わりに動いてくれる人を使うしかないのが悔しい。でも、あの子は喜んでやってくれた。一体、どこでそんな技術を身に着けたのかと不思議に思う。



「お嬢様。聞いていますか?」

「ふえ!?」

「……聞いていませんね」

「ごめん、なさい」



 何度も呼ばれていたのに、返事をしなかった私にレオグルは溜め息をつく。うぅ、呆れられたよ。


 じっと見ていると彼は仕方ないとばかりに、私に目線を合わせて膝まづく。椅子に座っている私よりも目線が下になるから、ちょっとドキドキした。

 物語りに出てくるような、騎士の感じに思えたからだ。



「仕方がありませんね。お嬢様は俺に夢中みたいですし」

「っ……!!!」



 顔に熱が集まるのが分かる。そ、逸らしたいけど出来ない。彼の目を見ていると、どうにも抗えないというか変な強制力を感じる。何もしないでいるとすっと彼の手が、私の頬に触れる。



「どうしたら話を聞いてくれますか?」

「……」

「言ってくれないと分かりませんよ。お嬢様」



 こ、この状況でどう言えと!?

 うくっ、これが惚れた弱みなのか。ドキドキして目を閉じていると、近付いてくる気配を感じる。何が来るのだろうと思っていると――ペシッと叩かれた。



「ちゃんと聞いてくれないと困りますよ。ほら、しっかりして下さい」

「は、はーい……」



 キスをしてくるのかと期待してしまった。

 気まずそうに顔を逸らしている所に「姉さん、いい?」とノックしながら聞いてくる。レオグルが部屋の扉を開ければ、耳元まで揃えた金髪に紅い目の少年が入ってくる。水色の綺麗な生地に、豪華な刺繍がしてあるジャケットとズボン。


 レファール・アトワイル、自慢の弟だし文句なしに天才。


 魔法だって、私が教わっている事が多いのに彼は「姉さんの魅力には勝てないよ」なんて可愛い事を言うんだ。レオグルに言うと、若干引きつった表情で「そう、ですね……」とぎこちなく答える。しかも視線を彷徨わせて、だ。

 ……弟の自慢ばかりするからだろうか。

 

 彼は私の為に色々と動いてくれるし、的確なアドバイスもくれる。弟ではなく兄ではないかと、本気で悩む瞬間が度々ある。



「もしかしてお邪魔だった?」

「ううん。大丈夫だよ」



 こう、勘が鋭いのも……ね。

 コテンと可愛らしく首を傾げる彼はこう見えても15歳。

 身長が149センチと、小さいのを気にしているが私は可愛いからいいと思っている。立派な成人年齢だから、気にすることではない。



「そう? あ、僕の好きなお菓子がある!! 貰ってもいい?」

「どうぞ」

「わーい♪」



 パクッとクッキーを口に入れ、既に両手にはそれぞれフィナンシェとマドレーヌを持っている。レファール、そんなに慌てなくてもお菓子は逃げないから。



「ふふっ……」

「ん?」



 私が笑ったのを見て不思議そうにみる。気にしないでと言えば、また夢中でお菓子を食べている。さっと彼の分の紅茶を用意しているレオグルは流石だ。

 その流れでもう1度予定を確認される。今日はバーティス国の王城に呼ばれているのだ。

 父様の仕事もあるけど、兄さんに呼ばれたんだった。……何の用かな。



「お嬢様。そろそろ時間ですよ」

「あう、もうなんだ。レファール、本当に一緒に来ない? 久々に兄さんに会わない?」

「う、ごめんなさい。僕、課題があるからまた今度にする。休憩が終わったら、忙しくなるし。戻ったら話しを聞かせてね」



 ウィンクするレファールが可愛い。約束をかわし、離れ際に頭を撫でると嬉しそうにしている。

 そうしていたら、父様に呼ばれる。あ、もう城に行く時間かと思い慌てて付いていく。


 2人に手を振り部屋を出た時に、ひんやりとした空気を感じた。寒かったかな、と思いつつも私はそのまま父様と共に城に向かった。

 

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