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とある武器息子の日常

作者: あふれ旋律

 ドクン……ドクン……。

 俺の心臓は全身に強く血液を押し流していた。

 なぜかと言うと……。


「グハッ……カハッ……」


 全身は傷だらけになり、もう体は動かない。


 俺の眼前には折れた剣の破片が散らばっていた。俺の愛用の剣だったやつだ……。


「キミの方から決闘を挑んできたから何か策があるのかと思ったら何もなくて笑ってしまったよ!」


「じゃあ掛け金の1000ゴルドは僕が貰うね」


「じゃあね、哀れな敗北者サン」


 そうして相手は去っていった。傷一つ付いてない綺麗な服をなびかせて。


「……俺は負けてなんかいない。アイツがズルをしたんだ」



―――――――――


 俺は幼い頃から剣を振るっていた、武器屋の息子だったから。

 しがない村の武器屋だったが、なぜか剣は古今東西の物を扱っていた。

 親父は何かを隠している感じだったが長年一緒に住めばバレてしまうものだ。深夜にふと夜空を見たくなって外に出たときに気付いた。


――親父が空を飛んでいたのだ


 何かの見間違いかと思った。この世界に空を浮遊する魔法なんてない、空を飛べるのは重力を無効化出来るグラビティマスターと呼ばれる職業だけだ。勇者でも出来ない、魔法使いでも出来ない、世界に3人しか居ない超弩級のレアクラスだ。


――親父は光の如き速さで遠くまで行ってしまった。


「何なんだ、一体。親父は何者なんだ……」



 なんとも言えぬ不安感を抱きつつも、俺自身も何か特別な人間なのではないかと感じ、その日から厳しい修行をすることにした。


「親父! この店の一番良い剣を使わせてくれ」


「バカ野郎、それは1000000ゴルドもするこの店の大黒柱みたいなもんだ!」

「それを売るときは店が潰れるか大金持ちになるかのどっちかだ、俺の人生が掛かるレベルなんだよ」

「俺はこの剣を愛している、デザイン・切れ味・実績、どれを取っても申し分ねぇ、嫁よりも好きな剣なんだ、こいつだったら鞘なしでも抱いて寝れる!」



 御高説をひたすら説明されたのでますます使いたくなった。深夜に寝静まった後、俺はその剣を握って持ち上げようとしたが……。


「お……も…すぎる」


 流石に剣の世界を舐め過ぎたか、まさか持つことすら出来ないなんて。しょうがない、別の安い剣で頑張ろう……ん?


「この剣、まさかエクスカリバーじゃないか?」


 バカな、こんな所にそんな凄い剣がある訳がない。そんな訳はない……。しかし万が一があるかもしれない。もし誰かに買われてしまったらお終いだ。


 俺は罪を犯した。ひたすらにその大剣を引きずり森の中に隠すことにしたのだ。


「はぁ……はぁ……。これで一安心だな」


 何が安心なのかは分からないがその時の俺は満足していた。後ろから来る気配に気づかずに。


「―――!!!」


「ぐわあぁぁぁぁ!!!!!」


 俺の肩はもげていた、グリズリーが奇襲を仕掛けたのだ。俺の倍はあろう背丈で巨体を主張していた。


「あっあっあっあっ」


 全身に激痛を感じながらも、必死に視界を上げると。……なんとグリズリーがエクスカリバーを持っているではないか。


「お前……俺の剣を……!!」


 俺がどうやっても持ち上げられなかった剣をグリズリーは悠々と掲げている。グリズリーはニヤリと笑うとその剣を振りかざし俺にトドメを刺しにきた。


 剛速球で向かってくるその剣には殺意がこもり、空気すらも切り裂くような音が聞こえた。剣の軌跡に光が残り美しいアートを描きながら、斬るものすべてを絶命させる終わりを感じさせた。


――キィィイーーーーン―――


――その瞬間。


 俺の目の前に剛速球で何かが突進してきた。それは……。



 ―――浮遊して飛んでくる親父だった―――


グシャアアアアァァァァ


「ぬわああああああああああああああああ!!!!」


「おやじいいいいいいぃぃいぃぃぃいいいい」



 それが親父の命日だった。グリズリーにエクスカリバーで斬られどうしようもなかった。


「エクスカリバーで死ねるなら本望だ……」


 死に際にそう言っていた。結局親父が何者なのかは分からないままだった。ちなみにグリズリーはLv10ぐらいあれば倒せる敵なのでヒョロガリの兄ちゃんが倒してくれた、つまり俺が弱すぎたのだ。


―――


 武器屋は俺が引き継ぐことになった。つまり店のものは何でも自由に使えるようになった。そしてようやく気づく、親父が勇者パーティの一員だったことに……。


「帳簿の取引相手が超有名人ばかりじゃないか、勇者に貸しが利子100%で400000ゴルドもある」


「ピンチの時だけ駆けつけて美味しい所だけ持って行ってた漁夫の利エアーカリバーって親父のことだったのか」


「それに……」


「おかしいとは思っていたんだ、俺の体のこの紋章……」


 俺の胸と背中と尻にはピザぐらいの大きさの紋章が描かれていた。闘志を燃やすと光を発するのだが、入れ墨か何かだと勘違いしてしまっていた、怖い家系じゃなくて安心した。


「どうやら俺は選ばれし者らしい。そうと分かれば旅に出るしか無いな。金を集めて強くなり、この世界の支配者になるんだ」


――そして俺は強くなって……


 クズになっていた。


「よおおおおおし!! また勝った! 掛け金の300ゴルドは俺のもんじゃ!」


「ふざけるんじゃねぇ、エクスカリバーなんて卑怯だ」

「ステータス偽造でLv下げて格下だと思わせるなんて、まともな冒険者じゃない。ルーキー風の盾逆さ持ちミスまで演出しやがって」


「そんな事知ったことか! 騙される方が悪い! この世は弱肉強食! 俺は選ばれし者だ、悪いことなど有りはしない!」


 よしよし、いい感じに昇り詰めてきた。お? あそこにそこそこ強そうなカモがいるぞ。ここはオールインで突っ込むべきだ。


 アイツはこの国でも知らないやつはいないギャンブル中毒のバカだ。何度も破滅してるがそれでも自分の性格は直せない、煽られるとすぐ勝負に乗ってくる。クソザコなのに懲りないやつだ。


「おい! お前! 剣士とは思えない貧弱な腕してんなあ!! オコチャマに冒険は早いぞ、ママの子守唄でも聞いて揺り籠でチュパチュパしてな!!……?」


――――キュィィィィイイイン――――


……バタッ


 そこで俺の記憶は終わっていた。俺は有り金すべてとエクスカリバーを失っていた。


 一体何が起きたんだ?


「お主には資格がなかったようじゃのう」


――俺の体から紋章が剥がされていく。


 風の噂に聞くとアイツはこの国が雇っている闇の賭け勝負師らしい。勇者にふさわしくないとされた者を叩き潰し経験値とゴールドとアイテムを強奪するそうだ。それらは王族に捧げられ、この国を更に格差社会にすると言われている。


「そんんんなああああ、バカなああァァあぁあ」


「俺はああぁぁああぁぁああ、ふめえええつうううううう!!」


――セーブデータ1が王様により強制削除されました――


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