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向けられる憎悪

ダンジョンは五層まで進んだ。一層一層の広さが半端なく、一つ降りるのに時間が掛かってしまった。

しかし咲たちチート集団に勝てるモンスターはいなかった。

一撃で倒せるのはやはり隼人だけで、全然攻撃が通りにくい所を攻撃してしまったり、慢心から手を抜いたら倒せなかったり、単純に攻撃力が足りなかったり、理由は様々だが他の人は一撃キルは出来なかった。

そして五層が制覇し終わったところで、団長が止まった。


「よし、今日はここまでにしよう。来た道を戻るぞ!」


帰りは里奈達と話しながら戻った。


「咲って幾つスキルを持っているわけ?」


「うーん10何個ってところかな?」


「耐性系はゲットした?」


ここで咲は気付くべきだったのだ。いや、無理な話だったのかもしれない。気になったからと言われてしまえば、だから聞いてきてきたのかと納得してしまう。だから咲は素直に答え、疑いもしなかった。


「ううん、まだ取得してないよ。里奈達は?」


「まだかなー」


「うちも」


「そもそもどうやってゲットするのだろう?」


「いや、耐性系なんて何に使うの?」


「……」


正論すぎる由紀子のツッコミが痛い。

咲達は沈黙した。


「まぁどうせまだゲットできないだろうけど。出来ないのを気にしても仕方がない。」


それはそうなんだけ、ここまでくると取得できるスキルを全て揃えたくなるんだよ、と咲は訴える。

一生ついてくるコレクター魂だなと咲にジト目が送られてきた。

と、今まで苦笑いを浮かべていた愛花が良いことを思いついたというように手を叩く。


「ねぇ、今日の夜さ、私の部屋日集まってちょっと遊ばない?」


突然だな。


「何をするの?」


遊ぶと言ってもネットゲームが出来ない今、何をするのか。

そんな咲の気持ちが顔に出ていたのか、愛花がチッチッチッと指を左右に動かす。

なんとなくその仕草がイラっときた。


「まったく咲は本当にネトゲが好きだね。」


いじわるそうなと問いに若干だが咲に青筋が浮かびかけた。

と、その時


「部屋でさ、トランプをしようよ!」


「あはは!トランプって持ってないでしょ!」


咲が笑うと愛花は苛ついたようで、眉をあげる。


「あのさ、ない物を言うわけないでしょ。内ポケットに入れてたんだよ。」


「校則違反」


由希子がボソッと呟いた。

そのつぶやきを聞いた愛花は慌てて弁解する。


「わざと持ってきたんじゃなくて!たまたま入ってたの!友達と遊んだ時にね!」


「まぁまぁ、たまにはこういうのもいいじゃん。どうせここは学校じゃないんだし。」


里奈は愛花に賛成のようだ。

そして、ここは学校じゃないという言葉が咲たちの心を抉る。そう。此処は咲達が通う学校がない、居るべきではない世界だ。


平気なふりをしていてもはやり大切なものが沢山ある地球に早く帰りたい、と強く思っているということを痛烈に感じ、咲たちは一瞬沈黙してしまった。


「…まー、里奈が言うなら私はいいけど。咲は?」


「多数決的にもう決まってると思う。…当然いいよ。何時に集まる?」


「あー、いま何時だろう?」


「さあ?とりあえず夜ご飯を食べ終わってからでいいんじゃない?」


私達は持ち物などを決めて解散した。


部屋に戻ると、持ち物を先に部屋に置いてあったバッグに詰める。私が持っていくものはお菓子だけだが。

夜ご飯まで後15分はある。本でも読んでいよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜ご飯を食べ終わり、荷物を持つ。服は制服だ。私服もないし、戦闘服ではいけない。ここに置いてあるものは豪華すぎて困る。最終的に制服となった。


愛花の部屋のドアの前に立ち、ノックする。


「愛花ー入っていい?」


中からどうぞという声が聞こえ、開ける。

部屋にはもう私以外の全員が揃っていた。

部屋の仕様は私と全く同じだったから、全員同じなのだろうか。


「遅いよ咲!」


「ごめんごめん。その代わり、私の部屋に置いてあったクッキー持ってきたから許してー」


「…まぁ、許そう。」


「いや何様?」


「愛花様。」


「なにそれ」


愛花がトランプを出し、何をするか決める。

まず私達はババ抜きをした。


「うぁぁあ?!」


最初に引き当てたのは里奈らしい。小さく悲鳴を上げていた。分かりやすい。

対して分かりにくいのが由紀子と愛花だ。眉さえ全く動かさない、素晴らしいポーカーフェイスだ。

咲は愛花がわかりやすいと思っていたが、意外にも全く表情が動かないので驚く。


とはいえ、負ける気は全然咲にはなかった。何故なら、ポーカーフェイスには自信があるからだ。

どんなことにも動じないと内心でほくそ笑む。


実際はすごく分かりやすかったりするのだが……知らぬのは本人だけである。


ゲームを進め、由紀子からスタートする。由紀子が里奈のカードを取り、愛花が咲のカードを咲が愛花と進めていく。

由希子が里奈を弄りだす。


「ジョーカー何処にあるかな?」


「な、ないよ?」


必死に取り繕っているが、バレバレである。目線がずっと同じカードだし、動揺しまくりだ。

ズケズケと由紀子に責められ、早くも里奈は涙目である。


細く長い指がカードをつつく。


「此処かな?それともこっち?」


「うぅ……」


何を言っても勝てないと悟ったのか、黙ってしまった。

結果ジョーカーは引かれず、由紀子のカードが揃ってしまった。


「あぁ…。」


里奈は悲痛そうな声を上げていたが、これは勝負なので誰も構わなかった。


そして、ゲームは由紀子の圧勝だった。里奈からどんどんカードを取り揃えた由紀子が勝ったのだ。


「も、もう一回やらない?」


悔しかったらしい里奈がもう一戦望んだ。


時計を見ると、もう11時だった。確かに後1戦ぐらいは出来どうだ。

全員が賛成し、咲はカードを用意してくれてる間に愛花が用意してくれていたお茶を飲んだ。予想外に自分が飲んだもので、のどか湧いていたのかなあとぼんやり考える。


「次は誰から始める?」


「さっき負けた里奈からでいいんじゃない?」


「そうだね。……っ!?」


突然強い目眩が咲を襲った。少し時間を開けて気持ち悪さと吐き気が来る。呼吸がしづらくなり、息が荒くなった。

倒れそうになったのがどうにか壁に手をついて、留まる。

回復をかけようにも集中出来ない。ゼファスさんに急いで回復をかけてもらった方が良いと思い、里奈達に帰っていいかと言い主催者の愛花を見ると…




嗤っていた。




笑っていたのではなく、嘲笑う方の嗤うだった。

咲は思わず息を飲む。


「やっど飲んだね。遅いよ。」


「な…んで嗤って……」


「お前が憎いんだよ。」


声の主は里奈だった。その表情は可愛らしい顔を歪め、醜いと表現すべき表情だった。

いつもの愛らしい声ではなく、低い、本当に憎いと思っている声で、咲は凍りつく。

咲の理解できていない顔を見て苛ついた里奈は、更に罵倒する。


「お前は何時も何もわかっていない!そのくせ私を馬鹿にして、欲しいものを全て持って……!」


また苦しさが咲を襲う。呻き、のたうち回る咲を、嗤いながらただ眺めている愛花は恐ろしかった。

由紀子を見ても憎々しいという表情をしていて、助けてくれるものは誰もいないと気付いてしまう。


「全て持って…?…お願い、たすけ……て…ああ!?」


助けを求める咲を蹴る。咲の目にその姿がとても楽しそうに映り込む。

咲は部屋の中央から無抵抗に転がった。お客用とは言え一人部屋ではすぐに壁に当たってしまう。

蹴られた衝撃と壁にぶつかった事で、呼吸が更に苦しくなる。途中息がつまり咳をすると、血が出た。

ただの薬ではないらしいと解決方法を考えようとするが段々と麻痺も襲ってき、すぐに崩れてしまう。


それを見た里奈が眉をひそめる。不快そうな顔だが、口はやはり薄っすら嗤っている。


「あら汚ったない。ねぇ愛花、汚物は外に捨てるべきよね。」


里奈の言葉に脳が一瞬理解できなかった。いや、したくなかった。

親友…咲にとってはそんな存在だったから魔法ぐらい把握している。だから、外に捨てるという言葉が示す行動も推測できてしまう。


だが時間が経つにつれ、頭に染み込んでいくように理解する。


「や…だ。やめて……!…ぅぁ」


「五月蝿い。黙ってろ。」


咲を見る里奈の目は侮蔑、憎悪、負の感情が沢山混ざったもので染まっていた。

助けを乞おうにもその目に恐怖して、言葉を無くしてしまう。


「ねー、私さ転移魔法、結構使えるようになったんだよね」


更に絶望するようなことを言ったのは愛花だった。


いつも通り笑っているが、それが先は逆に怖く思えた。

聞いた里奈の口角が歪に上がる。


「愛花、魔国に送ることってできる?」


「出来ないと思うけど……ジェームスプレースに飛ばすことは出来るよ。」


「愛花ナーイス!」


3人でいつものように盛り上がっている。だが、内容は自分をどうやって殺すかだ。恐ろしい以外の何者でもない。


今言ったジェームスプレースというのは魔国付近の小さな国で、愛花や転移の魔法を使える者だけが特訓の為に行ったことがあった。


転移魔法は一度行ったことがある場所に対象を転移させることができる。

咲はそう聞いている。


…そういう事だ。


怖いという言葉じゃ足りないぐらい恐怖で支配される。

3人を見る事が出来ず、唇を噛んで苦しみを耐えていた。


最初に比べ苦しさは増し、回復魔法をかけようとしてもやはり集中ができず、魔力が散乱してしまう。


「さっさとやろーよー!ほら、遅くまで起きてると私達が疑われるよ?」


「そうだね。愛花よろしく!」


「そんじゃあーー''転移、ジェームズプレース。対象は本城咲''……じゃあね、咲。また会わないことを願っているよ。」


苦しんでいる間に転移の魔法をあっという間にかけられ、咲は最後まで呪いのような言葉を聞きながらハツウィナから消えた。

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