ダンジョン
それから一週間、咲たちは鍛錬をやっていた。
もう丸一日と言っていいくらいの時間を毎日鍛錬で詰められていた。その間ずっと付いていてくれた先生達は可哀想だと咲は遠い目になった。労働基準法なんてこの世界ないと知ったときはクラス全員が同情してしまった。
そしてみっちりやった咲のステータスはこうなった。
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名前: 本城咲 レベル.1
性別:女
年齢:17歳
職業:双剣使い・魔導師
HP.200/200
MP.6000/6000
筋力:400
体力:600
耐性:100
敏捷:10300
魔力:10000
スキル:エアーカッター・ファイア・ウォーター・ハルス・殺気・威圧
死祭り・パワーソウル・アジリティソウル・ヒール・ハイヒール・
ダブルアタック・ダブルカッター
言語理解・魔力回復速度上昇・体力回復速度上昇・限界突破
称号:勇者・異世界者
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体力以外あまり上がっていないが、一週間でこれは凄いとのこと。どうやら一週間みっちりやっても、20上がればいい方らしい。勇者のチートがこうしてるのだと咲は予想する。少し前空いた時間にもしかしてと思い、称号を叩くと、説明が出たからだ。
異世界者というのは特になんのステータス補正はないが、勇者が成長速度が上がるとあった気がするのだ。咲自身、記憶力はそこまで高くないのでおぼろげだが。それでも上がるを超える速度で成長してると思うと愛花に言ったら気にしたら負けだと返され、咲は少し現実逃避した。
そしてスキルも増えた。双剣の技と魔法だ。技は『ダブルアタック』と『ダブルカッター』。ダブルがつくのが双剣の技みたいだ。
実際カータスのスキルにはダブルが付いておらず、カッターとアタックだけだった。持ってるんだと言ったら基本の技だからと返された。とりあえずイラついたツバキは足を蹴った。カータスが涙目になって転がりまわったのは言うまでもない。
そして魔法だ。咲は短期間に沢山の魔法を取得した。
『死祭り』は名前の通り、使ったらたくさんの人が死ぬ。自分から半径15mの範囲の者を即死させるというおぞましいスキルだ。一生使わないと咲は決意した。
『殺気』と『威圧』についてはそのまんまだ。殺気は相手に対し殺意を当てる。威圧はプレッシャーのようなものだ。会ってすぐ団長が使ったのがこれらしい。なんで咲が取得できたかというと、カータスにちょこちょこ圧を加えていたらゲットしていた。
『パワーソウル』と『アジリティソウル』はバフ系の魔法だ。他人にかけられる魔法で、これは鍛錬の課題だったからだ。
パワーソウルは攻撃力、アジリティソウルは俊敏が上がる効果がある。
あとは魔力回復速度上昇などだが、これはクラス全員が持っている。厳しい鍛錬を耐えたから取得したものだ。限界突破は国王が巻物を用意してくれ、それを読んでゲットしたものだ。どうやら前にも異世界人が来たことがあるらしく、異世界人が遺したものだと言っていた。
ちなみに団長が日本人というのは本人が騎士達がいない時に自分から言ってくれた。咲はよく言おうと思ったなとある意味尊敬をした。
そして少しは強くなり、隼人のステータスが全て3000を超えたところでついに待っていた時が来た。
咲達はいつもの場所へ集められ、それぞれ武器を持つ。咲は腰に剣を括り付け、魔法の為に杖を手で持っていた。団長が前に仁王立ちして話し出す。
「さて、お前らも少しは強くなっただろう。今日から実戦に移ろうと思う。」
その言葉を待っていたのか、クラスメイトたちが歓喜の声を上げる。咲も里奈たちと顔を合わせ喜ぶ。
一瞬で騒がしくなったが、団長の一声で静まる。
「静かに。浮かれているところを悪いが、注意をして欲しい。ダンジョンに行くが、我々が安全と確認を取るまで、不用意に触るな。トラップというものもあるからな。そして、安全第一に行動しろ。集団で行動するんだ。強いからと調子に乗ると、いくら常識を越した強さでも死ぬ時は死ぬんだ。」
その言葉に咲は息を飲んだ。
確かにそうだ。いくらチートといっても不死身ではないんだ。油断していたり数の暴力には勝てない。
あの、最初に消えた奴…佐藤。あれがいい例だ。激昂して、冷静さを失い刺激して消えたのではないか。日本では平和だったから死という言葉にピンと来ないが、油断していたら真っ先に死んでしまう。咲は自分の考えの浅さに表情を硬くした。
「いざとなったら我々を頼れ。必ず助ける。死んでは元も子もない。では行くぞ。」
さっきまで緩んでいた空気が引き締まる。団長として生きてきて長いんだろう。その言葉には確かな重みがあった。
ダンジョンは意外と近くにあった。歩いて15分で洞窟風のダンジョンに着いた。だが受付の人とかがいない。アイテムをゲットした時換金する人がいないではないかとそばにいた騎士に聞いてみると、そういうのはギルドでやるらしいが、勇者達には関係ないと言った。もしも元の世界に帰れなかったら、一度は行ってみたいと咲は一つの目標を心に留めた。
「さて、これから入るが、行く前に私が言った言葉をもう一度思い出し、気を引きしめろ。」
団長を先頭に進むと、ドアが現れた。恐らくモンスターが出るのを防いでいるのだろう。
ドアを開け、さらに進む。皆が緊張で体が震えていると、ついにモンスターが現れた。
スケルントンだった。骸骨が動いているのはホラー映画でしか見たことがなく、実際に見てしまうと全員の身体が竦んだ。
「グァァ」
その声が聞こえたのか、左右それぞれの道からスケルトンが湧く。
合計でスケルトンは三体となった。
「さあお前ら!日頃の鍛錬の成果を見せろ!」
その言葉に咲の闘志が沸き上がった。
今までの日々が自身に繋がり、踏み出す足を手助けしてくれる。
頰を叩いて自身に喝を入れると隣にいた里奈達が吃驚したように咲を見た。
「いきます」
「本城と誰かいるか!」
「僕が!」
隼人が進みでる。
隼人の方を向くと視線が合った。
「行くよ、咲」
「とーぜん。魔法で援護するから、近接をお願いできる?」
「それこそ当然。咲に危ないこと任せられないよ。」
いつものように言葉を交わすと咲は少しながら心が軽くなったのを感じた。
息を吸い、杖を構える。王国が用意した杖は、魔力がすんなり通る。
「『パワーソウル』、『アジリティソウル』!」
咲のバフの詠唱を合図に隼人が動き出す。
(速い…!)
咲の魔法と元の速さのせいか、咲が辛うじて目で追える速さだ。多分他のクラスメイト達は見えていないだろう。
数十メートル空いていた距離はあっという間に縮み、スケルトンを攻撃する。普通の攻撃だったが、一瞬でスケルトンは光となった。
そして次のスケルトンの方へ向く。剣を一振りするとまた光となる。
咲は映画でも見ている気分だった。
余裕でいけると思った瞬間、スケルトンが隼人の後ろから斬りかかった。
危ないと誰が言っただろうか。後ろで言った人がいたような気がしたが、咲は既に行動へ移していた。
「『エアーカッター』!」
一番速い風魔法を展開した。魔法はしっかりスケルトンへ当たった。
後ろの魔力を感知したらしい隼人は驚いたようにこちらを向いた。
「こっち向いてないで敵を早く、お願い!」
咲の魔法ではやはり一撃とはいかず、まだスケルトンが残っている。
「あ、ああ。すまん!」
そして剣を振るい、スケルトンはいなくなった。
隼人がこっちに戻ってくると咲は説教をした。
「もう、戦闘中に油断したら危ないでしょ!気を付けて!」
「すまん。別の事をつい考えてしまって。以後気をつける。」
うんうんと咲は満足する。隼人は反省をきちんとする男なので、多分これからは大丈夫だろうと安心する。
そんな咲達は側からみれば恋人そのもので、これが誤解を生むのだが咲は気付かないのだった。
やはり勘違いをしたらしい団長は「リア充め」と呟くと先に進む。爆発しろと言わなかったのは理性がとどめたのか。
そんな団長を騎士さん方が肩に手を置いて慰めた。
さらに進むとまたスケルトンが出てきて、他の子が友達と一緒に倒していく。里奈たちは三人で倒しているようだ。あまりにもサクサク行きすぎてこれが普通なのかと団長を見ると苦笑していたから、きっと私達がチート過ぎるのだろう。
そして、一層が終わり次へと続くであろう階段があった。
「これから二層へと入るが、HPとMP共に大丈夫か?」
咲が確認すると、MPが200減っていた。多分だが咲自身が戦闘をしていなくても、バフをかけていたからその分凄く減りが早かったのだろう。魔法職がいるグループは自分が掛けず、その人に任せたが、20人に掛けたと思えば妥当だ。HPは減っていなかった。
二層へ行くと迷路になっていた。明かりがあるのでよく分かる。先程は簡単な四角の空間だったが、此方は複雑そうな道だった。最初から左右に分かれ、道がうねっている。ぶっちゃけ咲のSAN値がホラーすぎてガリガリ削られている。ここからモンスターが出ると思うと、咲は泣き出したくなってしまった。やられる前にやれ、これ大事だ。
「シュゥゥゥ……」
「!」
団長の前に蜘蛛型のモンスターが見えた。咲達の膝ぐらいの高さだが、いかんせん横に大きい。直径2mある。倒すのに苦労しそうだ。というか見た目がキモイ。
「では先程の順番で倒していこうと思う。」
本城、高田と呼ばれ前に出る。数十メートル先にいる敵はこちらに気づいていないようだ。
「『パワーソウル』『アジリティソウル』」
咲は一層のスケルトンを倒したからか、レベルが3まで上がった。お陰でMPが増えて、新しいスキルも取得した。
隼人もレベルが3まで上がって新しいスキルも取得したのかは分からない。が、勇者補正で、ステータスは凄まじくなっているだろう。だから迷わず突っ込む。その速さは瞬きをする暇もない。
「『アタック』!」
隼人がスケルトンの時使わなかったスキルは今使っている。だから咲もそれに合わせて新しいスキルを使う。
「『スキルオーバー』!」
魔法職の基本、スキルオーバーの効果は、対象の者のスキルの効果を10%上げるというものだ。効果は20秒だが、必要MPが少なく、咲のMPなら連発できるレベルだ。ゲームみたいにクールタイムがないから更に便利なスキルだ。
隼人は思ったより攻撃力が高いことに驚き、直ぐに先ほど咲が叫んだスキルだと悟る。
次々に攻撃を叩き込み、僅か5秒で戦闘が終わった。咲にも手助けをしたから、XPが入る。4にレベルが上がった。
次の人に変わると、隼人が話しかけてくる。
「さっきのスキルってなんなんだ?」
「スキルオーバーのこと?あれは対象のスキルの効果を上げること。アタックだったから私も持ってるから迷わずかけたんだよね」
「そんな感じか。多分これからも一緒に組むと思うからさ、出来れば新しいスキルを取得したら教えて欲しい。僕も教えるし、分かっていた方が連携しやすいと思うんだけど。」
「そうだね。了解!」
隼人の言葉に咲は納得した。確かに、知らない魔法かけられたら驚いて動きが鈍ってしまうかもしれない。以後気をつけようと、咲は頭に留めておいた。
「あ、隼人いきなり突っ込むのは危険だから気を付けてね。」
「悪い悪い。」
「全然悪いと思ってないよね!?」
「そんなこと思ってないよ?」
絶対に思っていないと咲の目が訴える。
超ド級のジト目を食らった隼人は咲の髪をクシャクシャにするように撫でると、笑いながら否定した。
咲は更にジト目を強化した。
「僕のこと心配してる?」
一瞬の間を空けて、
「当たり前じゃん、幼馴染だよ?」
「…そっか。サンキュ」
なにを今更なんだろうか。幼馴染を心配するのは当然と咲は常識と思った。
隼人は微妙な顔をしていたが、咲にその理由が分かるわけがなかった。
こんな恋人ごっこみたいなのを見せつけられたクラスメイト達と団長はリア充爆発しろと言いたげな顔をしていた。そしてその中の数人が今にも殺したいような顔をしていたが、誰も気付かなかった。