鍛錬
なんだかんだあったが無事に鍛錬は始まった。
一人一人に教師が付き、課題を出され鍛錬の間にクリアするというような感じだった。
咲付きの先生はカータスと名乗った。何故名字がないのかと聞くと、名字を持つものは高位の人だけらしい。ゼファスが持っていたのは高位の者だからだろう。
そして二つ職業がある関係で咲は人一倍課題を出された。しかも魔法と剣と正反対なので、両立は難しそうだった。先生は二つ職業があるなんて素晴らしいと言っていたが、咲はどう考えても化け物寄りの恐れられる存在だろう、と思った。
そう考えないということはこの先生馬鹿なのだろうか。脳筋なのか。咲は思わず白い目で見た。
そんな目で見られたということが分かっていないのか、白い歯をキラリと輝かせ笑った。
「さあ、本城様、始めましょう!どちらから取り組みます?」
咲に出された最初の課題は、双剣を扱えるようになること、魔力操作のスキルを取得することだった。咲はどちらかというと地球では双剣が好きだったので、双剣を先に選ぶ。この世界には双剣という概念がないらしく、一本の剣が普通らしい。なので、あまり教えられないということ。ゲームの知識を使って上手くならないといけないみたいだ。
剣を二つ用意するよう頼み、先生に確認される。
「双剣とは、剣を二つ扱うことでいいですか?」
剣を二つ渡される。しかし、騎士が使う物を渡された為、咲は持つので精一杯だった。
「はい、出来れば1番軽いのがいいのですが…?」
片手で扱えるものではないと思う。振り回すのは無理だ。
咲の言葉にしばし考えるようなそぶりを見せると、すぐそばにいた従者になにかを囁く。言われた従者は驚いた顔を見せたが、カータスが睨むと慌てて何処かへ行った。
高位の人ではないのではと心の中でツッコミを入れたが、あの従者の反応から考えるとカータスが頼んだ剣は、訳ありか今持っているものより上位のものなのだろうか。
少しの間カータスに剣を扱う時の注意を聞いていると、人1人隠れられそうな荷台がやってきた。
(あ、あれ?剣なんだよね…??)
何故荷台で!?と思ったが、皆さん動揺していなかったので、必死に顔には出さなかった。
持ってこられた剣は先程のものより細やかな装飾がされ、対となるような二つの銀色の剣だった。
咲は自分で思った事に、違和感を覚えた。
(二つの剣?……双剣はこの世界になかったのでは?)
疑問を抱きつつ剣を持ってみるととても軽く、片手にそれぞれ持つと不思議と手に馴染んだ。攻撃力は低そうだが、咲は気に入った。だが、さっきのものより高級そうなのが気になる。
しかし持った時驚いた顔をしたカータス達の方に意識が向く。
「あの、これさっきの剣より高級なような気が…?」
聞くとカータスは驚いた顔から一転、微妙な顔で答えた。
「そうとも言えますが、違うとも言えます。」
この言い方だと訳ありなよう。
咲の予想は見事的中したようだ。
「実はこの剣は昔、王国一の女騎士が使っていたもので、その人も剣を二つ使っていました。それを見た周りの人も真似しようとしていたが、まず両手で扱うのが難しかったのです。なので女騎士が使っている剣に何か魔力があるのではないかと、騎士達は持とうとしました。しかし、剣が認めた人しか持てないらしく、持とうと思うと途端に重くなりました。だがら、その人だけの剣でありました。」
女騎士!
咲の目が輝く。
しかしここで問題となってくるのがどうしてそれを分かって自分に持ってきたのかということ。そして実際にモテたことだ。
後者は多分職業ゆえだ、と説明をされ、次に移る。
「私が持てないという可能性は考えなかったのですか?というかそれならば高級なのでは?」
「おま…本城様が持てそうなのはそれぐらいしかなかったんです。二つ目の質問については今わかりますよ。話を続けるますね。
王国一と言ったが、その人は王国を憎んでいたんです。」
突然始まった昔話に咲の動きが止まる。
「あの人は表面上は王国を尊信しているようにみえたが心の内では憎んでいました。理由は分かりません。しかし、誰もその気持ちに気付かず、事件は起こってしまいました。」
事件?本の王国の歴史にはなかったが?
カータスは悲しそうに目を伏せながら続ける。
「ある日、ドラゴンが王国に現れ国中の騎士が派遣されました。勿論女騎士も。結果としてドラゴンは討伐されたが、半数以上の騎士を失った。騎士達は友人を失った悲しみに暮れ、女騎士は………愛していた人を失った。」
咲は思わず口を手で覆う。そうしなければ悲鳴を上げそうだったから。
「それがどれだけの悲しみだったかは知りません。しかし、国王に報告に行く初代団長は隣にいた女騎士からすごいプレッシャーを感じたと記されています。そして王へ報告に行くと、王は、嗤っていたらしいです。
まるで騎士が死んだのが愉快というように。面白いと言うように。それを見た女騎士は、今まで積もりに積もった憎悪が爆発し、その場に居た人たちを全員虐殺しました。
それだけでは足りず、城の外へ出て残っていた騎士を全員殺し、誰も止められず、王国は半壊しかけました。女騎士は不意打ちによる攻撃で死んだらしいですが、王国を立て直すには時間が掛かったと聞いています。二度とこんな悲劇が起こらないよう、これは騎士と王族の間でいつまでも語り継がれている。
………こんなとこです。大丈夫ですか?」
咲は呆然としていた。何も言えなかったのだ。その女騎士はどんな気持ちだったのだろうか。愛する人を失った悲しみ、人を殺す感情、想像もつかない。
「大丈夫です。………そんな剣だったんですね。」
「嫌でしたらもう少し軽いのでよければ、違うのに変えますが。」
「いえ、この剣でいいんです。……なんか離れませんし。」
「は?」
思わず素の口調が出てしまったカータスを見る。
咲からしたらこっちが聞きたいのだが。
実は話聞いている間にこの剣が怖くなって離そうとしたら手から離れなくて、気合いで離そうとしたら腕輪に変わって腕輪から剣が出せるようになって、腕輪外そうと思ったら外せなくて……。
呪いかと突っ込みたくなるこの現象に咲は諦めた。
「ええ……と、取り敢えず分かった。空気も軽くなりましたし、鍛錬始めましょう。」
「そうですね。始まるまで長かったですけど。」
「黙れ、勇者様。」
「……前から思っていたんですけど、時々素が見えるのですが。」
「そんなことはない。」
「口が」
「そんなことないですよ。」
調子がいいカータスに脅しをかけてみる。
「……ゼファスさんに言います。」
「いえ、勘弁して下さい。あの人勇者を雑に扱ってるっていうと滅茶苦茶怒るんですよ!」
意外と効果覿面だった。
「いいこと聞きました。」
「…魔王になっては?」
「黙れ糞教師。」
「急に辛辣になった!?」
仕方ないだろと咲は呆れた。もう猫をかぶるのがめんどくさいレベルでこの教師ダメだと感じたのだ。
(脳筋なんだ…はぁぁ)
咲はそろそろ始めなければいけないと思い、茶番を終えた。
「さ、お願いします先生♡」
「うん、その笑顔の根元が知りたいな。」
「剣の持ち方とか、振る角度とか…」
「スルーされた。」
「先生?」
「分かりましたからこっちに剣向けるのやめてくださいというか剣の扱い完璧じゃないですか!?」
ノンブレスってすごいね。咲さん思わずにっこりになってしまうよ。
「…この生徒怖い」
「黙れ……剣ってどうやって持つのですか?」
「あれ?さっき黙れって聞こえたようなごめんなさい気のせいですだから殺気向けるのやめてください」
確認したら咲のステータスのスキル欄に『殺気』が追加されていた。
咲はこんなんで手に入っていいのか!?と凄い突っ込みを入れたかった。
「で?」
「えーっと剣は………」
やっと始まった鍛錬は道草をお腹いっぱい食べながら進んでいった。