ペアリングが…
かなり短めです。
「……ふふっ!」
現在ツバキとレンはデート中だ。街デートだ。
ツバキの心は浮き立っている。
(地球では縁のなかった…!)
誰かが可哀想になる鈍さだ。
「ご機嫌だな。そんなに嬉しいか?」
「レンは嬉しくないの?」
ローブの中からチラリと見える上目遣い!効果は抜群だ!
脳内で理由もないのに自分をはっ倒す。
「いや嬉しいさ。何を見る?」
ツバキは悩んだ。ホテルに入る前にちらっと見たが、特に興味を惹かれたものはなかった。
「うーん…レンは何かある?」
「…アクセサリーを見たいがいいか?」
「…?いいけど。」
レンって好きなのかな?とツバキは驚く。
目当ての店は右に曲がって少し進んだ先にあった。
ドアを開けるとカランカランと乾いたベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜!」
「ペアの指輪ってあるか?」
「…え?」
(あれ、今指輪って聞こえたような…)
「ちょ、レン?」
「折角だから何かお揃いの物でもつけたいなって。じゃあ指輪にしようと思って。」
(嬉しいけど…いきなり指輪!!)
「ペアの物ですと…こちらですね。」
女性が指したのは翡翠色の宝石がついた指輪だった。
ツバキは吸い込まれるような翡翠にうっとりした。
だがレンは不満そうだ。
「…赤に出来ないのか?」
レンが赤にならないかと言ったのは指輪についている宝石のことだ。
女性は顔を曇らせた。
「…赤ですとルビーとなり、かなり高くつきますよ?」
「構わない。出してくれ。」
「分かりました。」
会計の奥から箱を持ってくる。
蓋を開けてもらうとルビーのついた指輪が二つある。
「うわぁ…!」
自分の眼のような色に感嘆の声が出る。
レンもこの色に満足して、購入することを決めた。
「いくらだ?」
「500万ペイルです。」
たしかに高い。普通の人ではまず無理だ。
ツバキも日本人の感覚から、口が引き攣った。
「レン。流石にこんなにかけるのは…。」
「お釣りはないだろうからこれで。」
「畏まりました!」
レンは金貨を取り出した。
金貨に臆する事なく女性は受け取ると、ニヤニヤした。今月の売り上げを考えると、どうしても抑えきれなかったのだ。
ツバキはショートしてた頭が急速に回復すると、とんでもない金額を出した事に、驚く。
「マ!?」
思わず変な声が出てしまう。誰も責めないであげて欲しい。
「お金があるからって…これから色々買うのに指輪に使っていいの!?」
「まあいいだろ。どうせ金は腐るほどあるし。」
「全世界で苦労している人が泣くよ。」
複雑な気持ちで指輪を受け取り、左手の薬指に付ける。
少し大きかったが、指輪に何か魔法が付いているのか、ツバキにぴったりとハマった。
キラキラと光に反射するルビーに、呆れていた事も忘れ、ただ心を奪われる。
「綺麗…」
レンも付け、フードの中で破顔した。
女性に向き直ると、お礼を言う。
「良かった。ありがとう、いい買い物ができた。」
「いえいえ!お幸せに!」
女性は笑顔でツバキ達を見届けた。
ツバキ達は外に出ると、次どこ行くか話し始めた。
***
女性は客が遠ざかっているのを確認すると、自身の身体にかかっている魔法を解いた。
光から解放されたのは、長い耳と輝く金髪が特徴のハーフエルフだ。
よろよろと椅子に座ると、机に突っ伏す。
「ふぅ…とんでもない人たちだったわ…。」
女性、もといヒルデットの背中は冷や汗をかいていた。
ヒルデットはツバキ達の実力に気がついていた。
といっても正体までは分からなかったが。知ったら失神ものだ。
「何、あの魔力。私の腕輪が壊れちゃったじゃない。」
ちらりと付けている腕輪を見て、溜息をつく。
ヒルデットが付けている腕輪は相手の魔力を測る、魔力測定器だったのだ。
だが二人の魔力量を前にして、測定器にヒビが入ってしまった。
「最高傑作だったのに…」
ハーフエルフの寿命は長い。
なので、長い時間を使い発明した傑作の一つが、この魔道具なのだ
そのなかでも自信作だったのだが、今ここで壊れてしまった。
「また作るから…ぁあでも面倒くさい!」
エルフのように寿命が長くとも、この魔道具を作るのかかった時間は考えたくないほどだ。作業時間に目が遠くなる。
「あの人達に何か一つでも文句を言えば良かったかしら。」
ぶつくさ言いながらも、closeと書いてある札をドアに掛ける。
あの指輪が売れたのならこれ以上店を開いている理由はない。
「でもなんで分かったって言われるとなぁ…ハーフエルフと知られると何されるか分からないし。」
この世界でのハーフエルフは、この美貌から奴隷にされることが多い。
だからこうして正体を隠して商売をしているのだ。
亜人と同じ扱いには反吐が出るが、言っている暇があったら自分を守る手段を増やすしかない。
ヒルデットは何百年か前に会った人を思い出す。あの人は自分の正体を知っても普通に接してくれた。だが人の体であるあの人も今は亡き者。悲しいが、それが人生だ。
感傷に浸っていると、ヒルデットは大事なことを思い出す。
「あの指輪って何の魔法をかけたっけ?」
ヒルデットは全ての商品に魔法がかけてある。
といってもほんの少しだが。例えば運が上がったり、リラックス効果があったり。基本的にはつけた人を補助するようなものだ。
「あれはルビーよね。ルビーは赤いから…赤の系統は…あ!?あれは冗談で魔法をかけたものじゃない!」
冗談出かけた魔法は、とんでも効果を持っている。
それは運気を急激にあげるもの。誰も買える人などいないから、遊びでやっていたものだ。
「あはは…あの人達に渡っちゃった…。」
乾いた笑いが出る。これ程最強で最悪の組み合わせがあるものか。
「ううん、私は知らない。私は知らない!」
どうにかこの世界の害になる事はしないで!とヒルデットは願うことしかできなかった。
いつも読んでくださる方々に感謝申し上げます。
完全なる趣味となりますが、これからも読んでくださると嬉しいです!m(> <)m
次回魔王と対決になります。