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勇者side…《最愛の彼女》

隼人サイドの病み要素高めです。(苦手な方は最後にまとめだけ提示しておきますので、そちらをどうぞ)

「咲がいない!?」


隼人はおそらく人生で一番の衝撃を受けた。


時は咲が飛ばされた次の日。

朝食の時間に現れなかったのは単純に寝ているのかと皆そう思った。確かに昨日は疲れたから仕方ないな、と。

だが訓練場の時間にも間に合わなかった。

不審に思った兵士が部屋に呼びに言ったが反応がない。女性の部屋を開けるのではないと、里奈が渋っていたが、やむを得ず扉を開けると、誰も居なかった。

隼人もまさか失踪するとは思いもしなかったのだ。

ゼファスは悔しそうな顔をした。咲は隼人と並ぶチート者だった。失ったのが痛かった。

だが、隼人からしたらその程度なのか!?と問い詰めたい。何故ならその反応が『咲』を失ったというより、勇者を、『咲』が居なくなったと言うわけではないように思えた。代わりを用意できる。その程度に聞こえた。

実際その通りだった。ゼファスは咲に思い入れなどないのだから。

しかし、隼人はそうはいかない。

『咲』でなければいけない。失ってはいけない存在なのだ。


***


隼人はそれなりにモテていると自覚していたが、肝心の意中の彼女には気持ちは届いていなかった。

咲だ。

鈍いというわけではないのだが、どうしてか恋愛感情には鈍感な咲。

しかし、もしも咲が自分の思いに気がついても、隼人は自分を好きになってくれる可能性は低いと思っている。

何故か。それは咲と出会う前の自分はもっと陰湿なのだから。


隼人と咲は幼稚園から一緒の幼馴染だった。

底なしの明るさと無条件に人を信じる咲は、当時内気な隼人を救った。


「ねぇねぇ、あなたはだれ?」


(あの日声をかけてくれた事は忘れない。)


誰とも仲良くできなくて、部屋の隅で本を読んでた隼人に話しかけてくれて、太陽のような笑顔を向けてくれた。

これが始まりだった。


その後は少し話したら、人気者の彼女は友人に呼ばれ、行ってしまった。

残念にも思ったが、自分の存在に気づいてもらえだけ良い、と割り切った。

だが、次の日もいつものように本を読んでいると、ごく普通にとなりに彼女は座り、隼人が読んでいる本に興味を示す。

その次の日も。当然のように話しかけてくれた。

いつしか隼人たちは一緒にいるのが普通になった。


今日も隼人が本を読んでいると、いつのまにか隣にいる。

集中状態の脳に、一つの声が届く。


「はやと、きょうはなにをよんでいるの?」


咲の声に顔を上げると、読んでいた本の表紙を見せる。


「シンデレラだよ。さきはしってる?シンデレラ。」


「うん!わたしはほんもよむんだよ!だからしってる!」


「シンデレラはすき?」


これはほんの好奇心からだっだ。だけど次の一言で隼人の人生は変わった。


「うん!わたしはしょうらいおひめさまになるの!」


当時咲が好きだと自覚していた隼人は、僕が王子様になるよと言おうとした。だが、言い止まった。本を読みふけっていたせいか、実年齢よりも隼人は大人びて、まだ幼いにもかかわらず、今の自分では眩しすぎる彼女に釣り合わないと感じたのだ。

悔しい気持ちが芽生え、隼人は決意した。


(ぼくはさきにそうおうしいおとこになる。)


「どうしたの?」


返事がない隼人に咲は首を傾げた。


「なんでもないよ。…いつかおうじさまがあらわれるといいね。」


「うん!」


無邪気に答えた咲に隼人は目を細めた。

そこから隼人は別人と言えるほどに変わった。


まずは外見から変えようと、目にかかっていた前髪を切った。

晴れた視界は、心なしか明るく見えた。

その次に行動したのは勉学だ。誰よりも賢くなるために、苦手な教科も頑張って頭に叩き込んだ。スポーツクラブにも入った。才能はなかったが、誰よりも運動が出来るためにという一心だけで、天才と言われるまで上り詰めた。

今までかけられたことのなかった賞賛の言葉は、隼人に自信をつけた。

自分に自信がつくと、自然と隼人の性格も前向きになった。


何故か女子が話しかけてくれるようになり、疑問を持ちながらも会話はする。

それが好意からだというのは小学生になってから分かった。

沢山の人が絶賛する。しかし、隼人の耳には、一人の声しか届かない。


咲だ。


突然の変化に戸惑いを持ちつつ、咲は隼人を凄い凄いと褒めちぎる。咲に言われるからこそ意味があった。

そんな咲も、小学校高学年の時、友人の影響で最近はやりのゲームに手を出し始める。

ゲーマーの才があったのか、咲は僅か二年でトップクラスとなった。プレイヤーならば聞いたことがあるような、ぐらいの知名度だ。

しかし、それと同時に咲はメガネをつけはじめた。

髪型も無造作におろしているのがデフォルトとなった。

本人は癖っ毛を気にしていたが、そんなでもないだろうと隼人は思った。その姿さえ可愛く見えて、


そんな咲だが、中学に入ると環境が変わり、咲も女子同士の関係が濃く現れた。

元々勉学も運動も平均以上だった咲は、性格と相まり、それはもう男女関わらず好かれた。

だが、段々と言動に毒が混じってくると、女子は離れていった。聞いてみると、棘のある言葉に耐えられなくなったらしい。


これに隼人は眉を顰めた。

大人になってくるとそれぐらいは普通だし、幼稚園の頃から言われてきた言葉だ。馬鹿だ、出来損ない。咲なんてただの冗談を普段から口にしていたに過ぎない。

今では言われなくなったものの、貶されるのは日常茶飯事だったからだ。


離れて行く友人に傷つくが、自分のせいとわかっているのか、咲は何も言わない。困ったような、悲しいような顔をしているだけだ。

いつしか側には三人の女友達しかいなくなった。


隼人はなんだかんだ言いつつ咲と仲良くしている、里奈達を高く評価していた。

だが何を勘違いしたのか、熱を持ってみてくるのはうざかった。

それでも咲の()()だからと気付いていないふりをした。


一つ誤算があったとすれば、男友達は多かった。

男子の友情は思った事はすぐ口にするさっぱりとした感じなので、咲の毒を含む会話は問題なかった。

だが褒めるところは褒めるから……モテた。


告白されたと聞いた時は、焦って本人に聞いてしまった。

照れながら言う姿はとても可愛らしく、隼人は面白くなかった。

振ったと咲の口から言われた時どれだけ安心したか。


こうして咲に翻弄されながら隼人の中学は終わった。


高校。

隼人と咲は腐れ縁なのか、また同じクラスだった。

咲に話しかけようとする輩が居ると、その前に話しかけて、牽制する。

絶対に他の男に渡したくなかった。


里奈たちと仲良くしているのを微笑ましく見ながらも、好きだよとさりげなく言ってみるが、鈍いのか知らないが、咲が気づく事はなかった。

だが高校に入ってからどうにもつまらなそうな顔をしているのが気になった。


理由が分からないまま二年生に進級した。

咲は小説を書いてお金稼ぎをしていた。書いた小説は大ヒットとはいかないが、売れはした。将来のためと言っていたが、本当の目的は分からなかった。もしかしたら本心からかもしれないが。


だが楽しかった日常は終わった。

異世界に勇者として召喚されたのだ。


「あなたこそ真の勇者なのですね!」


ゼファスに言い寄られている咲は困っていた。

どうも最強という称号は嫌らしい。異世界系の小説を読んでいるからてっきりチートになりたいと思っていると思ったのだが、人外認定を恐れているらしく、顔色を悪くして否定していた。


次と言われ、隼人は進み出た。

青い顔のまま納得していない様子の咲に微笑む。大丈夫だよ、というサインだ。

隼人は勇者にふさわしい、この世界の理を外れたステータス。

職業は勇者。そして称号には『真の勇者』とある。


崇められたところで、鍛錬となった。隼人付きの教師は顔を引きつらせたが、しっかり基礎を叩き込んでくれた。

一週間後、ダンジョンに入る事となった。

モンスターが現れた時、隼人は一瞬躊躇ってしまった。地球では見なかった怪物だ。映画でもこんなものは出てこない。


「いきます」


「本城と誰かいるか!」


隼人は慌てて手を挙げる。

自分以外の誰かとペアを組むなど許せなかった。


「僕が!」


咲と目が合う。


「行くよ、咲」


「とーぜん。魔法で援護するから、近接をお願いできる?」


当たり前のことを言われる。咲が前衛なんて絶対許せない。

口角を上げ、鼻で笑う。


「それこそ当然。咲に危ないこと任せられないよ。」


咲は後ろに下がっだ。

隼人は息を吸い込み、気合いを入れる。


「パワーソウル、アジリティソウル!」


咲を合図に飛び出す。

間合いを詰め、剣を振るう。一瞬で光となり消えた。


「まず一体…」


呟き、左へ向く。スケルトンが構えていたが、隼人の方が動きが早い。

息をつく間も無く次の攻撃をする。光になったのを確認し、あと一体と、息を吐く。

だが、それが致命的な油断となった。


「エアーカッター!」


突然魔法が後ろに飛び、慌てて振り向く。

背後にはスケルトンがいた。

一分一秒も油断してはいけないと冷や汗が垂れる。命が危なかった。それだけで心臓を掴まれた気分になる。

咲を向くと、怒った顔をしていた。


「ほら、こっち向いてないで敵をやりなよ!」


咲に言われ、緩まっていた気持ちを引き締めた。


「あ、ああ。すまん!」


あとで説教だなと苦笑いした。

倒し終わり戻ると、案の定隼人は叱られた。

次は絶対にこんなヘマはしないと誓った。咲の前で恥をかくなど言語同断だ。


***


これが昨日の会話だった。まさか昨日で最後とは誰が思っただろうか。


「なんで…!」


隼人は混乱で頭がどうにかなりそうだった。


悶々と考え、結論を下す。


「取り敢えず…探す」


具体的な場所は何も決まっていない。

だが、失踪ならば何処かには居るはずだ。

一日ほどしか経っていないのならば、王国内に居るはずと、目星をつけ始める。


隼人は一筋の希望に賭けた。


「咲を探すと言えば許可してくれるだろう。ムカつくが形は違えど重宝にしているから…。」


そしてゼファスは隼人の目論見通りに喜んで応じた。

だが条件として、誰か他に連れてけと言われた。


「そうだな…まずは当然祐樹(ゆうき)だろ。」


「どこまでもついてくぜ。」


頼もしく返事をしたのは柿山祐樹(かきやまゆうき)。隼人の親友だ。

大雑把な性格な祐樹と、紳士的行動を心がけている隼人とは最初馬が合わなかった。だが、話しているうちに、いつの間にか意気投合したのだ。

誰かに心酔しているという共通点もあったのも大きいのかも知れない。


「あとは…ゼファスさんが付けたい人は?」


「…転移の魔法を持った勇者殿はいたか?」


少し思案するそぶりを見せると、特定の魔法持ちを指定した。


愛花が手を挙げる。


「はい!」


「おぉそうか。では浜田殿にお願いしようか。」


「分かりました。ところで一つ希望があるのですが…あの、私の仲間も同行して良いですか?」


愛花が願い出たのは里奈たちの同行だった。

ゼファスは快く了承した。


隼人は()()()()なら良いかと考えた。


「ふむ。では3日後に出発とするか。防具や護衛…はいらんだろうから馬車や食料を出そう。五人は今日含めた二日間は今まで通りにするが、前日は準備としてダンジョンを抜けてもらう。いいか?」


「分かりました。」


「ではダンジョンに行って来い。」


「勇者様達、行きましょう!」


ゼファスの前の時だけ威厳が出る、マサキ団長のすぐ後ろを歩きながら隼人は、願った。


(咲…!頼むからすぐに見つかってくれ…!)


ヤンデレの男はこうして旅に出た。

まとめ

⇒・隼人は過去に暗い自分を前に向かせてくれたきっかけの、大事な存在の咲に好意と過ぎた愛情を持つ

・病んでいる隼人は、いなくなったツバキを探そうと出発を決意する。

・同行者として、里奈たちも旅の仲間になる(転移の魔法をもっているから)

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