異世界は厳しい
「ううん…?」
眩しい光が瞼を刺激して、目を開けると、そこは知らない場所だった。
見渡すとどこかの部屋のようだが、尋常じゃないぐらい広く、いったい何人用だろうか?部屋の半分以上を占める机が置いてある。
真っ赤な絨毯がひかれ、絨毯の全面に細かい刺繍がされている。咲は刺繍は見たことがあるが、こんなに精密なのは見たことがなかった。余程いいものなのだろう。
他にも壁一杯に絵画が飾られており、中に一つだけ目を引かれるのがあった。男性のような人の肖像画のようだが、美しいという方が正しい気がする。
長く見つめていると、人の美貌を越したものが恐ろしくなり、目を逸らした。
咲達はしばらく呆然と現実逃避をしていたが、少しずつ脳が状況を把握し始める。
「きゃあ!?」
「何だここは!?」
「誰か教えてよ!」
あちこちで悲鳴が上がる。その中、咲は混乱はしているが他の人に比べれば冷静だった。異世界ものの小説を読んでいるから、というものもあるが、毎日本を読むたび、召喚されるのを妄想してみたりしたのだ。
「おい、咲大丈夫か?」
何も言わずボーッとしている咲が心配だったのか隼人が気遣うように声をかける。
「ううん、大丈夫。隼人こそ何にも異常ない?」
「いや、特にないな…っとスマホは使えないか。」
立ち上げると確かに圏外になっていた。
咲的には大好きなゲームができないのは残念だったが、此処は背世界だ。
そして咲の考えが正しいのならば、異世界といえば魔――
「ウェッホォン!」
咲の思考はそこで止められた。声をした方を向くと20人ほどの神父服を着た人達がいた。
その中1人だけオーラが違う男が居る。サンタさんもビックリの髭を持っている男は、まるで仙人のようだ。
仙人(仮)だけが豪華な装いなのは1番偉いからだろうか。
「あー、混乱しているのはわかるが、こちらを向いて欲しい。」
誰もそんな声は耳に入ってこない。咲自身も周りがうるさすぎて、意識をしないと聞こえないぐらいだ。騒いでる人達に聞こえるはずがないだろう。
しかし、大丈夫だろうか?仙人に青筋が浮かんできているような気がする。
更にワナワナしてきた。杖を持っている片手がカタカタと音を立てている。
クラスメイト達は誰一人として気付かない。
段々と嫌な予感がしてき、咲は半ば無意識のうちにどうか全員声に気付いてと祈る。
しかし、咲の思いを裏切るかのように仙人は持っていた杖を掲げる。何をするのかと身構えたが、咲達がどうこう出来る技ではなかった。
「『ショック』!」
は?とみんなが叫んだ仙人を見た瞬間、咲達は体に電気を流されたみたいにビリビリとした衝撃を食らった。
「きゃぁぁぁあぁぁぁぁ!!??」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全身を駆け巡る電撃が脳を刺激して痛みが体の危機を訴える。
ダメージはそこまでではないのだが、突然の驚きと感じたことのない痛みで悲鳴があがる。
咲も同様に、悲鳴が出る。
「ひあぁぁぁあぁ!?…はぁぁああ」
10秒ほどでなくなったが、感覚が残っている。
震える体を抑えるために何度も深呼吸をする。
違うやり方があったはずなのに攻撃をしてきた仙人を咲は怒りの目を向けたが、電撃の性で声が出ない。
「いきなり何をするんですか!?怪我でもしたら…」
「煩い!」
隼人が抗議の声を上げたが、一喝される。
もう誰も声を発せなかった。恐怖とショックと混乱は、一周して全員を落ち着かせた。
静かになったのを見計らい、仙人はやっと話し始める。
「オホン、私は聖人ゼファス・ハンガー。貴方達勇者様を呼び出したのは魔王を倒して欲しいからです。」
そこから身勝手な説明が始まる。
要約すると、魔王が復活した。魔王は人間を滅ぼそうとするので、勇者に討伐して欲しい。
(はい、定番王道異世界のテンプレきましたーー!!)
色々被ってるなんて気にしてはいけない。
そしてゼファスは仙人ではなく、聖人だった。しかし、そんなことは咲にとってはどうでもいい。
咲たちが呼び出された場所は違う世界で、魔法がある。咲のテンションは既に最高を振り切っていた。
震えが止まって、声が出せるようになった咲が、口を開く。
そう、テンプレが来たからテンプレで返してやろうか!と固い意志のもとで。
「家に帰してください♪」
「おい咲、言っている事と顔が矛盾しているぞ」
目ざとく隼人がツッコミを入れる。
内心で咲は抗議したが、当然のことながら隼人には伝わらず、睨むだけとなった。
仙人は聞いた方を見ようとするのか、顔を動かし、咲を見ると一瞬驚いた顔をした。
なにかついているかと咲が首を傾げると、すぐに表情を消し答える。
見間違いなのかと、記憶の片隅にも残らなかった。
「申し訳ないが返すことはできない。」
「そんなっ!喚び出せたなら還すことだって!」
予想通りではあったが、少し残念でもあった。
確かに異世界は夢であったが、家族と離れるのは寂しいという気持ちもあるのだ。確かにラノベの中の登場人物たちの気持ちが分かる。
「召喚の魔法は人生で一度しか使えないのだ。だが魔王を倒せたら、返すことを約束しよう。どうにかする。だから勇者殿には戦って奴の首を取って欲しい。」
言葉が終わると、今まで黙っていたクラスメイトたちが騒ぎ出す。
「なんだよ!お前らは安全の中俺たちだけで戦えというのか!?」
「討伐なんて無理よ!」
「今すぐ還してよ!」
だが、次の一言で凍りついた。
「勇者ではないものは歓迎しない」
言外に、我らに従えと言っているのが聞こえる。
不味い。最悪のパターンだ。
冷や汗が垂れる。多少の反発は許せるが、魔王の討伐は絶対という事なのだろう。
そして――逆らったら殺される。
「…歓迎しないというと?」
誰かが聞いた。
「追放みたいなものだ。魔国に飛ばす」
咲はゼファスさんが苛ついているのを感じた。
このまま大人しくしないと本当に殺されてしまうかもしれない。
それが異世界の約束みたいなものだ。容赦という言葉を知らないのではというのが異世界なのだ。
しかしそんな事は分かっていないクラスメイトは、更に反抗しようとする。咲は止めようと思ったが、遅かった。
「そんなの信じられるか!」
「信じられないというなら見してやろう。」
指を鳴らすとパチンッといい音がした。次の瞬間
消えた。
比喩ではなく、瞬きをしたら反抗したクラスメイトが消えていた。
咲達は茫然と、さっきまでいた場所を見つめる。脳は現実を受け入れたくないと主張するように働きを停止させた。
しかし、そんな現実逃避まがいなことが長く続くはずもなく、だんだんと理解する。クラスメイトが一人居なくなったという事を。
「いやぁぁぁ!」
「佐藤!」
「あぁぁぁぁ!」
目の前でクラスメイトが消えたのが信じられない。
自分たちが住んでいた世界ではあり得なかったことが出来る、それが恐ろしかった。
他に反抗しようとするものはいなくなった。
ゼファスは満足そうに頷くと説明を続けた。
「さて、この世界はサイエンテファニーという世界。貴方方と違う世界だ。貴方方は勇者でこの世界を救うことになる。この国最強のマサキ・サカウエを越えることができたら魔王討伐だ。強さはステータスで表示され、ステータスと言ってもらえると自分のステータスが見れる。これは各自、自室で確かめて貰う。
明日、またここに集まりステータスを見してもらい、鍛錬が始まる。待っているぞ」
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「はぁ、それにしてもゼファスさん横暴じゃない?」
咲はいつもの4人組で、部屋に向かう廊下を歩いていた。
部屋への行き方はこの城の地図を渡され、それを見て移動している。
個人的な感想は召喚されたのが城で驚いた。
(何処かに王様や王女王子がいるのだろうか?会ってみたいと思うのは私だけではないはずだ。王子はやっぱりキラキラしているのだろうか?会ってみたい!)
咲は愛花をミーハーと言ったが、自身の方がミーハーということに気がついていない。
「ねー、マジ死ねよ。」
もしも聞かれていたら、と思ったが、流石に大丈夫だろう。
咲も愛花に同調する。
「ほんと、あれじゃあ誰も付いて行かないよ。」
「咲、よく追放?されなかったね」
「まーまだ言われる前だったからね。この後みんなどうする?」
「私はこのまま寝る」
「右に同じく」
「だよねー」
あまりにも冷静でいつも通りすぎて、笑ってしまう。
だが大方予想通りだった為、驚きはしない。自分とつるんでいる人達だ。図太くないと親友なんてしない。普通はもっと混乱するものではないだろうかとは思うが、人のことは言えないので黙っておく。
「ここだね。」
里奈に言われて見ると、沢山部屋が並んだところだった。
「部屋って何個あるのかな?」
「いや、知らないよ。それより自分の部屋探そうか。」
探すとすぐに見つかった。どうやら先ほどの間に連絡をしていたらしく、ドアの横に名前が書いてある。どうやって知ったのかは知らないが、有難いことである。
里奈たちの部屋は左に続いていた。親友が近くにいるのは安心する。
おやすみと言うと返され、部屋に入る。
部屋は結論から言うと、とても綺麗。全て高級品か知らないが、高級感あふれたのが揃えられている。
本もそこそこ置いてあり、この国についてが書いてあった。説明が面倒だったのだろうか。
探索すると、生活するために必要なのは全て揃っていた。お風呂まであったのだから優秀だ。
先に風呂場に行くと、傍らに様々のサイズの寝間着が置いてある。これを使えと言うことだろう。
服を脱ぎドアを開けると、想像より広い浴室が露わになる。右手にあるシャワーを浴び、ポチャンと音を立てて浴槽に入る。
泳げるぐらい広いそれは、一人だと少し寂しさがあった。
「ふぅ……色々なことがあって疲れた…」
手すりに突っ伏し、深いため息をつく。
今日一日の事を思い返していると、気が付いたら寝そうになり慌てて上がり髪を乾かす。
乾かし終えると、ベットへ一直線に向かう。
「はぁぁあぁぁ…」
疲れを放出するようにベットにダイブする。とてもふかふかで寝心地が良さそうだった。
寝そうになったが、ゼファスさんが言っていたことを思い出す。
うつ伏せのまま顔だけ起こして唱える。
「ステータス」
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名前: 本城咲 レベル.1
性別:女 レベル
年齢:17歳
職業:双剣使い・魔導師
HP.100/100
MP.5000/5000
筋力:300
体力:200
耐性:100
敏捷:10000
魔力:10000
スキル:エアーカッター・ファイア・ウォーター・ハルス・言語理解
称号:勇者・異世界者
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表示された。咲としてはとってもなんで現れるのか原理が知りたい。
しかしそんなことをどうでもいい。これはどう考えてもおかしいだろう!
「まって、まずなんで職業二つあるの。おかしいよね!?もしかして普通!?」
どんなファンタジーでもそれは異常枠だったぞと咲は叫んだ。近所迷惑にならなかったのは良かったことです。
ステータスに疑問が沢山あったため、置かれていた本を漁る。調べたところ、案の定おかしかったらしい。しかも魔力と俊敏とスキル量もおかしい。普通が10なのに10000とかあるよ。勇者にも程があると思うんだ。もう笑うしかないよね。ハルスもさラ○ュタのバ○スみたいだと現実逃避気味に考える。
「あはは…これどうしよう?」
考えた末
「どうしようもないからほっとこう!」
考えるのを放棄した。考えた末とか言ったけど最早考えていない。
「いつの間にか月?っていうのかな?赤いけど。とにかく、夜だからもう寝よう!」
ベッドに入り、目を閉じると吸い込まれるように意識が夢へと旅立った。
少し修正しました。