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今なんて?

「は、早いですね……。」


ギルドホームにて。

受付嬢が完全に引いた状態で、依頼完了の受理をしていた。

引かれている冒険者は勿論、レンとツバキだ。

ツバキ達は朝食を食べすぐに出発し、そして20分程でギルドに到着したのだ。

受付嬢の頭の中はこう。

依頼に出てから僅か四日目の朝。普通片道に三日かかるのに、これだと一日で着いた計算になる。

即ちーー化け物。

もしも本当は30分で着いたと知ったら卒倒してしまうだろう。


「討伐証明はこれで大丈夫ですか?」


ツバキたちが気にしていたのはそこだった。爆破したら爪しか残っていなかったので、もしも違うと言われると、もう一度狩りにいかなくてはならない。

だがその必要はなかったようだ。基本的に特定の部位で無くて良いらしい。事前にこういう事は調べて…いや、覚えておこうと思った。

ツバキが密かに決心していると、受付嬢の顔色が悪くなってきた。

実は受付嬢が驚いていたのは別の事もあるのだ。


(何故、普通の爪の2倍の大きさなの!?)


そう。資料にあるものより明らかに大きかったのだ。

周りにいた冒険者達は様子を伺っている。

登録初日に驚かせたツバキ達は、冒険者の間で此処三日間噂されていたのだ。そして今日。こんなに早く生還して来るとは誰が思ったのだろうか?

仲間と会話しながらもツバキ達をチラチラ見ている。その中で異常な大きさの爪に気付いた者は極僅かだった。そう。極僅か。知ってしまった冒険者はパーティの人に伝え、顔を青くさせていた。

ツバキは顔が青くなった受付嬢を心配そうに見つめる。

やがてショックから立ち直った受付嬢は、悟りを開いたような表情を向けた。

ツバキは察した。思考放棄したな、と。


「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません。これで依頼完了となります。此方が報酬金です。」


冒険者達がザワザワする。Aランクのバイオタイガーを討伐したというのだ。

あちこちから信じられないと言う声が聞こえる。

金貨が2枚入った袋をレンが受け取り、その場を去った。

ツバキは冒険者たちの視線を感じながらギルドを出た。レンは気にしていないようだ。

非常識な冒険者二人が出て行ったのを確認すると、ギルドホームは蜂の巣をつついたように騒がしくなった。


「彼奴らスゲーぞ!」


「あのバイオタイガーを討伐!?」


「ありえねー……」


「冒険者を始めたばかりなのに!」


そんな騒がれていると知らない二人は外に出ると人通りが少ないところへ移動した。

ツバキは気になったことを聞く。


「レン。金貨2枚ってどれぐらいの価値?」


「そうだな……金貨一枚で家一軒買えるな。」


ツバキは少し引いた。マジで引いた。

袋に入っている金貨をワナワナ震えながら見る。

Aランクの魔物を一匹狩るだけでこんなに貰えたのだ。きっと何匹か狩ってしまえば一生遊んで暮らしていけるだろう。

ツバキはそう思ったが、自分達がこの世界で暮らすわけではないので、一瞬で興味を失った。若干震えているが。

しかし、上から三番目のランクに位置するAランク。一筋縄では()()は倒せないので、このような大金が報酬なのだ。

つまり、ツバキ達が異常。

だが今更だ。二人は気にすることなく、次はどうしようかと考える。

ツバキはレンが出発する前に銃の創作依頼を出そうと言っていたのを思い出す。


「……銃の設計って書いていたよね?」


「ああ。これか?」


マジックボックスからすんなり取り出すのを見たツバキは、大人気アニメの猫型ロボットを思い出した。あのロボはスマートに道具を取り出せないので比べてしまった。

そして改めて設計図を見る。ペンで書かれた図はとても見やすく、素材まで書いてある。

あの一瞬で、脳内で組み立てたのだろう。

しかし……問題があった。

ツバキは本体に欲しい一つの素材を見て、眉を顰めた。


「これはーー」


聞かなくてもわかるぐらい有名な魔物から取れる素材だったのだ。ーーSランクの。

Aランクが余裕だったからSランクもいける、とは言えない。

冒険者のランク構成の説明時、AランクとSランクの差はとても大きいと聞いた。一体どれほどの強さなのか。

レンが、ツバキの目線を辿ると、例の素材にありつく。


「''バジリスク''の鱗の事か?Sランクだがいけるだろ。」


「分かっていて狩りに行くの!?」


なんてことないように言われたが、かなり危険なことだ。

ツバキは頭を抱えてしまった。

つまり、誰かこの化け物どうにかして!だ。

そしてツバキは一つの結論にたどり着いた。レンは常識が欠けているんだ。そうだ、そうに違いない。


「……バジリスクの鱗じゃないとダメなの?」


ツバキはまず、遠回しな説得を試みた。諦めたら終わりだと、どこかの偉人も言っていた。

他のもので代用できるのがあったらそちらに移りたい。


「他にもあるんだがーー」


ツバキはレンの言葉に目を輝かせたが、次の言葉に絶望した。


「SSランクの炎タイプのドラゴン。」


「分かった、バジリスクを狩りに行こう。」


少しでも期待した私がバカだっだとツバキは呟き、対策を練る。

バジリスクと言えば、蛇の王だ。毒を警戒しなければいけない。ならば解毒の魔法が使えた方がいい。レンが使えるから攻撃を食らったとしてもすぐに回復してくれると思うが……。用心するのに越す事はないだろう。


「解毒の魔法はどうやって手に入れたの?」


「俺はダンジョンでだが、巻物を読む事で取得出来たはずだ。…買うか。」


「軽く言うけど何処で買うの?」


コンビニに行くか、ぐらいのノリで言うけれど、巻物を売っているとこ自体が珍しいのに、特定の魔法狙いはかなり厳しいのでは……?

しかしレンは少し先のコンビニで売ってるよぐらいの調子で、予想外な場所を言ったのだ。


「この国の巻物屋。」


「……今なんて?」


予想外の返答に、思わず聞き返してしまう。それに対し律儀にレンは答える。

ツバキはジェームスプレースに巻物屋があったことに驚く。


「あるのは分かった。何処?」


レンは無言で目の前の扉を指した。

何をしているのかとツバキは思ったが、自分が聞いた質問を思い出し、まさかと思う。


「此処。」


「……ツッコミどころしかないのですが!?」


全力でツバキはツッコんだ。叫んでしまったのは仕方ないと思う。何故って、いくら小さな国といっても、この世界の規模から考えると言う話だ。地球の規模で表すと、日本程の大きさがある。

だから移動に時間がかかると踏み、バジリスクとの戦いは少し先になるかなと思っていたのだが……。目の前にあるとは思いもしていなかった。


「え、えぇ…。」


「買うか?」


早すぎる展開に置いていかれていたが、レンの言葉で急行に乗り換える。


「買いますとも!……ところで何でこのお店知っていたの?」


「ギルドにあったパンフレットに。」


「what's!?」


店の錆びた扉を開けながら人気のない路地に店を開くとは、と初めてツバキは最もなことを思う。

錆びている扉を変えようともせず、こんな所で開いている店の店内は果たしてーーー


「「………何で?」」


とっても綺麗でした。


「待て待て、外観と内装があっていないんだが!?」


「店長さん!?」


「呼びましたか?」


「怖い!突然の登場怖い!」


二人でツッコミを入れていたら、ツバキの叫びに反応した店長さんが、背後から声を掛ける。

思わず張り手してしまい、店長さんが、吹っ飛ぶ。

壁にぶつかると頭から流血する。


「ぎゃぁぁぁあ!?」


冷静なツバキはすっかり消えてしまっている。

レンも顔を青くしていたが、よく見ていると、流血に違和感を感じた。

観察し、一つの予想が浮かび上がり、確かめようと近づく。

ツバキがオロオロしている中、レンが店長の頭部に触れる。

ツバキは悲鳴を上げたが、レンは冷静な顔だ。しばらく店長の頭を撫でていたレンだが、突然手が止まり、なにかを掴む。

脳をとったんじゃ…と嫌な想像をしてしまい、何もないのに、目を閉じ、耳を塞ぐ。


「うわぁぁぁあ!!」


「おーいツバキどうしたんだ?」


「脳が、脳がぁぁ!」


何を想像したか察したレンが、そんな人と思われているの!?と軽くショックを受ける。

ツバキは黙ったレンズを肯定と受け止め、更にパニックになる。


「わ、私が悪いからレンは許して下さい〜!!」


「……はっ!ツバキ、誰も死んでないから!俺も違うから、店長がドッキリを仕掛けただけだ!」


「え?」


ツバキは目を開け、視界には申し訳なさそうな、だけど楽しそうな顔をしている店長が見えた。

まだプチパニックが起きているツバキに、レンが説明する。


「壁にぶつかった時血が出ているように見えただろ?だが、あれは頭皮に取り付けてあった赤の液体が入った袋が、衝撃で割れ、流血したように見えたんだ。」


「袋が破れて……そういう事!?良かった〜てっきり死んじゃったんじゃと思って。」


「俺も最初そう思って焦ったけど、流血にしては量が少ないと思ったんだ。まあ、ドッキリで良かった…てツバキどうした?」


「ちょっとさ……」


レンに耳打ちをし、怒りを込めて店長さんにニッコリ笑う。ローブを着ているので分からないだろうが。

しかし何か感じたのか、店長さんは後ずさる。


「そんな……逃げなくてもいいのに。」


ぼそりと呟いた声はレンにしか届かない。


「分かった。俺も協力する。」


「ありがとう、レン。」


何故ツバキが怒っているのか、それはせっかく心配していたのに、という悔しい気持ちと仕返したいと言う気持ちが芽生えたからだ。


「あの、謝りますから……お客様?聞いておりますか?」


レンも騙されたという屈辱があったので、喜んで乗った。

だからツバキと手を繋ぎ……


「「爆ぜろ。」」


「ぎやゃゃゃゃやぁぁぁぁ!!」


ボカァァン!


人通りが少ない路地の店内で爆発が起こった事はこの地の有名な話となった。

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