異世界召喚
それは突然だった。本城咲とクラスメイトの足元に魔法陣らしき物が現れ、悲鳴をあげる暇もなく、一つのクラスの生徒が一瞬にして消えた。
呆然と残された教師がファイルを落とす。
落下音に我に返ると慌てて職員室、そして校長室へと走り出した。
――集団神隠しとニュースで取り上げられるまで、あと30分。
***
咲は心地の良い暖かさに、目を閉じていた。次の授業など気にせず、このまま寝てしまいたいという気持ちを理性でとどめながらやっぱ寝たい――
「ねー咲、次の授業なんだっけ?」
机に突っ伏して眠気と戦っていた咲は、自分の隣の席である高田隼人の声に顔を上げる。
霞みがかっている頭で隼人の質問を頭の中で復唱し、やっと質問の意味を理解する。
「次は確か…?」
「理科だよ!」
「!?」
突如天使のような声がかかり、驚いた咲が視線を上に向ける。
其処には笑顔の中学からの親友がいた。
「それにしてもすぐに思い出せないんなんて咲も大概阿保だよね。」
「まぁ咲だからしょうがないよ」
更に背後からまた親友が二人増える。
「でもでも、高田と話せるなんてラッキー!」
「ねー、いつも女子が良すぎて近づけないし」
「ほんとそれ」
咲は、言おうと思ったのに先に言われ、更にディスられて軽くショックを受けた。
そして突然現れた親友達を睨む。
最初に割り込んできたのは福田里奈。学校1の美少女の上に誰に対してもフランクでコミュニケーション能力が高いので、男女問わずの人気を誇っている。
咲には良くわらかないが。だって今もこんな風に会話の邪魔をしてくるし。毒舌だし。
口を開くなり貶したのは葛西由紀子だ。クールな女子だが、人を煽るのが得意という、無駄なスキルを持っている。よく里奈が涙目になっているのはそのせいだろう。
ただ信者たちが止めることは無い。だって里奈様の貴重な姿がみれゲフン親友ですもの。きっと信者な人たちでは止められないわ!
それを聞いた時の咲の表情はなんと言い表せばいいのか。
そしてなんかテンション高めだったのは浜田愛花で、ミーハーな性格をしている。
アイドルはほぼすべてのグループに必ず一人は推しを作り、よく金欠と嘆いている。一応社長の娘なのに悲しいことだ。
得意とするダンスでは咲とバトルをよくしている。今のところは愛花の全勝だが未来はどうなるか分からない。
咲は唇を尖らせると、文句を言う。
「うん、私をさらっと貶したね!?尊敬するよ、この毒舌ズ!」
「咲に言われたくはない」
「「うん、咲は超毒舌。」」
そんな私と親友してる君達はどうなんだ咲はと言いかけたが、自覚無き者に言っても仕方ないから無駄だと思い、諦めた。というか言ってもスルーされるのが日常なのだ。
「それより」
「「「話逸らした」」」
黙りは最強だ。相手が勝手に誤解してくれるが、自分は何も言っていないので後でいくらでも言い訳が出来るから。
完全にダメな人の思考だ。誰のかなんて言うまでもない。
「この前読んだ本が面白くって、オススメするよ!」
聞いた三人は、またかという顔をする。
どうやらそれだけで分かったらしい。
隼人は良くわかっていないようで、首を傾げた。
「あぁ、異世界系の。」
「よく分かったね?」
ダメ人間さんは凄いと口にしたが、ご親友に呆れた目で見られる。
「まぁそれしか読んでるの見たことがないし」
「えー、だって面白いじゃん!憧れるでしょ!?」
「現実を見ろ」
「最近うちの親友たちが冷たすぎる」
咲のHPがゴリゴリと音を立てながら減らされていく。あわれなり。使い方は古文です。
一連を見ていた隼人が苦笑しながら口を開く。
「そろそろ授業が始まるから座ろうね」
「「「はい!」」」
咲以外のみんなが元気に返事をする。
咲はジト目を親友達に向け、切実な願いを口にした。
「ねぇ、その態度を私に向けて欲しいんだ。そしたらもっと仲良くなれると思うんだよね。」
この訴えは当然のことながらスルーされた。ちょっと誰か癒しをください。
しくしくと泣いている心を自分で慰めていると、横から声がかかった。
「さ、咲も準備をしよう」
キラキラすぎる笑顔に咲は少し怯んだ。黒い部分が浄化された錯覚をする。純粋だった時期など何年前だと遠い目になりながら。
全員が席に着き、教卓に教師が立つ。
「さー、授業を始めます」
号令を聞きながら、毎日考えていることを今日も思う。
(神さま、私異世界行ってみたいです。転生先は異世界でお願いします)
そんな思いが届いたかは知らないが、咲たちは異世界からの招待を受けた。