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ギルドと、最強と

校門をくぐり、ローゼ達が最初に向かったのはギルド会館。

ここではクエストの受領や報告、新規ギルドの設立等の事務的が手続きを行える。

ギルドの設立もついでにするつもりだが、ローゼ達がここを訪れた本来の理由は別にある。

この学校では入学式のような面倒な行事はなく、このギルド会館で学生証を発行する事が入学の手続きになるのだ。

受付のお姉さんに入学の旨を伝えると、お姉さんは愛想良くにっこりと2人に微笑みかける。


「承りました。学科の方はどうなさいますか?」


ハンター育成学校には2つの学科があり、一つは名前の通りプロのハンターを目指すハンター科。

もう一つはハンターの扱う武具や道具の製作を行う生産科だ。

学園内には武具製作に必要な工房や道具も一通り揃っており、将来の顧客を獲得する事も可能で、生産系ギルドに入れば自分の知らない技術を学べる可能性もある為、有名な工房の弟子等が入学する事もあるらしい。

ローゼ達が選ぶのはもちろんハンター科。


「こちらの用紙に記入をお願いします」


渡された書類を用意に必要な事項を記入していく。


「ローゼ・フォード様にアルルフォード様ですね! お話はマリアン・フォード様、レイン・フォード様より伺っております。通常はランクEからのスタートになりますが、お二人はランクCで登録するように承っております」


書類を見たお姉さんの言葉にローゼはペンを置き、書き終えた書類を差し出す。


「話が早くて助かるわ。あ、ついでにギルドの設立をお願いしたいんだけど」


「では、こちらの用紙にも記入を」


ローゼは新たに用意された用紙の、一つの項目に目を向ける。


ーーギルド名


これからあたしの学園生活で、いや、あたしのハンター人生の終わりまでつきまとう名前。


この学校の最強のギルドになる名前。


いずれは世界を轟かせる名前。


最初から決めていた。


母の背を追い、あの母のツバサよりも高く舞い上がる為の……。


そして、あたしは力強くペンを走らせる。



ーーアカツキノツバサ



それが、あたしの、最強のギルドの名前だ!




今ここに、いずれ世界を震撼させるクランが設立された。

そう遠くない未来、"こいつらは邪神より邪神"とか、"このギルドを敵に回せば国ごと滅ぼされる"とか、"火山島の噴火を止めようとして島ごと吹っ飛ばした"とか、"ある国の軍隊が少数のギルド相手なら大丈夫だろうと4000人で蹂躙しようとしたら返り討ちにあった"とか、"世界最大の大国が泣いて許しを請うた"とか、"剣を振っただけでハリケーンが起きた"とか、"ガッツポーズするだけで国が1つ消えた"とか、"潜入しようとした工作員が次の日には全裸で宙吊りになって発見された"とか、"「おい気をつけろ!」と叫んだ兵士が次の瞬間には全裸で失神してた"とか、"山を真っ二つにした一撃は手が滑って剣を落としただけ"とか、"ギルドマスターは学生時代に戦闘不能の相手にさらに精神攻撃を加え再起不能にした"とか、"実の姉を全校生徒の前で……おっと誰か来たようだ"とか、"彼はローゼに消された……。二度と帰っては来ないだろう"とか、"ってかギルドマスター貧乳童顔幼児体形のくせに性格悪過ぎ!"とか、"そんなローゼちゃんも僕は好きだよ!!"とか、"いやおまえ趣味悪過ぎ!やっぱり厨二病でヘタレのアウラちゃんだろ!"とか、"俺は無表情のアルルちゃんに踏まれたい"とか、"おまえらマドカちゃんをいないもの扱いするとは何事か!"とか、"私のローゼちゃんを奪おうとする奴は全員コロス"とか、"おい!おまえら!メアリ様が降臨なされた!逃げろ‼︎"とか、数々の伝説や噂を残しながら好き放題に言われまくる史上"最恐"のギルドが!!




手続きを済ませたあたしは改めて自分の学生証を確認する。


名前 ローゼ・フォード

年齢 15歳

学内ランク C

所属ギルド アカツキノツバサ(ギルドマスター)

ギルドランク E

ギルドポイント 0


ちなみに学園内での最高ランクは個人ランク、ギルドランク共にS。

Aランク以上はすでにプロのハンターの中でも最前線で活躍できる実力とされており、個人ランクAの学生は5人しかいないらしい。

Sランクに至っては学内で1人だけ。

それがローゼ達の姉レイン・フォードであり、彼女のギルド『ハンター・ヴァンガード』こそ現学園最強のギルドで、ローゼ達が超えるべき目標だ。

学園最強のギルドとは基本的により多くのギルドポイントを貯めたギルドのことを差す。

ギルドポイントは学内ギルドランキングの指標となっており、毎年新入生の入学の時期にリセットされる。

ギルドポイントを貯めるには基本的にはギルドのメンバー、もしくはギルドとして受けたクエストを完遂すればいい。他にも、これは相手のギルドの同意が必要なのだが、ギルド戦と呼ばれるギルド同士の模擬戦を行い、勝利する事が出来れば相手のギルドポイントを奪う事もできる。

ギルドポイントは他のギルドに譲渡する事も可能なので、なんらかの取引でポイントを手に入れることも可能だ。生産系ギルドなんかはギルドポイントで商品を売るというやり方が主なギルドポイントの稼ぎ方になる。


改めて学生証を見ると感慨深いものがある。

あたしはとうとうハンター育成学校に入学したのだ。

そして、自分のギルドを……! にやにやが止まらない。

ローゼはつい声高々に笑いたくなってしまうが、今ギルド会館は新入生で溢れ返っている為、そんなことをしたら注目の的だ。

なんとか気持ちを落ち着かせて、学生証を見つめながら、体をもじもじさせて、くふふふふ!と控えめに笑う。

まぁ、これだけ見ても十分変態なのだが、その時のローゼはそんなことを全く気にかけていなかった。

それくらい嬉しかったのだ。

だが、アルルの一言でローゼは一気に現実に引き戻される。


「……ローゼ、わたしたちよばれてる」


その言葉にローゼはがくっと肩を落とした。

そう。ローゼ達は本日、呼ばれているのだ。

学園最強である姉に。

2人は姉と母に推薦を貰ったおかげでCランクからのスタートを切れた訳で、こればかりは無視するわけにはいかない。

ローゼはどんよりとした空気を漂わせながら、重い足取りで、


「あぁ……。そうね。行きましょうか」


と、アルルを先導し、その場所に向かった。



ギルドハウス。

それは一定以上の功績を納めたギルドに、学校から貸し出されるギルド専用の拠点だ。

ギルドハウスを持っているということは、それだけで学内トップクラスのギルドである事の証明であり、今、ローゼ達が訪問しているギルドも例外ではない。

ローゼは緊張した面持ちで、震える手で、ギルドマスターのいる部屋のドアをノックする。


「入れ」


部屋の中から響く凛とした、それでいて、重圧感のある声。

恐る恐るドアを開ける。


「待ち侘びたぞ。ローゼ、アルル」


凛とした面持ちの威厳漂う風貌。

腕を組み腰に大太刀を携えた女性。


「えぇ、来たわよ。久しぶりね。レインお姉様」


その人物こそ学内唯一の個人ランクSにして、学園最強のギルド『ハンター・ヴァンガード』のギルドマスター。学園最強の称号を欲しいままにする雷属性に高い適性を持つ大太刀使い。ローゼ達の姉レイン・フォードこと雷神レイン。

全員がAランクという『ハンター・ヴァンガード』の精鋭4人の視線が一斉にローゼとアルルに集まる。

息が詰まりそうな程の緊張感。

重く冷たい空気、額に汗が流れる。

4人の強者が見守る中、ローゼ達とレインはお互いに見つめ合い、


そして……、


「……ローゼ、ネクタイまがってる」


無表情のアルルが、その空気を完全に無視してローゼのネクタイを直した。


「ア ル ル !!」


ぷるぷると握り拳を震えさせるが、当のアルルは、わたしなにかした?と言うように「……ん?」と首を傾げる。

そんなあたし達のやりとりを見て、レインは笑みをこぼし。


「変わってないなぁ、お前たちは」


やれやれと肩をすくめる。


「変わったし! 2年も会ってなかったんだから当然変わってるし! 魔術も上達したし、剣の腕だって……! あっ! それに身長も! 4センチも伸びたんだからね!」


必死の抵抗。

……なんとなく、姉のギルドのメンバー達に白い目で見られている気がする。


「ほぅ。それは楽しみだ。おまえたちも、私のギルドに入るのだろう?」


あたかもそれが当然かのように、レインはその鋭い眼光でローゼを射抜き、重圧すら感じられる声で言った。

その重圧に一瞬だけ、言葉が詰まった。

姉のギルドに入ることを考えなかったといえば嘘になる。

学園最強のギルドを作る為に一番簡単な方法は姉のギルドを引き継ぐ事なのだ。


だけど、それは果たしてあたしの力と言えるのだろうか?


いや、言えないだろう。

そんなことで、母のようなハンターになれる訳もない。

この人は、あたしが最強のギルドを作り上げるうえで超えなくてはならない壁だ!

キリッと、鋭い眼光を睨み返す。


「申し訳ないけど、姉様。それは出来ないわ。あたしはもうアルルと一緒にギルドを作った。そして……、あたしはこのギルドを、学園最強のクランにする!」


レインは驚いたように目を見開き、そして、ふっ……と口元を歪め、


「ほぅ……つまり、それは私をも超えるということで間違いはないな?」


内心は嬉しくて仕方がないという雰囲気を漂わせ、ローゼに問いかける。


ローゼはビシッとレインを指差し、


「えぇ! その通りよ! あたしはあなたを超えてみせる!」


学園最強に宣戦布告を……、した、の、だが……。


「……ひとを指さしてはいけません」


その指はかつてあたしがアルルに教えた常識によって、強制的に降ろされた。


……決まらねぇ。アルルのおかげでなにをしても勢いが削がれて決まらねぇ……!


そんなあたしにアルルは、よしよしなにかつらいことがあった?とでも言うように頭を撫でるのであった。


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