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第六十六話

 

「となると、あれだね。魔法袋じゃない普通の袋の方が都合はいいよね」

 検証後、時間もあったので霊鎧を狩りに六層へ向かっていた。朝こなしていないので気分転換にもちょうどよかった。

 ここは空気と足場と私が立てる轟音に目を瞑れば考え事をするのに適した環境だ。人が居なくて身体を動かせる。独り言を聞かれる可能性も少ない。ただそれだけではあったが。

 朝から鑑定神殿へ出向き、死神の魔石について話をして、宿に帰って検証をした。だがまだ夕方にもなっていない。詰め込みすぎだが今日は不可抗力だ。鑑定の結果があんなのだったのが悪い。

 浄化真石を狩りながら手持ちにした魔法袋に魔石を突っ込んでいく。生まれたての魔石を持って入れるか一度だけ試したが、これは問題がなかった。拾得した時点で私のものとされるのだろう。

「これ誰かと組んで相手が倒した魔石、私が持って入れるんだろうか……。気になるけど試しようがないなぁ。聖女ちゃんにヒヨコ潰してもらう? やだなぁ……」

 彼女なら頼めばやってくれそうだが、私がそんなことを頼みたくなかった。それが嫌々とでも、喜々としてでも、気が乗らない。


 正面から霊鎧に突っ込んで近当て込みで一撃で魔石にする。宙に生成された魔石を掴んで魔法袋へ突っ込む。

(魔法袋を置いていくことを考える日がくるかもしれない。次元箱を徹底して隠して、普段は魔法袋を使うという手もある)

 この魔法袋がギースの物で、私の物扱いされていないということも考えられるが、所長も魔法袋が次元箱に入らないかもしれない、みたいなことを言っていた。

(いざという時、私は次元箱に逃げ込むことができる。魔法袋を持っていると、逃げ込めなくなる。この差は大きい。私にとって最も重要なことは次元箱を隠すことではなく、生き延びることだ。箱を隠すことはいい案だと思うが、それ以上に大切な物も、あるよね)

「魔法袋から魔力を抜ききったら箱に持ち込めないかな……。魔力の通ってない魔導具はただの道具だし、これは試しておこう。いざという時魔法袋が使えるなら、それに越したことはない。無理なら……ギースに会った時に説明して、返そう」

 検証が不十分なのでまだ次元箱を活用してはいない。だが、それも数日中には終わるだろう。遅くとも王都へ酒を取りに行くまでには、野宿に耐え得る環境を整えておきたいと考えている。まず空気、次に寝具、そして時間経過や温度などについての調査。

 時間はおそらく経過するだろうと思う。特記事項になかったからだ。仮に止まるなら、中で延々と修行ができる。魔力や気力が回復するなら永遠に鍛えられるかもしれない。

 温度についても、外気の影響を受けるかどうかだ。変化しないなら適当でいいが、変化するなら冷暖房をしっかりとしないと危険だ。

 一番大事なのは空気。酸欠で死にましたは笑えない。何かいい手がないか考えないと。一時避難や倉庫に使うだけなら適当でもいいが、それでも消費すればいつかは箱の中の酸素は消えるだろう。この世界に酸素があるのかはわからないけど、商隊の護衛の際に、火種に息を吹いて燃え上がらせているのを見ている。おそらくあるだろうと考えてはいる。

 考え事をしながら霊鎧の次を探そうと辺りを見渡したが、既に綺麗さっぱりいなくなっていた。

「あら、終わったか。……少なくなかった? 誰か狩りにきたのかな、人影は見かけなかったけど……いいか」

 特に深く考えず、管理所へ寄らずにお風呂へ直行して宿へ戻った。後で確認した魔石の数は五十五。誤差の範囲だが、いつもより少しだけ少なかった。


 翌朝運動と洗面を済ませて、予定を考える。今日はいつもより涼しい。秋か冬が近いのかもしれない。

「とりあえず魔法袋の魔力が抜けるまで放置は継続するとして……。今日はどうしようかな、空気清浄機……というか酸素を何とかする手段を探しに行ってみようか。漠然としすぎてるし、あるかなぁ……」

 昨夜浴場から戻ってすぐ、魔法袋の中身をほぼ全て出して身体から離して放置していた。私の魔法袋は触れるかどうかという程度の距離からでないと魔力を吸わない。どの程度で魔力が抜けきるか分からないが、中に若干品を残してある。魔力が抜けたらその部分が膨らむだろう。

 変な魔導具なら王都に沢山あったのだが、流石に酸素をどうこうするものがあったかまでは見ていない。そもそも王都の店は最低限しか見て回っていないのだ。

「酸素……酸素か。水の迷宮とかなら使う? 水に潜るかもしれない。火の迷宮は……辺りが燃え盛っていて酸欠になるかもしれない、その対策に。土の迷宮……坑道や洞窟のようになっているかもしれない、送風装置みたいなものが……光の迷宮はないな、ここは無視しよう。つまり中央と北にある四つの迷宮の内、三つのそばにある魔導具店にはあるかもしれない! ……はぁ」

 中央、中央か……あそこはなぁ、エイクイルがいるからあんまり近づきたくないんだよなぁ。迷宮近辺は特にだ。宿の近くにも騎士がよくいる。でもあんまり選り好みしていられる状況でもない。野宿は嫌だ。嫌だから深夜に長時間走ったりしているわけだ。かなり無理をしている自覚もある。多少時間がかかろうとも、あんな無理は続けたくない。

 迷宮に入っている人間で私が会話をしたことがあるのはメガネを売ってくれた中年冒険者くらいだ。彼が今どこで何をしているかは知らないが、もう田舎に帰ってしまっていてもおかしくない。もっと色々聞いておきたかった。

「今日からは魔導具店を見て回ろう。どんなものがあるか、きちんと目を通していこう。時間はあるし勉強にもなる。その前に真石一セット狩って二セット分預けておこうかな。ついでに預けてある二セット分の代金を受け取っておけば手持ちが七千三百万ちょっと。高価なものでなければ買える。追加で二セットあれば一億超える。これだけあれば流石に足りるんじゃないかな」

 考え事は六層でもできる。ささっと済ませて行動に移そう。


 霊鎧の討伐数が五十を越え、ボチボチ階層の隅を虱潰しに潰して回るかどうかといった頃、小さく戦闘音が聞こえた。音の感じからして集団かな? 私の音に反応する距離の個体は粗方処理し終えている。大岩近辺にはいないはずなのだが……。

 言うまでもないがこれは非常に珍しい。ここで私以外の戦闘音なんて、救援任務の際に七層側で戦っていた人達が立てていた音くらいしか聞いたことがなかった。しかも今は早朝という程でもないが、まだ迷宮に人は少ない時間帯。興味はあったが……わざわざ見に行くこともないかな。真剣にやってるところを覗かれていい気がする者もいないだろう。

 それに数は全滅近くまで減っている。仮に苦戦していたところで逃げられない程囲まれるということもない。音がした方とは逆の隅を手早く処理して、六層を後にした。今日は五十九でお終いだ。

 そのまま管理所へ出向き、ちょうど出勤してきたらしい役人に個室で集めた浄化真石を預けて、未受け取りだった代金、四千七百万余りを引き取る。次は百十四個分だ。しかし、これだけ卸して値下がりしないんだから、需要があるというのは本当なんだな。さっきの戦闘音も、真石目当ての冒険者だったのかもしれない。


 管理所を出て魔導具探しに向かう。当面の目的は、どのような魔導具があるのか見て勉強すること、酸素をどうにかする手段を探すこと、次元箱に持ち込める魔法袋がないかの情報を集めることだ。

 次元箱に詳しい人がいたら怪しまれない範囲で情報を聞き出してみたい。所長でもいいが、いくら知った仲とはいえ、あまり手の内を晒したくはないというのはあるわけで。最後の手段ということでいいだろう。

「秋でも冬でもいいけど、寒くなってくるなら服もなんとかしないとな……流石にこの格好は……」

 キャミソール、ホットパンツ、パーカー、外套。この格好じゃそのうち限界がくる。問題が下だ。ホットパンツを脱ぐと魔導具のセットが崩れて防汚も防御力もなくなり意味をなさなくなる。上からズボンを履くのでもいいけど……太く見えるからなぁ、ただでさえ冬は……。

 迷宮内は冬でもきっと平常運転だろう、動きにくいのは困る。いっそ冬の間は冬眠するのも手か。暖かくなれば冬物も投げ売りされ……いや、そんなことはいい。今は魔導具だ。服なんて着込んで腹巻きでも巻いておけばいい。



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