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第五十七話

 

 翌朝まだ暗い時間に目が覚める。遠足の日の子供みたいだな。

 洗面を済ませて水を入れ替え、身体を動かして第四迷宮へ向かう。第三迷宮にも行ってみたかったが、今日は第四を深くまで潜ってみるつもりだった。

 第四迷宮はしばらく見晴らしがいい地形が続くと思うし、遠目の力にも慣れておく必要がある。

 最近見つけられなかった新たな鳥と大岩のこともあるし、六層、深部へ探索、六層、管理所、また深部へ探索、六層、就寝。の流れで行く予定だ。

 私はあまり長時間がっつりと戦闘を続けることがこれまでなかった。この辺りも少しずつ慣れていこうというのも狙いの一つだ。

 夜道を明かりも点けずに走り、そのまま迷宮へ飛び込んで六層まで駆け抜ける。いや、ほんと楽だこれ。

 戦闘音はない、七層側にも人はいない。では、参りましょう。

 特に話すこともないまま六十匹を潰し終えた所で辺りを見渡す。まだ数匹いる。距離の離れた大剣持ちの一匹に近づいて、攻撃を誘って受けてみた。

「おっ、結構重いなこれ……」

 受けたのは十手の鉤の部分でだ。時代劇などでこうやって攻撃をいなしていたような気がするのを思い出していた。霊鎧程度なら武器に十手を打ち付ければいいのだが、練習しておくに越したことはないと思い、こうして組手の相手をしてもらっている。

 こいつらに感情というものがあるのかは不明だが、変わらぬ動きで何度も何度も攻撃を向けてきた。多少動きにレパートリーはあるようだが、同じそれの繰り返しはさすがに飽きる。

 振り下ろされた剣を鉤で受けて、そのまま前に捻って横に薙ぐ。飛んだ十手を引き寄せて終わり。

「ちょっと危険だけど囲まれてみる? いや、逃げ場がなくなるのはまずいか。流石に斬られたらダメだ」

 万が一にも死ぬわけにはいかないのだ、女神の力で世界がやばい。迷宮にどんな悪影響があるかも知れたものじゃない。

「この辺りはギースにでも頼まないとダメかもね。剣術学校みたいなものがあれば、それでもいいけど」

 残った霊鎧でも似たようなことを繰り返したが、大して経験になったとは思えなかった。そのまま潰して七層へ向かう。飛んだ瞬間に引き寄せれば人前で近当て使っても平気かな? 流石に不用意すぎるかな。


 七層へ辿り着いた。地図もあるがこれは後だ。今しがた出てきた大岩の上に乗って周囲に目を配る。すると……いる、いる。ダチョウじゃない……ヒクイドリだっけ、世界一凶暴とか言われてる。あれだ、あれがいる。

 トサカがあって、首はあまり長くなくて、身体がもこもこしてて、私が知ってるそれより足が太くて、爪も鋭く大きい。あれ蹴られたらただじゃ済まないな。

 ただ、群れがいないように見えるのは朗報だ。空にも注意を向けてみるが、飛んでる個体は発見できなかった。そもそもヒクイドリって飛ぶのか……?

 足は太いが、それほど長くはない。爪が飛んでこない限り、攻撃範囲はそれほど大したことはなさそうだ。身体は大きいけど、ダチョウに比べればマシに見える。

「とりあえず一匹狩ってみるか、近くに……あれでいいね」

 遠目を切っていれば見えない距離に、一頭のみで佇んでいるのを発見した。これ、異なる二点の距離を比較しにくいな……。

 近寄っていくと、あちらもこちらに気付いたようで警戒心をあらわにしている。そろそろ突っ込もう、と思ったその途端、鳥は踵を返して物凄い勢いで逃げ出した。振り返ることなくひたすらに。

「えぇ……?」

 呆気にとられて追いかけることができなかった。太い足、するどいツメ、ギョロッとしたその顔つきからは想像もできない一手だった。意外と臆病なのかなあの子達。流石にわざわざ追ってまで屠殺して回ろうとは考えていない。向かってくるものだけだ、積極的に殴ろうと思うものは。

 試しにもう一匹近づいてみたが、やはりこの個体も脱兎の如く逃げ出した。うん、ごめんね。もう近寄らないから。

 八層への大岩まで駆け出し、次へ進んだ。


 空から鳥の鳴き声が聞こえる。ピーヒョロと。トンビかな? 確かに飛んでいる、あまり数は多くないがそれなりに確認できる。ただ……大きくないか、あれ。羽を伸ばして二・三メートルなんてレベルでは断じてない。その何倍あるのか見当もつかない。

 かなりの高度を滑空するように飛んでいるのは確認できるのだが、その、遠目を切っていても姿がはっきりと見えるといいますか。これ、近づかれたらダメな奴じゃないのかな。私は近づかないと攻撃ができない。

「初めて飛んでる個体を見つけたけど、流石にいきなりこれは……あれが凄い勢いで降ってくるんでしょ? いや、死ぬって」

 一度くらい相手をしておきたいが、ただ突っ込んでくるだけでも致命傷になりかねない。万が一食われて空に飛ばれたら私に為す術はない。いや、十手落とせば引き寄せで逃げられるか。どうしよう、適度な速度で一羽だけ降りてきてくれないかな……。

「十手を置いて、移動して、急降下してきたら十手に跳ぶ。そのまま襲いかかればいけるかな……?」

 周囲に人はいない、地上に他の鳥の姿も確認できない。空には数羽いる。このまま逃げるのも手だけど、一度試してみよう。ここの七層以降へ進んでいる人達はきっとこれを乗り越えている。あれから運任せで逃げ回れるとは思えない。

「よし、こいっ!」

 大岩から身体を離して身を晒す。発見されれば向こうから下りてくるはずだ。近づいてこなければ私には為す術がない。大人しく引き返そう。

 するとやがて旋回していた一羽が動きを変え、私目掛けて一直線に突っ込んできた。ミサイルかよ!

 十手をそばに放って身構える。狙いは私、まだ、まだ、まだ、『跳べ』っ!

 久し振りに使った十手側への引き寄せ、足元のそれを続けて手元に引き寄せると、目標を見失ったトンビに全力で突っ込んで一撃を入れた。そのまま地面を転がるそれに飛びかかってもう一撃。それで魔石になって終了だ。

 ダチョウのそれより大きめの魔石を残したが、回収は後だ。空にはまだ複数のトンビが飛び回っており、仲間をやられたことに憤ったのかピーヒョロピーヒョロ鳴いている。周囲からなんかどんどん……え、多すぎない? 集まってきすぎなんだけど。五とか十とかいうレベルじゃない。

「これだめなやつだ! 逃げなきゃ!」

 野生の勘というか女神の勘というか、とにかく地面に落ちた魔石を回収して大岩へ向かって逃げ込んだ。


「これは怖い。この階層レベルでもう一撃じゃ倒せないのか……近当て込みならいけそうだけど、気力はリビングメイルの時より気持ち強めでいったんだけどな……」

 これはちょっと考え直さないとダメかもしれない。相性が悪すぎる。

 あれが続けざまに降ってきたら、近当てで気力が切れた所に食らいつかれて真っ二つまである。そもそも体当たりを食らった段階で吹っ飛ぶ。痛いじゃ済まないだろう。

(参ったなぁ……どうしよう、実用できる防御的な結界……習得を急がないと先に進めないかもしれない。でも今の私じゃそれを理解できても、使えるかどうかはまた別の話なんだよね……)

 上空にはまだピーヒョロ鳴いている鳥の群れがいる。これはだめだ、撤収だ。

「悔しいなぁ……あれは遠当てがあればどうこうできるって相手じゃない。なんとかしないと……」

 敗北感を胸に、私は迷宮を後にした。帰りがけにダチョウを一匹だけ浄化しておいた。

 宿に戻って落ち込もうと思ったが、管理所……昨日の今日だけどどうしよう。定期的に顔を出すよう言われたけど、進展あったかな。

 流石にまだ時間が早すぎる気がする。店が開くかどうかといった時間だ。ご飯食べて少しゆっくりしようかな。屋台で適当に買い込んで部屋で食べよう。管理所は昼過ぎにでも向かえばいい。



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