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第五十三話

 

 細々とした作業をしていると結構いい時間が経っていた。ぼちぼち管理所へと向かいましょう。

 ないとは思うが、また逃亡することになったら困るので、荷物は全て回収して鍵を受付に預けておく。

「この時間なら役人さんいるかな。まだそれほど混んでもいないはずだし、ちょうどいい頃合いだね」

 勤務時間が変わっていなければ出勤はしていると思う。日は出ているがまだお昼前でもない、管理所も今ならそれほど忙しくはないはずだ。


 管理所は私の知っているそれと変わっていなかった。まぁ、ここを出てまだ……二十日は経ってないくらいかな。日付と時間の感覚が曖昧なのはなんとかしたいが、どうしたものか。日記でもつける? いや、絶対続かない……。

 受付の裏で作業をしている役人の姿が目に入り、カウンターまで足を進めて職員に彼女を呼んで貰った。驚いたような表情を浮かべて足早で近づいてきてくれる。

「お久しぶりです。少し伺いたことがあるのですが、今お時間大丈夫でしょうか?」

「ご無沙汰しております。はい、問題ありません。どうぞ、こちらへ」

 そのまま奥の個室へ案内される。これもなんか懐かしいな。

 着席を促され、お茶の支度をしてきます、と役人が退出していった。そこまでして貰わなくてもいいのだが、気遣いはありがたい。

 外套と魔法袋を下ろして座って待つ。こういう時十手は大体膝の上に置いてある。触れていれば問題ないので、刃物でもないし腿の下に挟んでもいいのだけれども、咄嗟で抜きにくいのは困る。

 しばらくして救援任務の指揮職員と役人が戻ってきた。わざわざ連れてきてくれたのか。確かに上の人間が居た方が話が早いね。


「ご無沙汰しております。お忙しい中申し訳ありません」

 二人が着席するのを待って声を掛けた。

「問題ない。エイクイルのことだろう。すまなかったな、今回のことは全面的にエイクイル側に非がある。こちらからも釘を刺しておいた」

「ありがとうございます。それで、どのような経緯であのようなことになったのでしょうか?」

「例の救援任務の後、聖女や騎士を無事救出してくれたことに対して、神官や騎士の上に立つ側の人間から貴方に礼を伝えたいと打診があった。

 以前貴方から頼まれた通り、連絡が取りづらいので直接礼を言うのは遠慮するように伝えたのだが、彼らは聞き入れずに独断で動いた。派遣された人員には確保して連れてくるよう指示を出していた。これは管理部でも裏付けを取ったので確かだ。穏便にいかなければ強行手段を取られていただろうことは想像に難くない。貴方の判断は間違っていない」

 ふざけた話だ。そんなエゴを押し付けられる身にもなって欲しい。溜息をつきながら会話を続ける。

「それで、私の拠点を知っている聖女から情報を聞き出して張り付かせたわけですか……それとも、彼女は自分から喋ったのですか?」

「聖女は抵抗したようだ」

「そうですか。なら、そのことで彼女を責めることはありません」

「聖女達は多少特殊な立ち位置ではあるが、それでも組織に属する人間であることに変わりはない。神官長からの命令には逆らえないだろう」

「困ったものですね……。エイクイルはまだ私を狙っているのですか?」

「それに関しては遠征団の責任者に留まらず、エイクイル本国へも苦情を送っている。滅多なことはないだろう。だが、何かあったら力づくで排除して構わない。これはすぐにでも残留している責任者から言質を取ろう」

「ご配慮ありがたく思います。それが最大の懸念でしたので。これで、私も他の迷宮に足を運べます」

 ちょっかいをかけてこないというなら、もういい。思うことはあるが、気にしても何にもならない。


「当然の配慮だ、礼を言われることではない。今回の件に関してはこれが概要だ。他に聞きたいことがあるのならば答えるが」

「彼らはまだ第四迷宮、死の階層での修行を企てているのでしょうか」

「それはないだろう。あれは騎士の独断だ、責任者側も把握していなかった。何らかの処分は受けているはずだ」

 エイクイルは堅物だが腐ってはいない。と言うことだが……まぁ、今はそういうことにしておこう。

「分かりました。私からはこの件ではもうありません。お時間を取っていただきありがとうございました」

 お礼を言って、指揮職員が立ち去るのを見送る。そのまま、役人に浄化真石の換金をお願いした。

「これは、朝まで時間があったので狩ってきた分です。これまで通り査定をお願いして頂けませんか? 代金はまた後日受け取りに来ますので」

「はい、お預かりします。査定の詳細はお支払い時に確認して頂く形でよろしいのですね?」

「ええ、詳細というか……いつもの魔石担当の方にお願いしていたような、楽な形の査定で構いません。単価がこれまでと乖離していたら、それだけ教えて頂けると助かります」

「承知致しました。前回お持ち頂いた分の代金はいかが致しましょう?」

「受け取って帰ります。お願いできますか」

 しばらくお待ちください。と役人が出ていった。よく受け取ってないこと覚えててくれたな。額が大きいからかな……。金庫の規模は知らないけど、それなりに邪魔だったことだろう。

「あー、色魔石はどうしよう……いいか、その内で」

 やっと一息つける。後は、エイクイルがちょっかいかけてこないよう、かけてきたら殺してもいいよう、言質を取ってもらえれば完璧だ。

 これで他の迷宮も見て回れる。資金面では大した利益にはならないけど、綺麗だしね。それに魔物のことはなるべく知っておきたい。

 一番の理由はお酒が届くまでの暇潰しだけど……これは誰にも言うまい。

 代金を受け取った後は特に用事もなかったので、お茶だけ頂いて管理所を出た。人も増えてきたな。どうしようか。

(六層へ行くか、第三迷宮近くの魔導具店を当たるかだけど……まぁ、後者だよね。確認だけはしておかないと)

 今回四千五百万貰って手持ちが八千百万弱。流石にこれ持って迷宮はだめだな。


 第三迷宮付近の魔導具屋はそう多くはない。というか二店しかなかった。店はそれぞれそれなりに大きく、品数も客も多く賑わってはいた。

 予想の通りというか当たり前というか、第三迷宮を攻略するに当たって有用な道具が数多く並べられており、その中にお目当ての暗視の魔導具もあったわけだが……。

(使い捨て、二時間で効果が切れて、お値段たったの六百万……流石にこれはないだろう。魔導具とはいえ……)

 見つけた御札のような魔導具のコストパフォーマンスは最悪だった。

 第三迷宮は集団で松明やランタンなどを用いて光源を確保するのが一般的だが、深層に進むにつれて闇は濃くなっていき、やがて明かりは意味を成さなくなっていくのだという。意味が分からない。

 その為、実力者はこの手の暗視魔導具を買い集めて一気に進もうとするのだと説明を受ける。

 継続的に使えるような魔導具もあるが取り扱ってはいないと。

 買えない額ではないが、マラソンで使えるような代物でもない。払いたい額ではなかった。

「私の希望にはそぐわないようです。お手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」

 それだけ告げて店を後にする。

(どうしよっかなぁ、第三迷宮の探索は別に必須でも何でもないんだけど……できないと分かるのもあれだね、しょんぼりするね)

 ゴーレムの時もそうだったが、いくら私が人間の域から逸脱しつつあっても、できないことはできない。

 空は飛べないし夜目も効かない。魔法も結界も使えない。

(結界はなんとかしたいけど……ん? ゴーレムの池は、十手落としてあっちに引き寄せられればなんとかなっ……あああだめだ、戻れないじゃん。何考えてんだ私。ちょっと落ち着こう)



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