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第四十八話

 

 十手が金属の小手を嫌がり、握ろうとしたら神力で小手を破壊した。

 そう、十手が神力を使ったわけだ。

 十手は近当てで判明したことだが気力を通す。普段行っている浄化は、その属性を十手を通じて相手に叩き込んでいる。

 だが、これは十手の持つ機能というわけではない。

 手を犠牲にする覚悟があれば素手でも近当てはできるし、素手で殴っても浄化はできる。普段やる機会はほとんどないが、靴で踏み潰しても浄化される。やったことは全くないが、近くにいれば触れなくてもいけるかもしれない。

 気力を通すのは、これが元々女神様の身体で、私は実質女神様なので、十手と私は本質的には同じものであるとか、そんなところなのではないかと考えている。そのまま手の延長みたいな感じで。

 しかし、これが神力を使うなんてことは今までなかったわけだ。

 引き寄せも浄化も十手ではなく、私本体に備わっている機能だ。十手そのものにも、私の知らない機能が隠されているのかもしれない。

「まぁ、こればかりは焦って探してもなぁ。私に被害なく、小手だけを破裂させたかのようにして破壊した。反動はなかったけど。ここだけ見れば……近当てのそれに少し似てるんだけどなぁ」

 気力で身体強化をしたまま神力で近当てできれば、絶対今より強くなる。だが、消耗に身体が耐えられないだろう。たまに索敵でふわふわを飛ばす程度でも疲れるのだから。

 索敵の疲労具合のみで神力の燃費を測る訳にはいかないとは思っているが、今のところ神力は気力と比べて持続性に難がある。近距離とはいえガンガン使っていけるものとは思えない。そもそも近当ては身体に満たした気力を全て使う。神力でそれをされたらたまったものではない。

 結界のこともある。私の愛しい女神様のそれが、誰にでも使える魔力由来の現象だとは欠片程にも思えない。これには絶対神力を使う。いざ結界をモノにできたとしても、攻撃に使いすぎて結界に回す神力が残っていませんなんてことになったら笑えない。浄化にだって使うのだから。

(神力の使い方……こればかりは自分でなんとかしないと。他の神様に聞いて回るわけにはいかない)

 とりあえず、十手特有の機能があるかもしれない、ということだけ覚えておけばいいだろう。


 翌日いつものように起床して朝早くから東門へ向かうと、そこは学者や魔法師のような恰好の人々で賑わっていた。エルフの姿も多数見かける。

 昨日とはまた違った趣だ。今度は魔法学校の訓練だろうか。

「あの、この騒ぎは一体何なのでしょうか?」

 門番に声をかけ、返ってきた答えに私は顔を引きつらせた。

「ああ、昨日ここで騎士学校の実地訓練があったんだが、そこで生徒が微細な浄化品が散らばっているのを見つけたんだ。一つや二つじゃなくてな、発見できた限りで百以上あったらしい。これはそれの調査団だよ。浄化した魔石が打ち捨てられるなんてことありえないからな。東側の魔物の多さが関係してるんじゃないかって話だ」

(あああぁぁぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……)

「な、なるほど……そういうことだったのですね。でしたら、今日は狩りは辞めた方がいいですね」

「しばらくは調査団が入るだろうから難しいだろうな。ギルドで護衛の募集をやってるから、それを受ければここで狩りができないというわけではないが」

「一度出直してみます。ここ以外ですと、魔物を狩るならばどこが良いのでしょうか」

「西だな。北と南は定期的に討伐隊が入っているから少ないよ。遠出するなら南の方に強めの魔物の群棲地があるが」

「なるほど、では西へ向かってみます。お話ありがとうございました」

 不審にならないよう気をつけてその場を立ち去った。


「南、南かぁ……遠出か……遠出するかなぁ。この辺は流石に魔物が弱すぎる」

 西へは向かわなかった。南の四層、冒険者ギルドを目指している。南の強い魔物の群棲地、それの情報を仕入れるためと、ついでに一度くらい王都の依頼をきちんと眺めてみようと思い立ったからだ。

 私は別にバトルジャンキーではない。だが、強くなるには弱い魔物より強い魔物を狩ったほうがいいだろうことは想像がつく。弱ければ死ぬのだ、私は死にたくない。というか、早々に死ぬと色々不味いことになると、私の愛しい女神様は言っていた。余計に死ぬわけにはいかない。強くならなければならない。

 それに資金だって必要だ。私は清廉な神の使徒などでは断じてない。別に豪勢な暮らしに浸るつもりはないが、風呂や食事をケチりたくはない。

 強い魔物、金になる魔物を求めて彷徨うのは、生きるために仕方がないことなのだ。

 私がジャンキーだったら、ギルドで登録した途端に情報を集めてそういったものを求めて駆け出していたはずだ。いや、まず気力学校に行かなきゃダメだけど、そんなことを忘れて突っ走ってもおかしくない。

 遠当ては無理だったが近当ては体得したし、王都での未練は学校や風呂くらいのものだ。死ななければまた戻ってこられる。そもそも群棲地とて深入りするつもりもない。

 そんな事を考えながらギルドの受付に話を聞きに行ったわけだが。


「南にある強い魔物の群棲地ですか、ヘスト盆地ですね。馬車で半日程の場所にありますよ」

 滅茶苦茶近かった。マジか。

「そこに出没する魔物の情報を閲覧できますか?」

「あそこはゴーレムの群棲地です。とにかく硬く、武器がすぐダメになるので魔法で相手をするのが一般的です。単体の強さは四から五級相当ですね。ただ、物理攻撃に特に強いというわけではないようですよ。素材の需要がありましたので、昔は人気だったと聞いています」

「今は人気がないのですか?」

「王都の壁の拡張は、公共事業も兼ねていますから。今の外壁が完成したのも二十年ほど前の話ですし、これ以上に広げるメリットも、今のところ薄いです。一応浄化橙石だけは買取依頼が国からずっと出ていますが、次の事業に踏み込めるのは何十年後とか、百年単位で後になるかもしれません。苦労してゴーレムを持ち帰っても死蔵されるのが決まっていますしね。今は不人気ですよ」

「王都の壁に使っている魔物の素材とは、ゴーレムのことだったのですね」

 入国の際若い護衛がそういえば言っていた。最近まで工事をしていたんだな。

「王都の壁にはあれの身体と、浄化橙石とをそれぞれ使いますので。魔石の方は制限なしでの買い取り依頼が国から常時出ています。貢献点も高めに付きますよ。ただ浄化橙石は世界的にも需要が高めですので、国に売るのは貢献点目当ての魔法師くらいじゃないでしょうかね」

「なるほど。一度見に行ってみたいのですが、地図のようなものはありますか?」

「南の街道をずっと真っ直ぐいけば着きます。途中で看板も出ていますし、迷うことはありませんよ」

「ゴーレム以外の魔物も出るのですか?」

「出たという報告はありません。私も見に行ったことがありますが、草一本生えていない荒れ地ですから。鳥も飛びませんよ」

「お話ありがとうございました。今度見に行ってみます」

「いえ、ご武運を」

 お礼を言ってギルドを後にする。今から……見に行ってみようかな。

 ようはリビングメイル二号だ。身体の方にも利用価値がある代わりに魔石は安いんだろう。ただ、需要は高いと。世界的に。

「暇潰しにはちょうどいいかもしれないね」

 水も保存食もまだ残ってるし、時間もある。街道で走れるかは分からないが……明日からどうするにしても、一度現場の確認をしておきたい。

「よし行こう。リビングメイルより厄介ってこともないだろう」

 馬車で半日なら、走ればすぐだ。お昼までには着けるだろう。

 大通りまで出てそのまま外門を目指すも、近づくにつれて人がとにかく増える。本当に多い、ぎゅうぎゅう詰めにされる。これはきつい。

 門の近辺は流石に人が少ないのだが、日中この辺りに近づくのは自殺行為だ。早朝か夜間か……出発するならどちらかだ。

(野営ができれば夜出てもいいけど、どうしたもんかね)

 門を出て、現実的な速度で街道を駆け出す。今日は一匹二匹狩ってそれでお終いでもいいと考えていた。

 本腰入れて狩るなら、準備を整えて時間を目一杯使いたい。往復にかかる時間とゴーレムの強さ、数、地形。この辺りを確認したら戻ろう。

 道行く馬車を避けながら、そんなことを考えていた。



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