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第四十六話

 

 翌日、早朝に起床して井戸で洗面を済ませ、いつものように身体を動かして水を入れ替える。久し振りにやったなこれ。

 迷宮と違い、早朝の魔物狩りは注意の必要がある。暗いと敵が見えないからだ。迷宮に慣れているとこんなことにも違和感を覚えてしまう、やはりあそこが恋しい。

 部屋の鍵を閉めて受付で鍵を返す。まとめて料金を払えば割引がかかるか聞いてみたが、それはやってないらしい。

 また夕方来るかもしれないと伝えて宿を辞す。ランタンを持って暗い大通りを東門まで進んで外に出た。


 昨日考えていたことがあるのだが、突いてみるのはどうだろうか。

 振るから、こう、反動で反対に、どこかあっちの方に、十手が吹き飛ばされるわけだ。突くなら、反動でも自分の方へ飛んでくるだけではないか。十手が身体に当たっても痛くないし、身体の近くに飛ぶなら引き寄せを隠せるかもしれない。

 それに、起爆点の面積を、より小さくできるかもしれない。

 振って敵を殴った場合、打撃の接触面と起爆点の位置がズレると、その近当てはあまりいい衝撃にならない。ガ、ガン! と二回当たるようになる。

 これが上手く重なると、ガガン! となっていい衝撃になるのだ。ガ、ガン! とならないようにするには打点と起爆点の位置をズレなく設定する必要がある。起爆点の面積を広げればその問題は解決するが、そこを広げれば威力が下がるのは理の当然だ。

 これが突きだとどうだろう。棒身の先端に起爆点を作って突けば……?

 起爆点の面積をより小さくでき、同じ気力でも威力を上げ上げられるのではないか。そしてガガン! と気持よく突けるのではないか。

(これはいい案だ。私もたまにはいいことを思いつくじゃないか)


 などと、思っていたわけだが……。イタチやトカゲを突くのはきついし、ヘビの頭を突くのは無理だ。

 狼くらいならいけるが、最初から突きを狙っていると、私史上一、二を争う危うさを見せた。

(これは二の太刀用だ。普通に頭を殴って、次の打突に起爆点を設定しよう)

「いい案だと思ったんだけどなぁ」

 フェンシングのような、突きの練習も取り入れるべきかもしれない。振るより隙が少ないのは確かだと思うのだ。

 ぼちぼち昼前になろうかという頃合い。今日は買い物もあるし、早めに切り上げることを覚えていた自分を自賛して東門へ戻る途中、私とは別ルートで森の奥に入ろうとしている少年少女達を目撃した。一様に剣と部分鎧にマントで武装した騎士らしき姿。見習いかな、六人ほどで行進している。

 昨夜の子達とは違うようだが、私以外にも利用者がいるというのは確かなようだ。ここは大した魔物はいないようだけど頑張って欲しい。

 東門まで戻って町をふらつこうとするも……服屋はどこだ? 王都は店がありとあらゆる所に散っていて本当に困る。近くにいた門番に聞いてみるも、流石に女性用の服の店は分からないとのことだった。

 その辺の若い女の子を捕まえて聞いてみるかな。でもナンパだと思われたら恥ずかしい。アルト商会まで出向いてみる? でもあそこは一部の護衛と面識があるだけで、別に商会に知り合いがいるというわけでもないんだよね。道もあやふやだし。いっそギルドで依頼を出してみようか。街の案内、小金貨五枚とかで。

「ん、これは案外いい手なのでは……でも今からじゃ無理だな、パーカーもうないし……明日だとちと困る」

(あーでも、案内にかこつけて変な所に連れ込まれて怖いお兄さんがいるとかなったら面倒だな。待ち構えられるや。ままならないなぁ)

 やっぱりその辺の娘ナンパして聞いてみよう。私はいつでもフードを被ってる怪しい風体だが、これでも若い女だ。警戒せず乗ってくれる子もいるかもしれない。


 そんな感じで手頃な子を見定めようとキョロキョロと視線を動かしているときに、いきなり声を掛けられたわけだ。

「お姉さん、さっきからどうかしたんですか? 何かお困りですか?」

 つい先程、門の外で見た少年達と同じような恰好の少女。碧眼でセミロングくらいの金髪をポニーテールにしてる、活動的に見える若い子だった。

「私服と下着を扱っている店を探しているのですが、王都には来たばかりで……どう探したものかと困っていたのです」

「服なら西がいいですよ! 三から五層は手頃なものも多いです。お値段高めのものなら北の二層にいい所がありますが、そこは一見だとお断りされてしまうかも……」

(一見お断り、やっぱりそういうのもあるのか。金持ちは商人を呼びつけるようなイメージがあったが……出向いたりもするんだね)

「西の三から五ですね。行ってみます。ありがとう、助かったわ」

「いえ! こんなの全然大したことじゃないですよ! 良い物見つかるといいですね!」

 それだけ言うと駆け出して行った。犬みたいな子だな。いやしかし、ナンパをしようとしたら逆ナンされかけるとは……違うか。

(とりあえず西だ。このまま三層まで出向いて、西の三から五を見て、戻りながら買ってお風呂へ行こう)

 まだお昼にもなっていない。今日はゆっくり見て回れる。


 ブラがあった。

 今までどこでも見たことなかったんだけど、ブラジャーが売っていました。いや、流石王都。

 とは言っても、馴染み深いストラップ付きのあれではなく、チューブトップとかベアトップとか呼ばれるタイプだ。身も蓋もない言い方をすれば、腹巻きを上にずり上げて胸を下から支えるといった感じのもの。

 伸縮する素材が一部に使われていて、多少動いた程度ではびくともしないと力説された。ゴムかな?

 特にワイヤーなどは仕込まれていない。形の補正とかより、下着色が強い。布……何の布かは分からないけど、布製。なくてもそれ程困りはしていなかったが、あるなら使ってみようかな。動けばまぁ、痛いし、先は擦れないに越したことはない。

 サイズやデザインの違うものがいくつかあったので、試着を繰り返して気に入ったものを数枚まとめて購入しておいた。ついでに可愛いパンツも。色は秘密だ。色々と選びたかったが、上下違う色を着けるのもあれなので全て同色の物で統一しておいた。お値段はそこそこしたが、いい買い物をした。また来よう。

 パーカー的な物が売ってるお店を対応してくれた店員に聞いて、帰りにこれまで着ていたようなものを複数買って、東の三まで戻って入浴と洗濯、食事を済ませて就寝した。宿は同じ所を七日借りておいた。


 翌朝起床した時には既に日が上っていた。珍しく寝過ごしてしまった。朝には強い方なんだけど。

 まぁ、予定はない。洗面を済ませて水を入れ替えて、軽く運動をして部屋に戻る。今日からは突きの素振りも重点的にこなす。

「動いてるものを点で突くのは厳しいと思うんだけどなぁ……」

 威力にかまけて攻撃を外したら何にもならない。一日中蛇の頭を突いて回る? 修練にはなりそうだけど、ストレスで心がやられそうだな……。

「というか、握力を補強する魔導具的な物があれば解決しそうだな。籠手とかグローブでも……ん?」

 ひょっとしてこれは、あれか。

「布でグルグル巻いておけば、飛んでいかない?」

 布はダメになったパーカーがいくらでもある。すぐにでも試せる、まだ時間はある、よしいこう。

 しかし、外に出るまでが長くて面倒だ。やっぱり王都を離れようかな……半年我慢すればそれで済む話ではあるんだけど、あまり最初の町から遠ざかりたくもない。とすれば、行ける範囲なんて限られている訳で。そこが王都より魔物を狩り易い土地とも限らない。

 そもそもパイトに戻れさえすれば問題は全て解決するのだ。あーほんとにエイクイル……余計なことしやがって。



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