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第四十四話

 

 全てではなかったが、乾燥の魔導具のそばにかけていた衣服が軒並みダメになっていた。

 二時間追加した後も、身体を洗い直して上機嫌で湯に打たれたり、湯船に浸かってダラダラしていたのだ。三十分も入れておけば十分に乾く乾燥室に、都合三時間近く放り込んでおけば……まぁ、こうなるだろう。

 乾燥室へは入れていなかった、キャミソールとホットパンツの魔導具が生きていたのは本当に幸いだった。これが死んだら立ち直れてはいなかっただろう。比較的マシだったパーカーを着ればまだマントなしでも見栄えはする。だが、手持ちの衣服がほぼ壊滅したことによるショックは大きい。

 パーカーはこの一着以外全滅だった。布の塊かな? と思うレベルで収縮しているものもあった。下着は最早、脱ぎたてのそれと変わらず、広げても元に戻ることはなかった。靴下も履いていればさほど気にならないが、その姿は脱ぎ捨てたそれと何ら違わない。タオルはどうでもいいとしても……。まだ酒が残っていたのだろうか、愚かな自分を殴りたい。

「あーん……どうしようこれ……もう着れないよね……布だもんこれ……服じゃなくて……」


 浴場で呆然としている訳にもいかず、とりあえず荷物をすべてまとめて宿へ引き返していた。借りていた部屋で改めて衣服をベッドに並べてみたのだが……。

「こうなった以上仕方がない。持っていても仕方がないからこれは処分する。服がないのは困るから新しいのを買う。石鹸はあそこを使うなら当面は必要ないか……タオルは使えるけど、綺麗なのを一、二枚かな、それで十分。どの道下着は可愛いのを買おうと思っていたんだ、延び延びになってたけど。靴下はまぁ、履けるし、そうするとダメになったのはパーカーだけか。そう考えるとまだ慰めにはなるね。……はぁ」

 昼前に起きて四時間風呂に入ってしばらく呆然とした。もう辺りは暗くなる。さて、どうしよう。

「ご飯食べて寝よう。流石に外に出るかな……今日は……お酒はなしだ。検証する気になれない」

 飲みながら浄化すればどうなるか、調べてはおきたかったのだが。……だが、やらかして即酒に走るのはなんというか、避けたかった。

 近くの食堂で適当に食事だけを取って、宿に戻って大人しくベッドに横になる。宿は今日まで、明日からどうするかな。

「観光案内所みたいなところないかな、それか地図。王都は広すぎる。拠点を構えるとすれば、風呂が東の三、ギルドが南の四だから、現状その辺りの宿が候補になるけど……歩いて探すか。後は服屋をまわって……忘れない内に気力のあれを実地で試しておこう。迷宮はこういう時便利だったな……依頼はいいや。適当に魔石にして、それを売ろう」

 いや、朝から外で気力を試して、それから買い物かな? あまり褒められた行為ではないが、服を適当に外に捨ててくるという手も……

「とりあえずお風呂には入りたいから、宿はあの浴場に通えて利便の良いところがいい。んで、お風呂代はこちらの稼ぎで工面するようにしよう。でないとパイトに戻るまで、私は延々と風呂に入るだけの機械になりかねない。パイトに帰らないまである。いや、お金だけ取りに行ってそのままとんぼがえりを……」

 それは流石に避けたい。明日はとりあえず外に出て魔物を狩って、服屋を回る。とりあえず予定はそれだけ、後はその時決める。おやすみ。


 翌日朝早くに目を覚ます。明かりを点けて軽く運動をし、荷物をまとめる。ついでにバラバラになっていた大金貨をまとめ直すことにした。

「百の束はノータッチ、袋はやたら沢山あるから、これも百枚ずつにして袋に入れておこう。捨てる服はそのままでいいや」

 ここで問題が出てくる。水だ。最後に街道沿いの街を出てから替えていない。水袋の中身も、毎日浄化はかけているが、恐らくこれはもうだめだろう。仮に大丈夫だったところで心情的に避けたいが……ん? いや、腹を壊しても浄化すればいいのか。……ありがとう! 私の愛しい女神様っ。

(まぁ、流石に腐った水に浄化をかけて飲むのは嫌だから、毎日かけ続けるとか、入れ替えができるときは入れ替えるとか、そのくらいはするけどね)

 荷物をまとめて外套を羽織って、十手も持った。よし、とりあえず王都の外へ向かうのだが。

「どっちに行こうかな。西から来たから西なら魔物がいるのは確定だけど、東側を拠点にしたいから、まずは東に行こう。魔物がいなかったらギルドで話を聞いて、それからまた決めればいい。決まり」

 受付で鍵を返し、お礼を口にしてから東門へ向かって歩き始める。四方は大通りを突き進めばいいので、門まで迷うこともなく安心だ。流石に時間が早いので、道中の店はまだ閉まっている。特に屋台なども見当たらない。

(そういえば王都に来てから屋台見てないな、規制されてるのかな?)

 パイトと違って看板にランクがついていることもなく、閉まっている扉だけでは中がどんな店なのか推測もできない。宿も食堂もそうだが、私の見てきた限り、王都はあっちこっちに店が点在している。パイトの中央のように、固まっていれば客としては助かるのだけど。

 あと、早朝であるのにそれなりに人が歩いているから、走れないのも問題だ。門を出るまでにえらい時間がかかる。

 この点パイトは……となる。私には王都よりも、やはりパイトの方が向いていそうだ。

「でも王都にはあのお風呂があるし、どっちもどっちだな……」


 そして大きな東門へ着いた。待ってる人はいない、後ろにもいないので門番に話を聞いてみることにする。

「おはようございます。この辺で魔物を狩れるような場所はありますか?」

「東門の外はしばらく行くと、森に近づくほど一面魔物だらけだよ。探すまでもない、よりどりみどりだ。知っててここに来たんじゃないのかい?」

 なんだと。それは全く知らない。ていうかなんでそんな危険な場所になってるんだ、ここ王都だよね?

「いえ、存じ上げずここまで参りました。東に来たのは……宿から近かったからでして」

「そうか、こっちは街道がなくてな。昔はあったんだが、魔物が多くて閉鎖されて、街道は北と南に統合されたんだ。旧街道沿いに進めば外にも出られるが、まぁ気をつけるといい」

「お気遣いありがとうございます。あの、街道がないのであれば、何故門として機能しているのですか? 塞いでしまっても良いのでは」

「冒険者や学生が魔物を狩るのに使うからな。塞ぐより門番を置いてでも色々狩ってきてもらう方が儲かるんだろう、きっと」

「なるほど、そうなのかもしれません。では、私も行ってきます。お勤めご苦労さまです」

「ああ、気をつけてな」

(人が多いとなると見られるかもしれないな……近場から試して徐々に奥へ、かな。普通だね)


 門を出て森方面に軽くふわふわを飛ばしてみるが、まぁいることいること。

「ひどいなこれ、多いなんてもんじゃないぞ……奥へ行くのはだめだ、危険すぎる」

 瘴気地帯かと見紛うようなその反応の濃さに顔をしかめる。こんな所に突っ込むのはよほどの実力者か勇者か、ただのアホだ。

「これは閉鎖されたというのも分かる話だ。とりあえず地道にこなしていこう」

 門や城壁のそばは結界が引かれており、魔物が押し寄せてくる心配はない。──結界。そう、結界だ。

(魔物に嫌悪感を与える感じのもの……かな、臭いから近寄りたくないとか、そんな感じなんだろう。割と局地的というか、部分的というか。これも解除できそうだけど、バレたら悲惨な目に遭うよね。でもちょっと調べてみよう)

 結界の上を行ったり来たりしていると、その質と構成要素などが手に取るように解り、これが魔法ではなく魔導具によるものであることも判明した。等間隔に地面に埋めているのだろう。

(これ再現できたら野営の時便利そうだな。覚えてはいるし、後で練習してみよう)

 道草はここまでにして魔物退治に向かう。鹿が出るか狼が出るか。さてはて。



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