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第四十一話

 

 石の町。私の第一印象はこれだった。

 レンガや石を積み上げたような、大きく頑丈そうな建物が規律よく並んでいる。色はとりどり、地面もまた石畳で、この印象を更に強いものにしていた。

 そしてまぁ、人がとにかく多い。馬車も多い。日本の都会というよりはラッシュ時の電車かと言わんばかりの人人人人、馬馬馬。よくこんなんで移動ができるな。

 見れば、歩行者と馬車の通行区分は明確に分けられているようだった。こんな中無秩序に歩きまわったら一瞬で死体の山ができあがる。

「門の近くはとにかく混むんだ、進めば少しはマシになる。とりあえず先に商会まで来てもらう。はぐれないように注意してくれ」

 中年護衛にそう言われ、馬車のそばから離れないようにと努めた。はぐれたら二度と合流できないのは確定している。

 幸い、馬車の通行区分は歩行者のそれよりは遥かにマシな混雑具合であったのだが。

 あの異常な混雑具合は門のそばのみの話であったらしく、道を進むにつれて幾分かマシになってきた。しかし、それでもパイトよりずっと賑やかだ。

 そして正に人種の坩堝。今まであまり見かけなかった、ハーフリングや巨人のようなものもいるし、エルフやドワーフも当たり前のようにその辺にいる。パイトではこの辺の種族は群れていることが多く、話す機会もなかったのだが、ここでは当たり前のようにエルフと巨人と(ひと)種が並んで歩いていたりする。エルフとドワーフは相変わらず仲が悪いのかな? それも偏見なのかもしれないが、今はいい。

 門から歩き、内門を一つ越え、更に歩き、更に門を越え……やがて馬車の歩みが止まった。高さは四階建てくらいかな、だが広さが凄い。地価だけで物凄い額になってそうなその商会──アルト商会を見上げる。そして見渡す。物流センターかよと言わんばかりの広さだった。馬車は建物の裏手に進んでいった。

「こんな広さの商会が……王都の中にあるのですね」

「ああ、ここは大昔王都の外れだったらしいんだが、拡張が何度もあったお陰でな、今じゃ中心部に近い二等地さ。土地を売るって話もあったみたいだが、商館と倉庫を兼ねられる便利さを、代々生まれた時から知っているからな。全て流れているんだろう」

「なるほど、確かにそうなのかもしれません」


「姉さんもやることがあるだろうし、先に依頼の報酬を支払う。ちょっと付いてきてくれ」

 そのまま中へ案内され……いや、中に興味はあるがそれは後だ、奥の個室へ案内される。窓はある、木製、大丈夫、壊せる。そのまま椅子に座ってしばらく待ち、中年護衛が布袋を持って戻ってきた。

「日当が一万、八日で着いたが、十日の予定だったので十日分払う。歩合が鹿二十五と猪一、鹿で五十万と猪が三万だ。計六十三万だが、これでいいかい?」

「はい、それで問題ありません。これで依頼完了ですね」

 差し出された布袋の中身を確認して、額が合っていることを確認するとそのまま魔法袋に放り込んだ。

「ああ、これで完了だ。被害なくここまで辿り着けたのは姉さんのお陰だ。感謝してる」

「私も安全でしたし、勉強にもなりましたから。お互い様ですよ」

「そう言って貰えると助かる。んで、酒についてはどうする。品を一任してもらえるなら、半年あれば大抵のものは十分量も揃うが」

「そうですね、内訳に関してはお任せします。ドワーフの喜ぶ良い酒を、それなりの量。この条件さえ押さえていて貰えれば」

「ああ、問題ない。商館の者を連れてくる、契約書はそいつと詰めてくれ。俺はまだ仕事が残っているんでな」

「いえ、お手間を取らせてしまい申し訳ありません。ありがとうございました」

 中年護衛がこの場を去る。入れ替わりにやってきた中年の商人と話を進め、前金で大金貨三百枚を支払って契約書を預かり、冒険者ギルドの場所を聞いてこの場を辞去した。


(さて、久し振りに一人だ。待ち侘びた。とりあえず身分証だな、冒険者ギルドへ向かおう)

 王都は中心部から、数枚の内壁を隔てて区画分けされている。第一層、第二層、みたいな感じで。零層はなく、そこは単に王城と呼ばれている。そこから更に方位で仕切ることで、北の第三層といった感じで割と具体的に場所を指定することができるわけだ。もちろん国はもっと厳密に管理しているだろうけど。

 私が目指している冒険者ギルドは南の第四層にある。治安のいい町並みと普通の町並みの境になっているような、そんな区画だ。

 そこにはやはり、だだっ広い石造りの建物がそびえ立っており、その中はパイトのそれとおおよそ機能は変わらないようだが、役所然としていたパイトのそれよりも、活気と熱気に包まれていた。とりあえず依頼に用はない、誰かに絡まれる前に身分証を作らなくては。

「こんにちは、冒険者の登録に来たのですが、こちらで大丈夫でしょうか」

「ああ、ここでいいよ。言葉は話せるな、文字は読めるかい?」

「はい、読み書きはできます」

「ならオッケーだ。身体も動くね? なら登録するからこれに名前と性別だけを記入してくれ」

 紙、羊皮紙? よく分からないが、普通の物とは違う紙とペンを差し出され、そこに指示された通りのことだけを書き、受付に渡す。サクラ。女。

 そしてその紙を受け取り、受付の後ろに設置されている機械のようなものに通して……一枚のタグを持って戻ってきた。

「これがアンタの登録証だ。無くしたら再発行はできない、一からやり直しだから気をつけてくれ。破損の場合はどこでもいいから冒険者ギルドへ持っていけば再発行ができる。手数料を取られるから一からやり直してもいいぞ。ただし三級以上は例外事項がある、それはそんとき説明を受けてくれ。依頼は自分の級の一つ上のものまでしか請けられない。これも三級以上は例外がある。他に何か説明がいるかい?」

 色々あるにはあるが、まぁ今はいいだろう。しばらく冒険者として活動する予定はない。

「いえ、特にはありません。ありがとうございました」

「ああ、気をつけてな」

 登録料として小金貨一枚を支払い、その場を後にした、とりあえず宿……の前に道場か。長く居座るなら近場がいいし。


 そのまま北の第五層を目指す。中心部を突っ切れないので四層をグルっと迂回して北側へ出向き、門を一つ越えて五層へ。目的地はこじんまりとした石造りの建物だった。こんなところで修行ができるのだろうか? しかし、看板には『タウリス気力学校』の文字が。教わった通りの名前だ。もしかして机上のお勉強だけで身体を動かしはしないのかこれ。

 少し、悩んだが……悩んでいても……仕方ないのだが……足を踏み入れることにした。

 中は、一言で言えば散らかっていた。

 運動着のような、体を動かすに適したような同じ衣服が竿にかけられて下げられている。床には何に使うのか分からない雑多な道具や、筋トレに使いそうなバーベルのようなものまで、適当に置かれている。

 受付のようなものはなく、机のようなものもない。玄関を入って直で四角いワンルーム。炊事場のようなものも見当たらなかった、なんだここは。

「ごめんください、どなたかいらっしゃいませんか?」

 声をかけてしばらく待ってみるが、返事がない。どうしよう……。再度声量を上げて繰り返してみるが、やはり返事はなかった。

(不在? にしても扉に鍵はかかっていなかったし……。どうしよう、先に一泊して朝一でまた来ようかな)

 とりあえず外に出ることにした。家主不在なら中にいるのは不味いだろうし。にしても、学校……本当に学校なのかここは。

「待つか、出直すか。近くに宿のような場所はある、流石に暗くなる前には誰かしら帰ってきそうだけど、もう営業は終わってたりするのかもしれない。んー、どうしよう。鍵を掛け忘れた? でもなぁ……」

(もしかして、外に鹿狩りにでも出てるのかな。廃校になってるってわけでもなさそうだし……)

 そのまま日が落ちるまで待ち続けたが、結局誰も帰ってこなかった。仕方がないので近くにあった宿で一泊する。割と雑な宿だったがパイトの宿と同じ値段を取られた。王都は物価も高いんだろうか……。ただ、シーツだけは洗濯してあった。そこだけは不幸中の幸いといったところだろう。



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