表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/375

第三十九話

 

 翌日起床して井戸を借りようと階下に降りると、既に中年護衛を含む幾人かの護衛が起床していた

「おはようございます。随分と早いのですね」

 近くにいた年嵩の護衛に話かける。

「おはよう。食後すぐに動くと辛いからな。そういう連中は年寄りが多いし、なおのこと朝が早くなる」

「なるほど。私も支度が済み次第頂きます」

「ああ、注文しておくよ」

 お礼を返してそのまま井戸へ。洗面を済ませて水を入れ替えて浄化する。身体を少し動かして食堂へと戻った。外套は脱いである。

 朝食は昨日昼に取ったものと然程変わらなかった。野菜の酢漬けのようなものが特に美味しい。気に入った。ほしいなこれ。

「王都まではどれ位の予定でいるのですか?」

「十日くらいだな。何事もなければ八日で着くが、最近はそう上手くはいかん。辿り着けない同業も目立つ」

 鹿の被害は割と深刻のようだ。弓で遠くから一気にとはいかないのかな。

 というかそもそも、魔法で遠くから一気にドーン! と、できないものなのか。私はこの世界に来てから魔法というものを全く見たことが……いや、聖女ちゃんの結界があったか、あれくらいだな。でもほとんど見たことがないという事実は変わらない。火の玉だとか、風の刃だとか、あるのだと思う。正直見てみたい。自分で使いたいとはあまり思わないけれど。魔法少女って年ではない。

(いや、でも少し前の魔法少女は拳で戦っていたな……十手も見ようによっては杖に……?)

 私は拳では戦わないし杖で魔法も使わないし、不思議妖精と繋がりができるアクセサリーも持っていない。大丈夫、魔法少女ではない。何よりもう、少女なんて年では……。

 そんなことをグルグルと考えていると、人が多くなってたので食器を片付けてその場を後にした。部屋の鍵を返して外に出る。荷馬車が六……いや、八か。結構な数だな。

 三頭引きの大きな荷馬車が八台、馬の維持だけでも大変そうだ。ていうかこれだけ大きいのに三頭引きなんだ、四頭じゃない理由はなんだろう。


 商人らしき人物が最後に合流して、私達は王都へと向かって進み始めた。

 と言っても道中はただ歩くだけ。暇なのは皆同じなので、中年や年嵩の護衛と雑談をしながら歩くことになる。

「なるほど、パイトの管理所は冒険者ギルドとは別の機関なのですね」

「ああ、ギルドがないのはパイトくらいだろうな。他の迷宮都市は大体冒険者ギルドが根を張ってるよ。迷宮を管理する部門もあるが、純粋にそれだけをする部署だな。パイトは管理部が全てを司っているが、まぁどちらにも良し悪しあるだろう」

 冒険者ギルド。収入を得るにはやはりここを利用するしかなさそうだと感じていたので、色々と話を聞いてみることにしてみた。

「冒険者ギルドに所属する具体的なメリットとは?」

「一番大きいのはやはり身分の証明ができることだろうな。王都に限らないが、身元の怪しい余所者を入国させない国や町ってのはそれなりにあるんだよ。田舎者はまず他所で証明を取ってから大国へ向かうのが普通だな。俺もそうだったよ」

「私はそのような身分証を持っていないのですが、どこかで取った方がいいのでしょうか」

「いや、うちのリーダーでも雇い主の紹介でも、後ろ盾になってくれる人がいれば入るのは簡単だ。その後は嬢ちゃん次第だが、身分証を取得する前にやらかすと下手したら牢から出られなくなる。そこは気をつけるんだな」

「なるほど。その時が来たらお願いするかもしれません。ギルドに所属するのは難しいのですか?」

「いや、そうでもない。意思の疎通が出来て規約を守ると宣言すればその場ですぐ発行してくれる。戦闘力は身体を動かせる程度で問題ない。冒険者のランクを上げておけば大体どこの国でも通じるからな、便利だよ。商人でも商業ギルドと冒険者ギルドを兼ねて所属してるだなんてことも普通だ」


 高ランクの冒険者は社会的信用も高いのだろう。信用はあるに越したことない。

「商業ギルドの身分証はそうでもないのですか?」

「田舎の方は商会の力が届きにくいからな。それに金儲けが上手いだけで、魔物を倒すのが上手いというわけじゃない。命がかかってる時に役に立たないから、ランクが高くても一目置かれるとか、そういうことは少ないな。商会主クラスならまた別だがね」

「なるほど……。ん。鹿が三頭、あちらの方向です。背の低い木の影に一頭見えているのが分かりますか」

「お、おお。よく気付いたな。おい、後ろの連中に気をつけるよう伝えてこい」

「わかりやした!」

 適度にお仕事もする。今のところ少数か単独のものしか見つけていないが、あれが何十とまとまって襲ってくれば面倒だ。索敵は欠かせない。

「他のメリットは、やはり依頼の量だな。パイトにもあっただろう、王都はあれの何十倍と掲載されてる。冒険者ギルドは魔石を買い取らないからな、魔石の納品依頼も掲示に並ぶんだ。現品を直接持って行って、ギルドを通せば依頼者と顔を合わせずに取引を完了させるなんてこともできる。脛に傷を持ってる奴も多いから、そういう手も普通に認可されてる」

「素性を明かさずに依頼を請けることはできるのですか?」

「いや、それは無理だな。依頼を請けられるのはギルドの所属員に限られる。例外として、現品を直接持っていくことで依頼を請けずに報酬を得るという手を取れるだけって話だ」

「依頼を請けないのは……ランクを上げることで何か不都合でも生じるのですか?」

「ああ、ランクを上げると年会費が上がるんだよ。単に身分証として使いたいだけなら一切上げなくてもいいのさ。それでも活動実績がないと剥奪されるから、年に一回薬草を採取して納品するとか、そういう手を使う必要はあるな」

「現品を直接納品した場合、ランクが上がったりは?」

「それは選べる。ランクが上がるというよりも、貢献点を全く得ないか通常の半分だったかな、得ることが認められる。それが溜まることでランクが上がり、より上位の冒険者と認められるわけだ」

「ランクを上げることによって得られるメリットとはどのようなものがありますか?」

「難度の高い依頼を請けられることと、あとはまぁ、名誉くらいじゃないかな」

「駆け出しにドラゴン狩らせるわけにもいかないからな」

「なるほど、確かにそうですね」

「指名依頼が来るのも一応メリットじゃないっすかね」

 比較的若い男が話に加わってくる。指名……指名かぁ、それは面倒だな。

「あれは圧力かけて断れないように迫るってのもあるから、メリットとはまた違う気もするが」

「名前が売れるとそういうこともあるのですね」

「後はギルドを通さずに直接依頼されるだとかな。貢献点も付かないが、そういうのもある」


「なるほど……。あちらの方向に、猪……かな、大きいのが一匹いますね」

 目立たないように魔石だけを売るのは難しいかな……実際に依頼を確認してからか。とりあえず身分証は欲しいし、登録するのはほぼほぼ確定で考えたほうがよさそうだ。

「あー、大猪か、どうするかな……放っておけば近づいてこないことがほとんどなんだが、忘れた頃に後ろから襲ってきたりするからな。それにあれは皮も角も高く売れる」

「打撃で潰すならどこがいいですか?」

「顔と腹はそれほど価値は高くない。潰すなら顔だな、次に腹だ」

「狩ってくれば引き取って下さいます?」

「報酬に上乗せしよう。肉も美味いしな」

「では、ちょっと行ってきますね」

 買い取ってくれるなら、猪の一匹狩ってくるくらいなんてことはない。私の金銭感覚は、浄化真石のそれでぶっ壊れている。普通の冒険者のそれも、知っておく必要があると感じてはいた。

 駆け足で突っ込み、寝ていた大猪の顔を潰して腹を引きずって戻った。しかし、楽だ。もっと本格的な戦闘訓練もしたいな、ギースが戻ったら頼んでみよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ