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第三十四話

 

 全ての魔石を取り出し終える。毎度毎度この作業は本当に手間だ、なんとかできないものかね。

「報告の通り百二十一個だな。正確に数えていたようだが、そんなに余裕があったのかね?」

「数の多寡を見誤ると囲まれて死にますので……。必要に駆られて鍛えたと言いますか」

「なるほど、数は脅威か」

「脅威です。上を心配しなくていいのでまだマシですが」

 そう、上だ。どうしよう、飛んでる魔物の相手ができない。放出系の魔力行使を覚えるべきなのか……でもなぁ。最初に覚える魔法は身体強化にしたい。そもそも私は普段から魔導具にガンガン魔力を吸わせているのだ。気に入って買ってしまった装備は今のところ全てこの類の品だし、きっと今後も見つけたら買うだろう。魔法袋が増えることはほぼほぼ決まっている。放出系魔法に回す余裕があるのだろうか。

「お待たせしました。査定の方終了しました。それで、数の方はいかがでしょうか」

「お疲れさまです。九と十四……で、どうでしょう?」

「──なるほど。やはり何か思い当たる点があるようですね。はい、二十二個程、やや質の悪いものが見受けられました。ほんの僅かではあるのですが、これら二十二個分は若干査定額が落ちています」

 ビンゴだ、やはり私は一人でやっていかないとだめっぽい。


「興味深いな。差し支えなければ話を聞かせて頂きたい」

「数が当たったというだけで、確定した事実というは保証できませんが」

「構わない」

「では……。魔石、浄化品の質は、浄化の純度に依存するのではないかと」

「純度とは」

「魔物がいるとします。この魔物は、新品を棒で十回殴ると死に、また新品に浄化を十回かけると死ぬとします」

「つまり、一回分のダメージは同じだということだな」

「はい。私はリビングメイルを倒す時、手法は様々ですが、その全てに浄化を込めて攻撃し、倒しています。今回もそうでしたが、一部そうはならなかった個体が存在しました。私が挙げた数以上に、あるいはいたのかもしれません」

「五層と七層への入り口を塞いでいた個体か」

 頷き、言葉を続ける。

「普段私が討伐している個体は、浄化を十回かけて殺したものと同じ扱いと言えるでしょう。ですが、今回は予め、浄化以外のダメージが入っていたものが混在していました。剣で一、槍で一、あるいは浄化以外の魔力行使で一や二のダメージが入っていたのかもしれません。それらが、仰る通り、入り口を塞いでいた個体。私が挙げたのはその数です。そして、そいつらは他の個体と違い、休んでいるように見えませんでした。七層側の個体は戦闘中でしたしね」


「大岩間を塞いでいた休んでいた個体……あれにもダメージが入っていたのかもしれません。ですが、七十近い数に質の低下が見られなかったということは、休憩することでそのダメージは癒えていたのではないかと考えます。つまり、浄化のダメージをどれだけ残して、浄化でとどめを刺すことができたか。これが浄化品の質を左右するのではないかと」

 私は財布の中に残っていた浄化緑石を取り出し、机の上に置く。聖女ちゃんの目がまた煌めく。

「これはリビングメイルと同様の手段で仕留めた個体のものです。同様の品が、過去にこちらで査定の際に特上との評価を頂きました。これが同じ評価とは限りませんが。まぁ私に心当たりがあるとすれば『浄化のみで倒せば高く売れるんじゃないか』というお話でした」


「感謝する。とても興味深い話だ。確かに思い当たる点はある。格の高い法術使いなどは質の高い浄化品を生み出すことが多いという。浄化品になるか否かも、貴方の言う純度が関係しているのかもしれないな」

「有り得る話だとは思います。私は意図して浄化を込めずに攻撃しない限り、今まで全ての魔石が浄化品になっていますから」

「ふむ……」


「あ、あの、これ触ってみても……」

「いいよ」

 聖女ちゃんはキラキラした目で緑石を覗きこんでいる。宝石みたいだしね。私も女だ、綺麗だと思うし目が輝くのも分かる。

「気に入ったなら、それあげるよ」

「えっ、ほんと……いや、でも、悪いです……」

「浄化真石は流石に大人に怒られそうだから、あげられないけどね。あ、でも大人になったらいいかな。アクセサリーにでもしてプレゼントしてあげよう」

「ほ、ほんとですか!?」

「ほんとほんと、ちゃんと覚えておくよ。約束」

 ありがとうございます! とお礼を言われる。ほんとかわいいなぁ、連れていったら怒られるかな。怒られるよね。いや、なんとか手がないものか……だめだね。


「二十二個が三十六万ちょうどで七百九十二万、残りの九十九個が三十七万と七千で三千七百三十二万と三千。今回は合計で四千五百二十四万と三千との査定となります。よろしいでしょうか」

「はい、問題ありません。それでお願いします。それで、今回の魔石は全て私の取り分としていいのでしょうか? 一応、依頼の一環で得た品ですが」

「構わない。そもそもそのような条項は契約に織り込んでいないからな」

「よ、よんせんごひゃくまん……」

 固まってる。かわいい。いやまぁ、気持ちは分かる。今回は普段よりも多いし。

「ありがとうございます。これもまた二日後を目安に取りに伺います。前回の分は用意でき次第受け取りますので」

「あれ、まだ受け取っておられませんでしたか?」

「こちらに伺った際に先に依頼の話を受けましたので。大金を迷宮に持ち込むわけにもいきませんし」

 千四百万ちょっと、入れっぱなしだったけど。

「なるほど、それは確かに。では今お持ちします。少々お待ちください」

「待て。依頼の報酬もある。私がやろう」

「それがよろしいですね。では、私も仕事に戻ります。お茶を用意させますので今しばらくお待ちください」


 そうして二人が部屋を出て行く。聖女ちゃんと私だけが残された。

「夕ごはんはちょっと奮発しようかな、何にしよう……その前に水の容器だな、買い直しておかないと。あと何が減ったっけ、後で確認しなきゃ」

「お姉さん、自炊はしないんですか?」

 頭の中がお買い物モードになりかけたのを中断する。日本でならできるけど、ここだとどうだろうな。必要に駆られないとやらない気がする。

「あの宿は火の使用が禁止されてるんだよ、安全に配慮しててね。お湯もないからお茶も飲めないけど、お風呂は近くにあるし、気に入ってるんだ。料理ができるかってことなら、できなくはないけど、しないかな。得意ってわけでもないし」

「そうなんですね。宿で暮らしていれば確かにそうかもしれません」

「聖女ちゃんは料理するの?」

「はい。料理も含めて日常のことは全てできるように教育されます。得意……ではないですが、怒られないくらいはできます」

「そうなんだ、まだ若いのにすごいね。私が君くらいの時は料理なんてしたこともなかったよ」

「そんなことないですよ、みんなできますし……そうだ、今度私がご飯作ってあげます!」

「それは嬉しいね、楽しみにしてる」

 あーかわいい。ほんとに連れていきたい。エイクイルに言ったらくれないかな。だめかな。だめか。だめだね。


 指揮職員が戻ってくる。袋を幾つか携えて。

「歓談中すまない、先に金銭の処理を済ませたいのだが。

 聖女ちゃんに一瞬視線を送るが、彼女が何か言い出す前に話を進めた。

「構いませんよ、お願いします」

「分かった。まず前回査定の分だ。二千四百十二万と八千となっている。確認してくれ」

 百の束が二十四、大金貨が十二に小金貨が八。大金貨のみなら扱いが楽なのだが、端数は日常の買い物の主力なので邪魔とも言えない。

 端数だけ財布に突っ込んで、残りは袋のまま魔法袋にしまう。

「確かに頂戴致しました」

「よろしい。次に今回の依頼の分だ。申し訳ないが魔石に比べると安くてな。こちらが仔細だ、確認してくれ」

(依頼料が十五万、騎士団と聖女ちゃんの保護で追加で十万、剣やらの回収で二万か。あ、マント……)

「確認しました。これで問題ありません。それで、お借りしていたマントなのですが、破損してしまいまして……その分は依頼料から差し引く形で処理させて頂けませんか」

「あれは必要経費だ、気にする必要はない。笛も不要であればそのまま処分してくれて構わない」

「分かりました。ありがたくお受けします。マントと笛は普通の品ですか? 魔導具などでは」

「いや、市井の商店で安く手に入る普通の品だ」

 あーよかった。貴重なものだったら全力で洗濯を開始しなければならないところだった。

「了解です。では、依頼の分も確かに頂戴致しました」

 そのまま魔法袋にしまう。感覚が麻痺しているが、これでも十分すぎるほどの大金だ。


「この度はご苦労だった。依頼を受けて頂き大変感謝している。後々エイクイルや騎士団からも挨拶があると思うが」

「いえ、お気持ちだけで十分です。常に連絡が取れる場所にいるとも限りませんので。もし打診がありましたらそのようにお伝え頂けませんか」

「ふむ。伝えるだけはしよう」

 面倒事はごめんだ。聖女ちゃんには悪いが、エイクイルや騎士団には興味がない。

「ありがとうございます」

「最後に、イリーナさん。エイクイルが貴方を探している。一度宿へ戻られた方がいい。彼女と共にいることは知っているが、居場所を知らぬのは不安だろう」

「うぅ、分かりました……一度帰ります。お知らせいただきありがとうございます」

「うむ。こちらはそれだけだ、他に何かあるか」

「いえ、特には。彼女は私が送っていきますので」

「頼んだ。ではな」


 そうして指揮職員が去っていく。私も帰ろう。とりあえず宿に戻ってリストアップ……あ、言えば紙とペンくらい譲ってくれないかな、しまった。いいやもう。

「じゃあ、私達も行こうか」

「うぅ、帰りたくないです……」

「私はしばらくこの都市にいるし、また会えるわよ」

 頭を撫でてから手を繋ぐ。今日はもう時間がだいぶ過ぎているけど、買い物何かあったかな。明日は迷宮に行きたいし。それに、今日はお風呂だ。そういえば石鹸がないな、タオルと一緒に多めに仕入れておこう。

 魔導具店は一通り回ったけど、袋も望遠鏡も希望に沿うものが見当たらなかった。どうしよう、北と南の店も見てみようかな。今日は無理か……うーん。

 管理所を出て中央方面へ向かう。宿は第二迷宮に近いところにあるらしく歩くには大変かと思ったが、馬車には乗りたがらず手を繋いで歩いていくことになった。私としても口惜しいが、流石にこのままうちの子にするほど頭がぶっ飛んでもいない。


「エイクイルってどんなところなの?」

 道すがら暇なので聖女ちゃんに話しかける。特に行く予定はないけど、雑談だ。

「どんな……うーん、どんなでしょうか。自分に厳しい人が多いような気がします。上昇意欲が高いというか。子供の頃から剣や魔法を競い合って、頭のいい子は学校や図書館でたくさん勉強をします。都会に出て行く人はあまり多くありません。食べ物は美味しいです。特にお魚がおいしいです、海も川も近いので」

 おー、図書館。これはいい情報だ。割とどこにでもあるのかな。でも教育水準が高そうなところだ。学校がどんなもんかは分からないけど。

 海が近いというのも……護衛がどうのと言ってた港町とはまた違うのかな。

「海が近いんだ、それはいいね。私は魚の干物が大好きでね。特に好きなのが寒い地方で捕れる大きな赤い身の魚なんだけど、身が肉厚で、そのまま食べても焼いても美味しいんだ」

 ああ鮭とば。恋しい。あれだけは恋しい。川でも海でもいいから似たようなものが捕れないだろうか。この際自作したっていい。

「ぜひ遊びにきてください! 案内しますよ!」

 やっと笑顔になった、かわいい。



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[気になる点] 聖女出てから女主人公が何の前振りもなく急にレズお姉さんになってドン引きぐらい人格変わったなぁ...それまではとても良かったから残念過ぎる
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