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第二百四十四話

 

 北大陸で度々目にし、よく食べられていた美味しい大猪は火石を、少し固めのお肉をしている大黒鹿は水石を残す。北大陸の狼は大抵土石持ちで、たまに風石を内包しているといったように、魔物や魔獣から手に入る魔石の種類といったものは明確に決まっている。

 スライムは見た目の色からそれらを判断してしまいそうだが、色に関わらず一貫して瘴石を残す。それはこいつらが瘴気の固まりであるから。

 これらは元を辿れば、魔物そのものの属性が何かという点に深く関わっている。

 ようは、あの猪は火属性の魔物で、あの鹿は水属性の魔物であるわけだ。魔法を、魔力を使うか否かは問題ではなく、それぞれが属性を持っている。

 だからといって猪が水や氷の魔法に弱いかといえば、一概にそうとも言えないわけだが。


 これは何も魔物に限った話というわけではなく、(ひと)種もドワーフもエルフも、巨人やハーフリングも例外なく、大抵は各々、個々人毎に属性を持っていると言われている。

 ドワーフは火や土系に由来した才能が発現しやすく、エルフは水や風といった属性と親和性があるといった具合にだ。無論フロンのように多くの属性に長けているエルフがいたり、少ないながらも水魔法を得意とするドワーフがいたりもする。

 (ひと)種などは割と均等に分かれていて、統計を取れば火水土風と、大体同じくらいの数になるらしい。

 こういった要素はある程度遺伝するらしいので、血を重ねた火魔法に長けた(ひと)種の一族……みたいなものも中にはいるのだろう。


 うちのちび助ことハイエルフのアリシアももちろん属性を持っており、長けた属性というものがある。それに対応した魔法を集中的に使って鍛えていけば、魔力の格も器も育ちやすいものらしい。

 氷弾の放出魔法を使い、断熱飛竜の皮膜に強いこだわりを見せ、鞘の凍結を心配していたペトラちゃんは水系に長けている。これらの懸念は属性や本能由来のものだったのかもしれない。色も青色を好んでいる。作ってあげた靴底の大金貨も、その色のペンダントだ。

 集中的に鍛えれば半年そこらで一人前の魔法師になれるなんて甘い話はないが、それでも半泣きでセント・ルナのお家にやってきた当初と比べれば、アリシアも……半人前、四分の一人前くらいの魔法士にはなっている。

 水平線や洋上の的を相手に半年頑張ったくらいでは大した成果はあがらないだろうが、先生が先生だ。一歩ずつ着実に成長しているのは間違いない。

 種族特性──優れた成長率を誇る魔力の格と器を武器に、魔法少女アリシアの物語が始まろうとしている。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「いや、いいんだ……捌ききれなかった俺が悪い……」

 半泣きで頭を必死に下げているちびっ子魔法少女と、それをたしなめている黒づくめの魔王。中々訳の分からない光景だ。

「でも、頭……痛そうです……」

「治癒もかけてもらった、問題ない。上手くなったな、一本取られたよ」

 不器用に笑顔を作って、心配をさせないようにと……彼氏君がお兄ちゃんしている。そういえば実妹がいるんだっけ、会ったことないけど。

 ミッター君は海の上で的。ペトラちゃんは船の上から足場を作り、たまに自身も洋上へ繰り出し、同じく的になる。ソフィアはまだ危ないのでさせてはいないが、アリシアは彼らに向けて、一切容赦なく殺す気構えで魔法を撃ち込むように指導されている。

 私お手製の可愛さの欠片もない質素な杖を手に、割と洒落にならない威力の風玉をぶち込みまくっていたわけだ。これまでは堅実に問題なく捌いていたミッター君だが、この訓練を始めてしばらく経った今日この頃、初めてアリシアの魔法がクリーンヒットした。

 何かに気を取られていたのだろうか、盾で受けきることも流すこともできずに、当然剣で斬り払うこともなく……頭にぶつかって破裂したらしく、ドンッ! と、結構いい音が響いた。

 それで再起不能になって海に落ちなかった辺りは流石だ。ふらついたのも一瞬のことで、踏ん張って即座に構えを取った。そしてそんなミッター君に向けて、手を止めることなく続けて魔法を撃つように指示したフロンも……流石だと思う。ちび助は半泣きで魔法を撃ち続けることになる。

 こうして明るいうちから魔法を延々とミッター君に打ち込み、魔力が切れたら語学教室へ向かい、暗くなってからも魔法を枯渇寸前まで搾り取って、疲労困憊で眠りにつくという生活を続けている。


「しっかし……器用なものだねぇ」

 お部屋の中をふよふよと漂って、近くまでやってきたアリシアに目をやる。不思議でならない。ファンタジーでならない。私達の足場魔法も、外からはこう見られているのだろうか。

「いえ、そんな、その……杖が素晴らしいので……」

 控えめに照れ照れしてるのがラブリーだ。空飛ぶハイエルフ、魔法少女アリシア。

 杖を尻に敷き、左手で杖を握って、右手でそんなことないですよーと手をパタパタさせている。


 浮遊魔法というものがある。魔女が箒に跨ったり、絨毯が空を飛んだりする、まさにそのようなもの。

 これ自体はこの世界において、それほど珍しい魔法ではない。ガルデでも、近場の……何か谷みたいなところからゴーレムを取ってくる際に、おそらく使われていたはずだ。

 国の中では当然制限がかかっていたりするのだが、これは割とありふれた、風属性魔法の一種でしかない。


 ただ燃費が悪く、使い勝手はよくはないらしい。

 人間一人を浮かし続けてある程度の速度で移動するには、相当な量の魔力を消費し続けることになるのだと。魔法の制御も魔力の供給も全て自力で行う必要があるわけで、日常の足に使うことは難しいとのことだ。

 スカートもめくれ放題だ、長ければいいというものでもない。陸に居た頃にミニスカ共々リューンに着せられていたが、バタバタとはためいてとてもうるさかった。

 これが魔導具ならば話が変わるが、移動用途の飛行魔導具でも、それなりに魔力や魔石を消費することに変わりはない。

 しかし、しかしながら──それに特化した魔法杖が存在することでも、割と話は変わるのだ。

 アリシアが飛ばしている風玉は、実は術式化された風玉ではなく……ただの圧縮された風の魔力でしかない。浮遊特化杖で増大された風属性のそれを、手作業でまとめ、浮遊の術式に流す前に指向性を持たせて外に打ち出しているだけだったりする。照準も手動で定めているので、魔力で遠当てをやっているとでも表現すれば、割と正鵠を得ていると思う。

 そのため、フロンの火玉や氷槍と違い、風玉の大きさも飛んで行く早さもまちまちで、しかも殺傷力はそれほど高くない。それでも至近距離でまともに当たれば大熊が木を薙ぎ倒して吹き飛ぶくらいの暴力は備えている。今の彼女でも。

 この杖は……ようはジェットエンジンのようなもので、その排気を攻撃目的で撃ち出している……という認識でもいいだろう。


 普通のコストパフォーマンスに優れたフロンの物と同様の風刃特化杖や、広範囲殲滅用の大嵐特化杖みたいな物を作る案ももちろんあったのだが、何か面白そうだからという、しょうもない理由でこうなった。

 この分野は元々、飛行船だかを研究していたフロンの専門でもあったわけだ。朝方から作業を初め、その日の夕方には術式が仕上がってきた。

 可愛いお尻に敷かれている杖は当然不壊化している神器なのだが、アリシアには貸出という名目で与えていて、そのことを伝えてはいない。

 冷凍乾燥血液を用いた実験も兼ねていて、名付けの際には私の承認が必要になっているので、万が一にも勝手に誰かの物になる、といった事態は避けられている。

 ──いつか、アリシアに事情を打ち明けてもいいと思える時がきたら、そのままプレゼントしてもいいかなとは思っているが、それは難しいだろう。

(そういった事情を抜きにしても……棒状の杖っていうのは何か違うよなぁ……せめてサドルくらいは付けたいな。いっそバイクみたいにハンドルも付けて、戦車じゃないけど、砲塔を付けて──)

 うーん、アイデアが溢れてくる。何でここには炉がないんだ……残念でならない。



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