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第二十二話

 

 翌日目が覚める。だいぶ寝た、すっごい寝た。窓の隙間から日が差し込んでいる。手探りで窓まで向かい戸を外すと、ちょうど日が昇ってきたところだった。

 昨日眠りについたのは夕方だったから、半日くらいは寝ていたことになる。それなりに元気だったが、やはり身体は疲れていたのだろう。

 町からバイアルまで走って、野宿して。バイアルからパイトまで走って、雨の中野宿して、その後ダチョウ三羽と戦った。

 我ながらハードなことをやっている。いや、ほんとに何してんだろ……。

「まだ薄暗いけど、支度して迷宮に……そういえば明かり、魔法具があるとか言ってたけど、どれのことだろう。夜遅くに帰ってきたら困りそうだし確認しておこう」

 あと、椅子の一つでも貸してくれないかと。魔法袋も床に置きっぱなしだ。

 底が見えてきた保存食、硬パンと干し肉。これを浄化した水で流し込んで準備を進める。

 靴下と靴を履き、魔法袋を背負ってポンチョをかぶる。十手を引き寄せれば支度は完了だが、その前に顔を洗いたい。歯ブラシ……ないかな、探してみよう。

「まだ店もやってないよね……迷宮行こ。五層確認だけして六層を見に行こう。靴はまだ平気そうだし無理だったら戻る。よし」

 窓を閉めて部屋に鍵をかけ、階段を降りて受付……には誰もいなかった。そのまま井戸へ向かい顔を洗って容器の水を入れ替える。

(五本も買ったのは……でも役に立ったしなぁ。普段はこんなにいらないし、部屋に置いていこうかな。邪魔かもしれない)

 私の魔法袋は中身が軽くなったりしない。荷物を減らせば身体にかかる負担は減る。

(いや、逆に重りを増やせば鍛錬になるかな? 不要なものを買い込む余裕はないし、容量も有限だけど……考えておこう)

 管理所に用はないので、そのまま迷宮へ入り四層まで駆け抜ける。

 辺りにダチョウは、いない。そのまま五層へ。ここからは未知だ、気をつけないと。


 五層もダチョウだった。近くにいた単騎をとりえあず……突っ込んできた足を払って首を折って頭を割って……うん、狩れる。群れてなければ問題ない。魔石を回収すると、他の個体が近くにいないことをふわふわで確認して、六層への大岩を探す。

「魔石を入れる袋買おうかな、首から下げられるような奴。あーでも引っ掛けたら危ないか。腰に下げればいいかな? ぶらぶらしたら……邪魔だなぁ。うーん」

 魔法袋を背負わず前に抱えるという手もあるが、流石に邪魔になる。何かいい手がないものか。

 六層への大岩を見つけ、そのまま中に踏み入る。悪名高き死の階層だ。ここからは冗談抜き、本気だ。


 頬を叩いて気を引き締める。用意していたタオルで口と鼻を塞ぎ、十手を握り締め坂を下る。さて、やっと私の拠点へ到着だ。

 空は今にも雨が降りそうな、どんよりとした色だった。雲に覆われて薄暗い。

 地面は荒れ果てていた。草の一本たりとも生えていないし、ところどころ地割れも見える。

 何よりも空気の感じ、これがいけない。覚えがある。

(これはあれだ、狼の感じ。瘴気だ。とにかく濃い)

 試しにふわふわを飛ばしてみたが、周囲に片っ端から反応して索敵としては使えたものじゃなかった。

 瘴気と霊鎧の区別がつかない。これは気をつけないと本当に死ぬ。

 ゆっくりと歩を進め、近くの反応を順繰りに調べてみる。これも瘴気、それも瘴気、あれは……。


(いた。首なし鎧が、飛んでる……? 足はあるようだけど。右手に長剣か、後ろから行こう)

 気づかれていないのか、鎧はとてもゆっくり移動していた。自分もゆっくり近づく。そして互いの間に地割れがないことと、相手がこちらに気付いていないことを確認すると、全速力で突っ込んだ。

 浄化を込めた十手を、自分の限界の気力バランスで叩き付ける。反動で少し跳ね返されるが、構わず突っ込んで振り下ろす。振り下ろす、振り下ろす。そこで収縮を始め、魔石を残して消えた。倒すと組成をぶち撒けると言われて気をつけていたが、浄化で倒せばそれはないようだ。

 よく見ないと気づかないような透明度の高い大きな魔石。水晶というより、私にはガラスの方が馴染み深い。

 回収して辺りに気を配るが……これはちょっと予想外だ、財布に入らない。一個で限界だ。

 ポンチョを脱いで魔法袋を背中から降ろす。それからポンチョだけ羽織り、袋に魔石を放り込むと、背負わずに手持ちにして索敵を開始する。

(奴らの足は本当に遅い、余程油断しなければ囲まれる前に倒せる。全力で殴って四回。大丈夫、自惚れてない、油断じゃない、いける)

 やがて二匹目と、少し距離を置いたところに三匹目。二匹目に背後から近づいて魔法袋を床に置くと、突っ込んで全力で四回殴りつける。そして魔石を回収して袋まで戻って中に突っ込む。三匹目には気づかれたのかこちらを向こうとしているが……流石に遅すぎる。背後に回って荷物を置いて、全力で殴り続けて魔石を回収した。


 奴らは音に反応するのか、遠くからこちらに向かっている個体がいる。このままだと集まってくるかもしれない。さてどうする。

(身体は平気、気力も平気。神力は索敵に回さなければ平気。続けよう、問題ない。けど──)

「大岩のそばで戦ってると、六層に来た人に鎧が反応するかもしれない。少し距離を置こうかな……いや、先に七層への大岩探す方が先か」

 二つの大岩を探し、それらから距離を置いて鎧を狩る。足元、特に鎧との間に地割れがないか気をつける。あまりにも二匹が接近していたら放置、これでいこう。

 一度五層への大岩まで戻り、七層への大岩への当たりをつけると足元に気をつけて駆け出す。程なくして二つの大岩の位置関係を確認すると、そこから離れてひたすらに鎧を潰して回った。途中から夢中になって時間を忘れてしまった。よろいなぐるのすごくたのしい。

 階層の端から端まで、虱潰しに鎧を探して殴り潰していく。それはもう念入りに。そんなことを続けていれば当たり前だが数が減る。大音量が鳴り響いても寄ってくる個体が確認できなくなった。


「さて、どうしたものか。全滅……じゃないとは思うけど、ふわふわ飛ばしてもわかんないからなぁ……今日はここで終わりにしようかな」

 それか、ダチョウ狩りに移行するか、七層を目指すか──。そんなことを考えていると、おかしな光景が目に映る。

 その辺に漂っていた瘴気、それが急に濃くなり周囲からどんどん集まってくると……周囲の地面を取り込んで霊鎧を形作った。

 とりあえず近づいてぶん殴る。今では全力で三回殴れば壊せるようになっていた。思うことあって、この魔石だけを別に、財布に入れて分けておく。

「生まれた? どういうことだろう、そもそも迷宮の魔物ってどこから来るんだ。数が減ると自動で補充される?」

 減る一方であるなら、階層の魔物を根絶やしにし続ければどこまでも安全が確保できる。ただの箱だ。拠点でも作って、どんどん奥へ向かえるだろう。

 だが、そうはなっていない。この都市は昔からあるんだ、ヒヨコもダチョウも、相当な数が狩られているはず。それなのに全滅どころか数多く棲息している。となると、やはり補充されると考える方が自然だ。


「瘴気から生まれたように見えたけど、これまでに他の階層で瘴気を感じたこと、ないんだよね。どういうことだろう、管理所でなにか分かるかな」

 試しに今まで鎧を倒していた辺りを探してみると、先程まではいなかった個体が生まれているのを見つけた。生まれてくる瞬間は見つけられなかったが……先程のはたまたまだろう、運がよかっただけ。見つけた個体を潰してしばらく待機してみたが、しばらく待っても無理そうだったので諦めた。

「このままここに留まっていれば無限に狩れる? でも走り回って探すの手間だな……今日のところは帰って、また明日増えた頃に潰しに戻ってこよう」

 買い出しもしたいし、割と大きいリビングメイルの魔石、これを処分しないとその内魔法袋が溢れるだろう。

 それと、魔物が生まれる仕組み。これには大層興味があった。

 ポンチョの内側に魔法袋を背負うと、辺りをもう一度確認して、出口を目指して走り始めた。



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