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第二十一話

 

 流石に大きな都市だけあって、昼を過ぎても飲食店や屋台にも人が多く、町中はとても賑わっている。

 街歩きをしてみたいが、それはまだ後だ。役人から色々と話を聞けた。この都市……というかこの世界には、石鹸もあるしお風呂もある。乾燥部屋? とやらもあるとか。

 水洗いこそしていたが、衛生的にはちょっとアレなことになっていただろう私も、やっと……。

 せっかくベッドで眠れるのだから、綺麗にして思いっきり眠りたい。

 町の公共浴場には多少値が張るが、家族風呂というか、個人風呂があるらしい。冒険者向けなのだろう、洗濯をしてもいいと言う。

 勧められた店で石鹸と追加のタオルを買って浴場へ向かう。時間が早いためか個人風呂は空いており、余裕を持って三時間分の代金を支払い、しっかりと鍵をかけ、服を脱いで洗い場に放り出す。外套も綺麗にしよう。

 石鹸が肌に合うかなんてこの際どうでもいい。隅々まで……気にせず髪も石鹸塗れにして、汚れを落とす。

「切っちゃおうかな、髪……流石に手入れも面倒だし、邪魔だ」


 洗濯は中々に大変だった。洗濯板のような物はなかったので、ひたすらもみ洗いだ。身につけているものはそう高いものでもないし、ガシガシと洗う。

 土汚れとヒヨコの肉が付いていたらあれなので、靴の汚れを落としている最中に、靴底にひびが入っているのを確認した。

「これは直しても周りに広がりそうだな……買い替えかぁ」

 すぐに駄目になるということはないだろうが、ここ最近走りっぱなしで大層な負荷をかけた。正直、よくここまで保ってくれたものだと思う。

 六層……死の階層に向かう前に靴は買い換えたい。他の物は必要に応じてだな。

 自分と荷物を粗方洗い終えた後、乾燥部屋すごかったに衣服を干してから綺麗なタオルを使って十手を洗う。丁寧に丁寧に、心を込めて。

 服も洗えたし身体も温めた。満足だ。衣服を回収して適当に畳み、魔法袋に突っ込んで浴場を後にした。

 食事もしたいが、まず宿の確保だ。役人からお勧めされたり認定情報を見たりしていくつか目星はつけているが、自分の目で確認をしておきたい。候補はとりあえず三つ。

 まず第四迷宮からは最も離れているが、飲食を始めとした店舗群に近い高級そうな大きい宿。印象はホテル。生活するには楽そうだが、流石に値段が高そう……きっと凄い冒険者用なんだろう。ここを去る前に一泊くらいはしてみたい。

 次に、第四迷宮と先ほど利用していた公衆浴場の間にある中規模の宿。印象はコンクリ。華美な感じはしないが、がっしりとした建物で窓も上階までしっかりとした鉄格子で覆われている。質実剛健といった感じ。浴場は今後も使いたいし、迷宮から少し離れているのもトレードオフだろう。

 最後に、第四迷宮周辺にある宿群の中で唯一金ランク指定をされている宿。ここは設備というよりも、値段やオーナーの人柄で評価を上げているように感じた。印象は民宿、実家? とか、おばあちゃんの家というか、そんな感じ。価格も抑えめだし迷宮に近いのは魅力だが、治安の面で少し不安が残る。

(二番目のところだな、駄目そうだったら変えればいいだけだし)


「払いは十日分を一括。更新も同じだが、七日目までに延長を申請すれば更新分からは払いがずっと八掛けになる。うちは火事を避けるために火の類は一切使用禁止だ。明かりも光魔導具しか設置していないし、火気を発生させる魔法具や薬品の持ち込みも認めていない。また、食事も出ないし他がやっているような湯のサービスもない。井戸代は料金に含まれている。水浴びは禁止だ。ベッドシーツは取り替えてあるが、交換が必要なら別料金で請け負っている。清掃や洗濯のサービスはない」

「契約中は俺も含めて職員が部屋に入ることはないよう厳しく指導している。何日も姿を見せないで自然死を疑われた場合など、組合立会の下で部屋の鍵を開けることがある。建物を出て行く際に特に連絡は必須としていないが、こういう事を避けるためにも可能な範囲で受付に顔は出してくれ。鍵は持ち歩いて構わないが、無くした場合は弁償してもらう。高いから気をつけろ。飲食は禁止していないが、ゴミの処理は請け負っていない。腐らせて異臭騒ぎを起こしたら期間が残っていても追い出す。前例があってな。荷物が多いなら近場に貸し倉庫もある」

 二番目の宿のオーナーはいかついおじさんだった。冒険者上がりなのかもしれない。安全面に特に気を配っているのは高評価だ。シーツ交換ができるのも、過剰なサービスがないのもいい。水浴び禁止は公衆浴場が近いし、問題にならない。

 どうだ? と言わんばかりに返事を待っているおじさんに質問を投げかける。

「水浴び禁止とのことですが、部屋で濡れタオルで身体を拭く、とかはどうなのでしょうか。あと、掃除がしたくなった場合に道具を貸して頂けたりは」

「それは構わない。禁止なのは、井戸周辺を専有する水浴びだ。前例がある。掃除も、箒と雑巾、バケツくらいなら貸し出してもいい、金は取らん」

「分かりました、ありがとうございます。ここに決めようと思います。部屋は選べますか? 値段の違いがあればそれも教えて頂きたいのですが」

「空いている部屋を案内する、ついてこい」

 建物は三階建て。階段を上がって部屋は二階と三階に五部屋ずつ。一階は受付とスタッフルームで部屋はなし、かな。

 三階の角部屋が空いていたのでそこに決めた。値段は上階の方が安かった。

「何かあったら職員に言え。ではな」

「ありがとうございました。これからよろしくお願い致します」

 十日分を払って鍵を受け取ると、オーナーは無言で去っていった。部屋に入って鍵をかけ、改めて見渡す。

 ワンルームだ。はめ込み式の窓が一つあるだけで、机も椅子も台所もトイレも風呂もない。だがだが、十分すぎる。なぜならば──。

「大きい、ベッドが、あるからだっ!」

 ポンチョと革袋を床に置き、ベッドにダイブする。あーべっどべっど、極端に柔らかくもないし硬過ぎもしない。

「ふかふかだ、あー寝そう。寝間着どうしよう、流石に準備しようかな……値段は良心的だったし、居続ければ更に安くなる。とりあえず靴は脱ごう」

 靴と靴下を脱ぎ床に放り出す。あー安らぐ。

「部屋の中で靴は落ち着かないし、サンダルも買おうかな。後は寝間着と、ポンチョをかけるスタンドくらいは欲しいな、タンスないし。貸し出してないかな。この際背のある椅子とかでもいいんだけど」

 ポンチョ……なくてもいいかなぁ。旅の最中は役に立つけど、ダチョウに引っ掛けられでもしたら酷いことになるような。でもフード付きのああいう布って落ち着くんだよな……。

「靴と、サンダルと……サンダルの前に食料と、寝間着と。防具とかどうしよう……。これはお金かかりそうだし後かな、とりあえず鎧と一度戦ってみてからだ」

 確か階層の敵は、四層から七層まで、六を抜いて同じ表記だった。

「五層もダチョウだったら、飛ばして明日六層見に行ってみようかな。戦えたらきっとダチョウより鎧潰した方が儲かるだろうし」

 あーだめだねむくなってきた

「おやすみ、女神様……」

 こうして私は十手を握り締めて深い眠りに落ちた。柔らかい寝床。しあわせ。



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