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第百九十一話

 

 あとは私が不在の間に依頼をこなしたとか、迷宮に入ったとか、走りこみをしたとか走りこみをしたとか走りこみをしたとか。そんな感じの話を聞いて受ける報告は終了。次は私がする番だ。

「依頼の内容は言えないけど、こっちも仕事は無事に終了した。それで、しばらく私はレンガを焼く作業に入るから」

 うちの子達の頭上に疑問符が浮かんでいる。自分でも何を言っているんだと思わないでもない。レンガが絡むといつもこうだ。

「帝都所有の空き工場を借りられてね。私が金属打つのは知ってるでしょ? 拠点を定める際に大量に必要になるから、準備をしておこうと思うんだ」

「拠点とは、ヴァーリルの家とは別に設けるということですか?」

「あそこは鍛冶を覚えるために使ってただけだから、仮宿の一つに過ぎないんだよ。そのうちどこか海沿いに建てる予定ではあったんだ」

 放置するのももったいないけど、あそこ使い勝手悪いんだよな……。

「それも今すぐってわけじゃないよ。何年後か、もしかしたら何十年後になるかもしれない」

 どこに建てたものかな。今はお金も足りないし、具体的なことは決めかねている。


 翌日──朝一で自称皇帝のおっさんから渡された手紙を役所に届けて、慌てて出てきたお偉いさんに西の工場まで案内してもらう。走ればすぐだが、一人でさっさと出向いても仕方がない。それに、馬車を用意されてしまっている。

 わたくし、このたび馬車に初乗車であります。


(……乗り心地最低だなこれ。もう一生乗りたくない。ガタガタゴトゴトと、腰も尻も死にそうだ……)

 地面が石畳というのもよくない。馬が可愛いだけだな、馬車の良いところは。サスペンションとかないんだろうか。あとなんだっけ、部屋を吊り下げる形の馬車もあったと思うんだけど……。

(作れないことはないだろうけど、バネなぁ……ぐるぐる巻くの……難しいだろうなぁ……)

 魔法の力でなんとかできないだろうか。っていうか、それを言ったら馬車である必要すらないな。

(そもそもあるんじゃなかったっけ、移動用魔導具。フロン先生に聞いてみないと)

 どこかに売ってないかな。……皇帝のおっさん持ってるかな? 仕組みだけでも見せてもらえれば、うちの知恵袋がなんとかしてくれそうだけど。


 やりたいことがまた一つ増えてしまったが、今は先にやらなければいけないことがある。

 西の城壁沿いに建てられた工場群の中の一つ。うっすらと埃の被った内部を案内され、炉の具合を確認してから、定期的に清掃が入っていたであろう事務所でお偉いさんと話を詰める。

 皇帝と称しているだけあって、あのおっさんはかなり太っ腹だ。粘土はいくらでも使っていいし、足りなくなればその都度搬入してくれる。工場も利用料はタダ。長居をしないなら税金を納める必要もないとのこと。

「至れり尽くせりだねぇ。とりあえず掃除か。後は型を作って──」

 事務所にベッドを置けば普通に住めそうだな。考えておこう。


 当たり前の話ではあるのだが、レンガは材料を練り合わす際に水を必要とするものの、乾燥させて、追加で焼き固めたりして作る。

 南大陸は常に雨やら雪やらが降り続いていて、木造の家屋はすぐに腐ってダメになってしまう。レンガを焼くに適した環境でもない。

 例外があるとすれば、屋根のあるアイオナのような……。

(何でレンガ工場がポンっと出てくるのか疑問に思ったけど、考えてみれば当たり前だ。そりゃ作る。南なら多少ぼったくったっていくらでも売れるだろう。あこぎな商売してるねぇ、あのおっさんも)

 ここを稼働させていなかったのは、施設に問題があるのか、労働人口の問題なのか。出稼ぎに誰彼構わず受け入れるってわけにもいかないだろうしな……貴族や皇族も住んでるわけだし。

 まぁ、アイオナのことはどうでもいい。かなりの数が焼けるであろう大型の釜が五つ。そして型も倉庫に大量に残っていた。ミンチを作る機械のような、土を練り合わせるための道具もある。あのおっさんは最高だな! このミンチ製造機売ってくれないかな、超欲しい。ハンバーグ食べたい。

 掃除はすぐ終わる。施設全域に浄化を掛けながら練り歩くだけだ。釜も問題ない。問題はないが……赤石の火力が強すぎる。

「加減しないと炉がダメになっちゃうね、これ……どうしたもんか。キノコを半殺しにしてから赤石にしても……ダメかなぁ」

 浄化赤石は火に放り込むと激しく燃え上がる。アダマンタイトを相手するならそれでいいのだが、レンガ相手だと、もっとこう……穏やかに燃え続けて欲しい。

 鬼火を普通に叩いて火石を回収するのもありだ。うちの子達に拾ってきてもらってもいいが、たぶんすぐに足りなくなる。魔石までタダで提供してはくれないだろう。

「フロンなら──いや、たまにはリューンに聞いてみよう。粘土もまだ届いてないし」

 土石も要るし、迷宮にも行かないと。


「可能だ。焼成にはどの程度の温度が必要なんだ?」

 宿にリューンはいなかった。トレーニングに出ているらしい。というわけで、残っていたフロン先生の出番だ。やっぱりフロンだな。

「鉄が溶けないくらい……で分かる?」

 私もドワーフからは思いっきりアバウトな説明しか受けていない。鉄の融点ってどれくらいだったっけ……。

「問題ない。釜を見せてもらおう。緑石も数はあるのだろう? 手頃な温度の炎を吹き付けるような物を作れば管理も楽だろう」

 おー、火炎放射器みたいなものか。それはいいな……面白そうだ。

「釜、五つあるんだけど──」

「構わないさ、たくさん焼きたいのだろう?」

 そう言って笑って見せるフロンがイケメンすぎる。好感度がうなぎのぼりだ……止まるところを知らない。


 製錬した真銀を持ち歩いていて良かった。装飾品にも使われるような高級素材なのに、よもやこれが火炎放射器になろうとは。

 力業で無理やり熱してぶっ叩いた真銀を加工して、赤石から熱を吸い取って炎を出す術式と、緑石から風を送り出す術式とを組み合わせた、フロンからすれば原始的なそれの効果は、そりゃあもうすごかった。すんごい。

 釜の入り口に向かって銀色の装置からぶっとい炎が吹き込む様は圧巻だ。魔法みたいだ。

 火弾や火玉、フロンが使うようようなもっと大規模な術式というものも見ているけれど、魔導具でこの現象を引き起こしているというのは、また一味違った感慨をもたらしてくれる。

「家を建てたら防犯のためにこれを全方位に設置したいな。泥棒が入ってきたら警告なしで焼き払うの!」

「ま、まぁ……止めはせんが……」

 引かれようが構わない。いずれはこういう武器も作っていくべきかな。

 真石でレンズを作って、光石を光源にして……とか。

 夢が拡がる。要塞を作りたいわけではないが、防犯設備のことも考えておかないと。地雷は危ないしね。有刺鉄線の電磁柵とかも欲しいけど、電気はなぁ……。


 二日ほど経って、何トンあるんだと思うような量の乾燥粘土が工場の倉庫に運び込まれた。早速試作に入ろう。火炎放射器を使いたい。

 ミンチ製造機に水気を含ませた粘土に粉末にした大量の浄化橙石と微量の浄化赤石を混ぜ込んで、レバーをぐるぐると回してそれを一体にしていく。

 しかし、なんでこれ浄化赤石が必要になるんだろう。

「燃やしてしまって内部に隙間を作るのだろう。空気が混ざった方が熱は伝わりにくくなるからな」

 あー……なるほど。一理ある。

 あの時きちんとドワーフ達に聞いておけばよかったな。先人の知恵は偉大だ。


 レンガに限らず焼き物は全てそうだと思うのだが、焼き上がるのにはかなりの時間がかかる。平気で一日燃やし続けるなんてことはザラだ。

 だが、フロン先生の火炎放射器を用いて試しに十個ほど焼いてみたレンガは、四時間程でしっかりとウェルダンに焼き上がってしまった。これには私も首を捻ることになる。

 乾燥の工程も、これまたフロンお手製の乾燥の魔導具で時間を大幅に短縮できた。

「質はどうなんだ?」

「全く問題がない。というか、上質もいいところだね……」

 試しに赤石で囲んで全力で燃やしてみたが、平然としている。普通に合格だ。

 粉末にした赤石の熱で……? でもヴァーリルで焼いたレンガもここまで質はよくなかった。あれは粉末にしてはいなかったけど……うーん……。

「──いいや、質が悪くなったわけでもないし。頑張れば一日二セットは作れるかな」

 これはいよいよ手が足らない。型はいっぱいあるし、皆にも手伝ってもらおう。

(その前に魔石か。橙石を集めてこないとダメだな)

 魔法袋に身の回りの物を入れて、次元箱をレンガ倉庫にすれば……かなりの量を持っていける。本当にお屋敷一軒分くらいはいけそうだ。



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