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第十九話

 

 パイトへ辿り着いてからどうするかを考えるのは後回しにしていた。

 今日考えるつもりでいたのだが、こうなってしまった以上今考えるしかない。

 私が目指すのは『第四迷宮』の『死の階層』だが、それがどういうものなのか私は全く知らない。

 このまま突っ込もうにも、水と食料の備蓄が怪しい。動けなくなる前にまずは魔石をいくつか取ってくるべきだろう。

 まず第四迷宮の浅い部分で魔物を狩って、大きめに余裕を持って明るい内に宿を探す。

 そして明日、更に魔物を狩って買い出しをしながら情報を集める。死の階層を目指すのはそれからだな。そうしてこの町に慣れていこう。

 ここには一日二日どころではない期間滞在するはずだ。とりあえず都市に入って第四迷宮を探す。

 自分の考えに納得すると、見えている町の門を目指して走りだした。転ばないように気をつけながら。


 パイトはバイアルや初めに訪れた町──そういえば名前を知らない──と比べても、格段に大きな都市だった。

 まず町の外壁が大きい。都市の外壁は高さ五メートル以上ありそうで、その上を兵士が稀に巡回している。

 門をくぐった感じからして、厚さもきっと三メートルはある。ここまで重厚にする必要があるのかな。魔物のいる世界ではこれが普通なのかもしれない。これまで滞在した場所が平和だったのだろう。

 都市内部に入るのに特に手続きが必要でなかったところから見るに、あの兵士は外より中を警戒しているのかもしれない。あの中には魔物がうじゃうじゃしているはずで、それが出てこないとも……え、出てきたらどうするんだろう……?

 都市の兵士が戦う? 迷宮探検をしてる人が? それだとひょっとして私も戦わないといけないのだろうか……でもそんな説明されなかったし……。

(ま、まぁいい……それはいい。門番に道を訪ねよう)

 近くにいた金属製と思われる部分鎧と槍を持った兵士のような格好の門番に話しかける。

「お仕事中申し訳ありません。この都市へ初めて来たのですが、第四迷宮へはどのように向かえばいいか教えて頂けませんか?」

「この道を真っ直ぐ進むと広場がある、そこの出口の地面に各迷宮の番号が描かれている。この都市では地面の数字を辿って行けばその迷宮へ辿り着ける」

「なるほど、よく分かりました。教えて頂きありがとうございました。失礼いたします」

 会釈してその場を後にしようとすると、続けて声がかかる。

「迷宮に入るには管理所……ひときわ大きな建物があるから分かるはずだ、そこで手続きをしてから入れ。依頼や同行人の募集を行っているし、自分で掲示することもできる。手続き自体はせずに勝手に入っても問題はないが、初めてなら受付で説明を受けてから入るといい」

 お、いい情報。説明は欲しかったところだ。

「重ね重ね、ご丁寧にありがとうございます。説明を受けてから入ってみることにします。お仕事頑張って下さいね」

 フードを取り、笑顔を作りその場を離れる。これくらいのサービスはいいだろう。

 そのまま振り返ることなく迷宮を目指す。まずは魔石、お金だ。そろそろ温かいものを食べたいし、ベッド、ベッドで寝たい。


 早朝のためか人通りの少ない道を言われた通りに数字を辿り……程なくして第四迷宮、その管理所へ辿り着いた。これは分かりやすいな、看板も目に留まるところに出ている。

 中に入ると、木製の広いカウンターが並んでいるのが目に入る。仕切りがあるし、あそこが受付だろう。カウンターから離れた場所には丸テーブルと椅子が雑多に並べられていた。利用者のためのスペースかな。埋まっているというようなことはないが、人はそれなりにいるようだ。

 中は少なくとも汚いとは思わない程度に掃除がされている。酒瓶や酔客が転がっているようなことはなかった。酒場のようなものを想像していたが、きちんとお役所しているのだろう。

 適当に目に入った女性の役人のいる受付に歩を進めて声をかける。


「こんにちは。初めてパイトへ来たのですが、門番の方に迷宮へ入る前にここで説明を聞くことを勧められてきました。お話を伺いたいのですが、今よろしいでしょうか?」

「はい。初めての方ですね、説明させて頂きます。当都市パイトは迷宮都市と呼ばれております。迷宮の周囲に町を作ったことが始まりと言われており、現在六つの迷宮が存在しております。各迷宮は表向き差がないとされていますが、出現する魔物の種類や量、死の階層と呼ばれる前後の階層に比べて突出して強い魔物が出現するイレギュラー要素により、現実的な攻略難易度には差があります。当第四迷宮の死の階層は『六』です。六迷宮中最も下層に位置しています。ですが出現する魔物の種類や強さの関係で人気がありません。足が遅いので五層を突破したらそのまま七層まで走り抜けるのが一般的のようです。詳細についてはあちらの掲示板に掲示してありますので、そちらをお読み下さい」

 ここまでは大体聞いていた通りだ。六層ね、覚えた。

「迷宮を利用する上での注意点がいくつかあります。まずは、他の冒険者への明確な攻撃。これは自衛でない限り極めて重い処罰が下ります。ただ死に体の冒険者を介錯するなど、その限りではないこともありますのでご承知おき下さい。次に、魔物を他の冒険者になすりつける行為です。これは理由の有無に関わらず重い処罰が下されます。死人や重症人が出たり、悪質だと判断されれば死罪もありますのでご注意下さい。最後に罠を設置する行為です。これも他冒険者への妨害行為として、判明次第処罰が下ります」


 曖昧だな。


「迷宮内で見つけた宝箱の中身や他の冒険者の遺品に関してはお好きなようになさって結構です。こちらに届けて頂いても構いませんが、その際特に謝礼や遺族への返還などは行っていませんので、その点ご承知おき願います。当然ではありますが、強盗などは重い処罰の対象となります。ですが、どうしてもその類の者は一定数いますのでご注意を」


「各管理所では同行者の募集の為の書類掲示スペースや会話スペースを無償で貸し出しておりますので、どなたでもご利用になれます。ただし、同行者の間で発生した問題には、管理所では一切責任を負いませんのでご承知おき願います。また、管理所内での飲食はご遠慮頂いておりますので、必要でしたら都市の食堂や酒場を利用なさってください」


「当管理所及び迷宮は原則いつでも利用できますが、夜間の買い取り業務と代筆、代読業務は停止されますのでご注意下さい。魔石については各管理所毎の買取基準や額に差はありませんので、どちらへお持ちになって頂いても構いません」


「最後に、迷宮利用者への依頼についてです。特定の魔石や素材の採取などを依頼したり、逆に受注することが可能です。具体的に条件、期日を提示して頂きます。これに関しては掲示報酬の一割を手数料として管理所が頂戴致します。管理所を挟まないで依頼を受けることに問題はありませんが、その際発生した問題に関して管理所では責任を負えませんので悪しからず。依頼の授受に関しましては該当用紙を持参の上受付までお声掛け下さい。以上になりますが、何か質問はありますでしょうか」


「二点程お伺いします。明確な悪意のある攻撃を受けたり、強盗に襲われたり、魔物をなすりつけられた際、報復をすることはどのような扱いになりますか? ……はっきり言います。害意を感じた段階で相手を殺した場合、それは私も罪に問われますか? また、報告の必要についても」

「相手側に生存者がいる場合は査問を挟むことになります。聞き取りと魔導具による調査を行います。その際は受付までご連絡下さい。相手を全滅させた場合も、報告して頂けると有難いです。一応調査は行いますが、非のないことが明らかになればすぐに解放されます。これで解答になりましたでしょうか」

 はっきり良いとも駄目とも言えないか……役人だし仕方ないよね。管理所は事なかれ主義だ。黙ってれば特に何も言われないだろうとは思う。


「はい、では二つ目を。管理所……というより、この都市の治安管理組織が運営、もしくは認可している宿泊施設はありますか? はっきり言えば、多少高くてもいいので安心して利用できる宿はあるのでしょうか」

「運営している施設はありませんが、国に届け出を出している施設や店舗には二年に一回、都市管理部より監査が入っています。設備や安全対策、防犯状況、サービスや価格設定などついてです。これには金銀銅と認定なしの四つのランクが付けられており、前から順に優れたと判断された施設となります。ランクの高さと価格設定は必ずしも比例するものではありませんが、資金に余裕があるのでしたら金ランクか、銀ランク辺りまでを候補にされると良いかと思います。こちらから案内はしていませんが、認定店舗の情報は公開されておりますので、必要でしたら受付までお越しください。また、ランクは看板に掲示義務がありますので、都市を歩く際の目安になるかと思います」

 なるほど。モグリのような店もあるのだろうが、一応安全性をはかる指標になりそうだ。これは参考になった。

「なるほど。勉強になりました、ありがとうございます。また何かありましたらお伺いさせていただくことになると思いますが、その際はよろしくお願いします」

「お力になれたようで幸いです。ご武運をお祈りしております」


 依頼や同行者なんてのはどうでもいい。とりあえず迷宮の情報を掲示板とやらで確認してみよう。

 役人へ頭を下げ、掲示スペースへ足を向ける。六層まででいい、とにかくそこに至るまでの……。

『第四迷宮魔物出現報告 一 無 、 二 鳥(歩) 、 三 鳥(歩、飛) 、 四 鳥(大歩) 、 五 鳥(大歩) 六 死層(霊鎧) 七 鳥(大歩) 、 八(大歩、大飛) 九 ………』

 これか。鳥ばかり……鳥迷宮? 歩ってのは……ニワトリ? 大はダチョウかな。飛んでるのもいるみたいだけど、三層では気をつけないといけない。

 そして、死層。死の階層。霊鎧、これがリビングメイルのことだろう。早く戦ってみたい気持ちが沸いてくるが、今はまだだめだ。私が今日すべきことは、鳥から食べて眠れる分だけの魔石を回収して手早く戻ってくること。明るい内に宿を見つけたい。食事は最悪明日でもいい。

(地図は置いてないのかな。あったとしても売り物か。今の私に買えるとは思えない、手持ちは銀貨が二枚だけだ)

 受付の役人は教えてくれなかったが、あるいは他の冒険者が独自に売っていたりするのかもしれない。情報は欲しいが……やめとこ。関わり合いたくない。

(一層はおそらく何もいないから、二層と……余裕があったら三層を見るだけはできるかな。よし、行こう)



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