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第百七十九話

12/19 編集済みです。


以前とは話の流れが大きく変わっています。

 

 サクラの様子が変。

 元々変な子だったのは確かだけど、ここのところは……はっきり言って異常だ。

 なんといっても私の扱いが雑だ。雑過ぎる。構ってくれない、一人で遊んでることが多い、夜もそっけない。

 サクラは私のことが好きだ。大好きなんだ! これははっきりと自信がある。甘えてきたり、そっけなかったり、そんな猫のようなところが特に可愛いのだけれど……。今のサクラは、何か違う。焦点が合っていない気がする。

 彼女が本気を出せば、リリウムを探すのに十日も二十日もかかるわけがない。北大陸からセント・ルナまで走ってくるような子だ。よしんば見つからなかったら見つからなかったで、私にはきちんと報告をしてくれるだろう。私の知っているサクラは、そういう気遣いが……うん、できる。できる子だ。


 ルナで再会した頃から──嬉しくって気にしていなかったけど──今にして思えば違和感はあった。

 真面目に冒険者をやっていたり。──私のことを放って。

 話には聞いていた、(ひと)種の女の子の身元を引き受けたり──私のことを放って!

 あまつさえ、そのお友達のことも面倒を見ると言い出したり──私のことももっと構って!

 そういえば、ルナでフロンに会った時も……あまり嬉しそうにしていなかったような気がする。サクラとフロンは、友人として、友人として! かなり仲が良かったのに。

 気が急いていると言うか、彼女のことを見ていないと言うか。魔導靴だって、結局買わずに船に飛び乗った。あれだけ欲しがっていたのに。

 そんな些細な違和感を覚える心に蓋をして、日々を共に過ごしてきた。ヴァーリルでのサクラは、あまりにも普通だったから。


 ──よくよく思い返せば、ソフィア達にもまるで目が行っていない。修行を付けるという名目だったはず。アイオナに着いたのだから、何かしらするのだと思っていたのだが、何もしていないように見える。

 ねぼすけソフィアが朝寝していても、起こさない。迷宮で油断していても、叱らない。私とはしゃいでいたソフィアがへばっても、お小言一つ漏らさなかった。

 それにいつかの食事時、ペトラに迷宮で本気で戦って欲しいと言われて、一瞬だけど心底嫌そうな顔をしたのを、私は見逃していない。

 その後の言い訳も、彼女らしかぬ本当にただの言い訳で……結果戦うことにはなったけど、やっぱりソフィアは起こさないし、ほとんど助言もしないし、あまつさえ気絶したミッターとソフィアを放置した。すぐ目が覚めるだろうと。

 確かに命に別状はなさそうだった。だけど彼女なら……私の知っているサクラなら、あの段階で二人を背負ってでも迷宮を脱出して、治癒師に見せに行ったはずだ。問題が起きたら戻ると言う約束で受けたのだから。

 それができるだけの戦闘力を持っている。それに四人は動けたんだ、どんなに厳しく判断しても、あの状況で脱出できないわけがない。

 何事もなかったらそれでいいと、笑って許してくれる子だ。私のサクラは優しい子だ。けど、あの時は正直……何も考えていないようにしか見えなかった。目を覚ました二人の謝罪も、あれははたして聞いていたんだろうか。私は聞いていなかったと思う。


 フロンと連絡がついたのは本当に幸運な出来事だったと思う。誤解で滅茶苦茶怒られたけど──サクラにも見られたけれど──事情を説明したら、同じく違和感を覚えていたらしいフロンは、親身になって話を聞いてくれた。

 はっきりとサクラがおかしいと告げた。私の見てきたこと、感じていたこと、フロンに全てを話した。

 何か知っていそうだったリリウムを問い詰めたら出るわ出るわ……瘴気持ちの魔食獣の討伐を日課にしていて、その数を増やせないかと思索しているらしいこと。瘴気持ちのオークやオーガを食わせて、魔食獣が瘴気持ちにならないか試しているらしいこと。瘴気溜まりのスライムを養殖して、浄化黒石をかき集めていること──。

 はっきり言っておかしい。狂ってる。これ以上は絶対にダメだ、戻ってこられなくなる。サクラが堕ちたら……一体誰が彼女を止められるというのだろう。

 浄化で簡単に財を成せて、鉄壁の防御力を誇る上に、身を隠せば常人には絶対に見つけられない。おまけに一級冒険者だ。悪に身を落とせば取り返しがつかなくなる。千年後のお伽話に出てくるかもしれない。魔王として登場したって驚かない。

 今止めないと。私が止めないと。ついでにリリウムもダメになるかもしれないが、この際それはいい。サクラがおかしくなったら──私は生きていられない。


「姉さんは納得すまい。強行手段を採る。拉致しよう。南大陸に居続けるのも危険だが、早急に応急処置だけでも施さねば。一刻も早く、適切な処置が必要になる」

 リリウムを調べた後、しばらくして戻ってきたサクラは、一目で分かるほど……より一層悪化していた。この短期間の間に、また魔食獣を狩りに出かけたのだろう。──取り憑かれてる。どれだけの瘴気を吸えばこんな風になってしまうのか、私には想像することもできない。

 南大陸を訪れるのをずっと楽しみにしていたのを知っている。嫌がるだろう、嫌われるかもしれない。それは本当に怖い──だけど、それ以上にサクラを失いたくない。

 私はサクラのことをよく知っている。鉄壁のように見えて、私の前では隙だらけなのも、神の御業とて万能ではないことも。

 心は決まった。拉致しよう。監禁しよう。


「ほんとにもう……私の見てないところでいつもいつもいつも……! どうしてサクラはっ! 私の見てないところでいっつもいっつも変なことばっかりしてっ!」

 フロンの術式で意識を封じて、私の術式で更に強く縛り上げる。簡単に抜け出せはしない。どれだけ使い続けたと思っているんだ。サクラだけが褒めてくれた、この術式を。

「とりあえずは……これはもう治癒使いでは埒が明かん。法術使い……浄化が使えればいい、探してこなくては」

 都合よく見つかるだろうか……いや、見つけないと。これだけの瘴気、簡単に祓えるとは思えないが──。


「──そこにいるではありませんか、世界一の法術師が。……意識を刈る前に説得して、自身に浄化をかけさせれば済む話だったのでは」

「……」

「──」

 わ、私もそう思ってたんだよ! フロンが勝手に!


「これ、解けませんの? 死んだように眠っていますが……安らかな寝顔とは程遠いですわね」

 ツンツンと頬をつついている。ぷにぷにのほっぺを。私も触りたい。吸いたい。けど今はそれどころじゃない。

 あぁ、滅茶苦茶苦しそうにしてるよぉ……。だ、誰がこんな酷い真似を!

「……しばらくは無理だ。七日か十日か、二十日か百日か……まぁ、解けん。封印だからな。……しかもかなり強めに施した」

「フロンの馬鹿っ! ど、どうすんのよこれ……」

「お前も止めなかっただろう……とりあえず応急処置を施そう。目を覚ました姉さんが暴れないとも限らない。この姉さんが本気で暴れたら──」

 サクラは自分に害を成す者に対して一切容赦がない。確実な死が待っている。短い付き合いだったねフロン。安らかにお休み。

「私が意識を封じたなんて言わなければ分からない。姉さんはお前が身体の自由を奪ったことを知っているぞ。解いてとお願いされたな? あの時一番そばに居たのは誰だ? ……目が覚めたら忘れている可能性に……賭けてみるか? 代金は命一つだ。安いものだな」

 ────。


「リリウムもっ! 何遊んでるのよ! わ、私殺されちゃう!」

 いつまで触ってんのよ! それは私のほっぺだ!

「わたくしはサクラの使徒ですもの。殺されるにしても、きっと最後です。二人が死んだ後……改めて説得しますわ」

 あぁもうむかつくぅぅ! 余裕ぶって! 何よ使徒って! 私だって使徒じゃないのに!

「とにかく法術使いを探してこい。金は……あー、私今手持ちがないんだが……」

 私もない。お小遣い程度は持っているけど……あれ、そういえば有り金全部干し肉に──。

「はぁ……わたくしが出しますわ。貸しにしておきます」

 リリウムに負けた……。私とフロンは足で貢献するしかない。

「おなかすいた……」

 もうどっぷり日も暮れている。干し肉……お肉ぅ……。

「食っとる場合──いや、そうだな……ギルドに依頼を出して……食事にしよう」

 そういえば、ソフィア達には……なんて説明しよう。


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