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第百六十六話

12/19 編集済みです。


以前とはほんの少しだけ話の流れが変わっています。

 

 伸び悩んではいた。それが悩みの種でもあった。それでも多くの人達のそれと比べて、私の気力の格はかなり伸びやすいものだったらしい。

 長年気力の育成に集中し続けたリリウムは、私並に広い器と、私よりも遥かに強い格を得るに至っていた。

 おそらく私が同じように修練を積めばこうなる。モデルケースがすぐそばにあるというのは……励まされるね。

 二級冒険者になれるということは、唯一性があるか、圧倒的な戦闘力があると認められるかだ。彼女は双方を備えている。

「とはいえ、全く同一というわけでもないのか。リリウム近当てできないよね? 私は遠当てができないんだけど。この辺の才能はまた別なのかな」

「できませんわね。超至近距離で破裂させれば似たような結果は出せますが……威力が段違いで、はるかに劣ったものにしかなりません。反動も来ますし、正直利点がありませんね」


 一夜明け、二人して町の外に出かけることにした。現在双方の技能を見せ合っている。

 リリウムのスペックは基本的に過去準拠のようだ。そこから気力や魔力のあれこれが使徒化で変化し、二十年分の修練が積み重なって今に至っている。

 ある程度の生力を備えた上で過去に戻され、こちらも二十年分修練を積んでいるわけで、リリウムは私並にタフだ。生力の比較は難しいが、案外私よりもタフネスなのかもしれない。

 かつては金属鎧姿で剣や槍をぶん回していた彼女だが、現在はかなりの軽装だ。

 綺麗に手入れされていることは分かるが、あってもなくても変わらないような革の部分鎧と靴。武器に至っては持っていない。気力でゴリ押せるので、こだわらなくなって……やがて使わなくなったと。

 と言いますか、この遠当ては反則です。私の近当てよりは威力が低いが、それをなんていうか……遠距離から連続で飛ばすのはやばい。視認できてはいるが、その異質さは肌の方でより強く感じている。

 ものすごい勢いで拳を突き出し、私が昨日魔石にしていた羽虫のような魔物を透明の弾丸のような物で撃ち抜いて蜂の巣にしていくその光景は──まるで魔法のようだ。

「あ、瘴気持ちは私にやらせてね」

「ええ、心得ておりますとも。しかしなるほど、これはまぁ……」

 リューンは見えないと言っていた神力の糧になるこの光。リリウムには吸われないが……見えてはいるらしい。

「最初は目を疑いましたわ。触れても何もおきませんし、しばらく滞留した後に消えてしまうしで。これはこういうものだったのですね」

 リューンが瘴気持ちを殺しても、光は生まれない。

 リリウムが瘴気持ちを殺せば、光が生まれる。だがそれはその場に留まっているばかりで、私の方に引き寄せられることがなかった。

 だがふよふよしている光に触れると、それはきちんと私に取り込めた。

 手間なので、瘴気持ちは私が倒すことにしよう。勝手に吸い込まれる方が楽だ。リリウムの討伐で生まれた光が私に寄ってきたら……大変な横着をすることになったかもしれないな。

 そもそもこいつらは魔石にしたいのだが……検証の方が大事だ、今はいい。


「近当ても……冗談のような威力ですわね……。魔食獣を単独で討伐してると聞いた時は、サクラの頭を疑いましたが……」

「依頼の受注資格が三級だったから、いけると思ったんだよ……」

 近場に居た、哀れなオーガの千切れ飛んだ身体を見やりながら酷いことを言われる。

 あの食いしん坊は、この大陸で……というよりも、在野の魔物の中ではトップクラスに厄介な、災害とか天災扱いされている魔物らしい。私の持っている図鑑には載っていなかった。

 討伐依頼は、何も魔食獣の巣に乗り込んで倒してこいということではなく、巣から出てきたはぐれがいたら、それを総出で討伐するか、追い返すかするものだ、と。

「あれは国が主導して二級を中心に呼び寄せて数を集めて、一級に頭を下げて、三級までなら参加してもいい、という意味なのです。覚えておいてくださいまし。でも後で、戦っているところを見せていただけると──」

 リリウムなら倒せそうだけどな……宙に浮けないと踏まれたら大惨事か。あの子達すっごく暴れるし。

 何かすっごく期待した目で見てくる。可愛い顔してそんな上目遣いをされたら──。

「いいよ。アイオナの南にいるから、帰りがけに倒していこう。今日のノルマまだだし」

「あれは日課に討伐していくような魔物ではないんですけど……。でも、楽しみですわっ」

 頑張っちゃう。その後しばらく身体を動かして、一通り確認を終えた後に町へ戻った。


「えぇっ!? リ、リリウム様出て行っちゃうんですか!?」

「様付けはお止めなさい。──えぇ、待ち人と会えましたので。世話になったわね」

 ギルド内が騒然としている。掃除屋リリウムがリスロイを去る。

 別れの挨拶はそれだけだ。リリウムの抜けた穴は……そこいらの呑んだくれ共を上手く使えばなんとでもなるだろう。

「ねぇねぇリリウム様。掃除屋って何?」

 パタパタと雨音がうるさい。少し大きめの声でそう問いかけると、ものすごく嫌な顔をしながら……。

「……売れ残った依頼ばかりこなしていたらそう呼ばれるようになった、というだけです──お願いですからそれ、人前では呼ばないでくださいね」

 そう教えてくれた。リューンにも教えてあげよう。

 報酬が安いとか、面倒だとか、依頼一つを取ってしても人気不人気の差はある。そしてそういった不人気な依頼は、微妙に貢献点が高く付けられることがあったりなかったりするわけで。

 なるほど、掃除屋……階級は上がるべくして上がったんだな。善行を積んでいたリリウムにはご褒美をあげよう。

「ご飯食べて宿引き払ったら、向こう行く前に先にお風呂入っていこうよ。アレ、やったげる」

 手をワキワキしてみせる。というかしたい。私がしたい。させて欲しい。

「アレ? ──ア、アレって、アレ!? い、いいんですの!? あぁっ……夢のようです……!」

 こんな町だが公衆浴場はある。最悪大浴場でもよかったが、個人風呂もあるとのことで。

 念入りにフルコースでご奉仕して、ピッカピカに磨き上げた。リリウムは怖いくらいの上機嫌で、見違えた彼女を前に私もご機嫌だ。とても懐かしい。かつては溶岩地帯や氷山地帯の後によくやったなぁ、これ。

 これを建前に存分に彼女の身体を楽しんだものだ。あの頃は目付けがいたけど、今は居ない。


「最後にもう一度だけ、一応確認させてね。迷宮産魔導具は持ってないよね? 出自や得体の知れない魔導具も」

「えぇ、誓って所有していません。普段は無手で、使ってもナイフくらいですから。防具もこれですし、他の荷物は……こんな感じで」

 たっぷりと長湯を楽しんで、浴場を後にする前に一応確認すると、時間があったので脱衣所で荷物を広げて見せてくれる。安物のナイフと革鎧、後は下着とか日用品とか。荷物もそう多くはないが、そもそも魔導具の類がないな。

「なくても魔物は倒せましたし、食べていけましたから。それにいくらわたくしでも、『ぐにゃぐにゃ』が光ったのは覚えていましたから……察します」

 リューンといいリリウムといい、察しがよくて助かるよ。私は死んでも、女神様に指摘されるまで気付かなかった。

「魔法袋はアイオナに着いたらまとめて発注しようか。私もリューンも持ってないし、うちの子達にも一枚は預けたいから」

「魔法袋? もしかして、人造の物があるんです?」

「みたいだよ。店主が不在でまだ請け負ってくれるかは分からないけど……店は確認してある。《これ》は流石に明かせないからね」

 《次元箱》から鞘付きのナイフを一本取り出してリリウムに差し出す。

「それ安物でしょ、これあげるから、下げときなよ」

「あ、ありがとうございます……変わった色をしていますわね──随分と立派な物のようですが」

 そりゃあ魔石型で成形したとっておきですもの。試製短剣十四号君だ。残念ながら浄化真石の量が足らずに霊体干渉は付かなかったが、極めて鋭利で強固とリューン先生にお墨付きを頂いた、当然アダマンタイト製。干し肉を切り分けるのにちょうどいいんだなこれが。

「剣とか使う?」

「いえ、もう長く使っていません。夢中で気力と遠当てを磨いていましたら……その……こうなってしまいましたので」

 まぁ、あの遠当てがあれば……いらんわな。


 リリウムの荷物を一纏めにして次元箱に預かる。先に魔食獣を狩りにいくし、転移の際に邪魔だ。

 そう。預かる。預かれた。──他人の、リリウムの私物を。


 そのまま町を出て、適当なところで認識阻害を掛けてから食いしん坊の巣へ出向いた。

「これは……フロンの物とはまた違った感じがしますね」

 その道中での話だ。気づくものなんだな……リューンは特に何も言ってなかったけど。やはり使徒だからだろうか。

「そうだと思う。今のところ迷宮に出入りできないんだよ。ゆくゆくはどうなるかも分からない」

「それでも十分過ぎますわ……おまけのように禁術を用いて……フロンが知ったら腰を抜かすかもしれませんわね」

 私がフロンとはほとんど接触していないことは改めて話してある。迷宮産魔導具のこともあるし、すんなり納得してもらった。彼女もどうやら……そういう魔導具や神器の類には、言葉にできない嫌な感じがしているらしい。

「私はまだその手の魔導具見てないんだよ。一目で分かる?」

「──はっきりと。正直近寄りたくもありません。あれらが触れた空気を吸っていると考えただけで怖気が走ります」

 腕の中でブルブルと身体を震わすのが、言っちゃ何だが可愛い。怖気が走る──か。覚えがあるなぁ。


 巣まで辿り着いた後に、一時間ほどかけて危なげなく魔食獣を二匹討伐した。

 その巨躯に腰を抜かし、いやいやするたびに巻き起こる地響きに慌てふためき、討伐すると我が事のように喜ばれ、おびただしい光の糧の量に呆けた顔をしたり、共喰いを始めたのを見て悲鳴をあげたり……賑やかだ。

「すごいですわ! すごいですわ! あーんなに大きい魔食獣を倒すだなんて! しかも二匹もっ!」

「日課だって言ったじゃない。それにしても、あれの首獲ってこいって言うんだからギルドも無茶言うよね。どうやって持って帰れって言うのよ。しかもそれで大金貨たったの三十枚だよ?」

「普通は緊急依頼が出ますから。あまり高いと……ほら、無茶して巣に突っ込んで、町のそばまで引っ張ってこられでもしたら大惨事ですもの。地図から消えてしまいます」

 あー……確かにこいつらなら、町の一つや二つ普通に食べ尽くしそうだ。瘴気持ちなら討伐しに行ってもいいけど、普通の個体なら正直相手したくない。頭を下げられても断ると思う。


「ついでだし浄化黒石集めておきたいんだけど、いいかな? 量が欲しいんだ」

 うちの子達がいると次元箱が使えない。魔法袋もない以上、魔石集めをがっつりやりたければ、精々リューンまでしか同行させられない。一人だと退屈だし、今は割りと絶好のチャンスだ。

「浄化黒石を? 構いませんが……何に使うんですの、あんな物を」

 普通はこういう認識だ。私もずっとそうだった。

「詳しいことは落ち着いてから話すけど……すっごく重要なんだ。正直大樽百個分でも千個分でも、どれだけでも欲しい。質が良ければ尚嬉しいね。ここ以外じゃほら、まとまった量集めにくいじゃない? 私もずっと南にいるわけじゃないから」

「そういうことでしたらお付き合いしましょう。──ここからだと少し遠いですが、いい場所があります。ご案内しますわ」

 リリウムは南大陸に精通……とまではいかずとも、私なんかよりかなり詳しい。群棲地一つ教えてくれるだけでもかなり──。

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