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第百五十四話

 

 リューンの魔力量的に、昼に鑑定するも夜に鑑定するも同じとのことだったので、翌日は一日ソフィアを構って遊ぶことにした。

 まだ若いからか、余裕があったのか、三人は翌朝ケロッとした顔で朝食の席に着いていた。リューンは恐らく今日はずっと宿で寝ているだろう。

「あ、おはようございます!」

「お……はようございます」

 真っ先にこちらに気付いたソフィアを遮るように元気に挨拶してくれたペトラちゃん。忠犬タイプだな。明るい笑顔が眩しいよ。

「おはよう。皆早いのね」

 今日はコスプレ軍服スタイルだ。リューンもいないし、たまには着ないとね。これを着ると気分もピシッと引き締まる思いがする。鍛冶服を除けばこれくらいしかズボンがないというのもある。

「おはようございます。朝寝していると、どこでもどやされてきましたので……」

 家にはあの所長がいて、騎士学校在学中はきっと、毎日規律正しく動かねば怒られたのだろう。そして北のギルマスにしごかれ、今はわんこ達のお守りをしながら長旅の最中……苦労人だなぁ。

「メリハリをつけることが重要です。身体が資本なのですから、疲れを取るためにしっかり休むことは怠惰ではありませんし、たまには息抜きをすることも必要です。というわけでソフィア」

「……はい」

 何か暗いな、元気がない。疲れが溜まってるなら無理に連れ出したくはないが、単にこれは私に構ってもらえなくて拗ねてるだけだろう。護衛のお仕事中はソフィアに限った話ではなかったが、ほとんど私は彼らに干渉しなかった。たまに抱きつかれはしてたけど。

「予定がなければ後で町を見に行きませんか? 目的があるわけではありませんが、ブラブラと散歩にでも」

「えっ……? ──はい! はいはい! 行きます!」

「三人で予定を立てていたならそっちを──」

「いえ! ありません! ないです! 行きます! 一緒にっ!」

 ミッター君がペトラちゃんの口を押さえながら苦笑している。大人だなぁ。


 軽く髪を梳かしてあげてから、二人してマヘルナの港町を当て所なく散策する。うちの聖女ちゃんはご機嫌だ。外目には仲良し姉妹のように見えるだろうか。

 私はなんだかんだもう三十才近いはず。地球からこっちに連れてこられて十年近く経っているはずだし……思えば二十代後半の数年を鍛冶の鍛錬に当てていたわけだ。恐ろしい……。親子には見えないことを祈ろう。

 大して精神年齢が上がっていないように感じるが、いつまでも心は乙女ってことでいい……ことにしよう。リューンなんていつまでもあんなだし。

 さておき、すっかりお嬢ちゃんから美少女に成長した癒し系わんことの散歩は、中々に穏やかで楽しい、心地良い時間だ。

 握った手は三年前と比べれば若干ゴツゴツとしているが、まだ普通の女の子の範疇だろう。それだけ熱心に修練に明け暮れた証だ、とても好ましく思う。

 隣でニコニコと腕を振って歩いてるのがとても可愛らしい。私もあまり口にしたことのない甘味を食べ歩いたり、服を見て歩いたり、装飾品を……などとぶらぶらしていると、一点のアクセサリーの前でソフィアが足を止めた。

 ペリドット……よりはエメラルドっぽい、緑の宝石の付いた小さなペンダント。他は銀製かな、たぶん真銀ではない。魔導具ですらない普通の装飾品だ。

「あら、可愛いわね。こういうのが好き?」

「あ、えっと……うー……はい。緑色の宝石、好きです。ただ、高いですね……うー」

 台座は大したことがないが、宝石を含めればまぁ、それなりにする。ふむ──。

(そういえばあれだね、大人……成人したらだったかな? 真石のアクセサリーをプレゼントするとか、過去に約束したっけ)

 管理所で小さな浄化緑石をあげた時に、今は真石はダメだけど、大人になったら……みたいな話をした覚えがある。せっかくだし練習がてら作ってみようかな。緑石いっぱいあるし、真銀も残ってるけど……。

(魔導具化は……今は無理だな。ただのアクセサリーを作るだけならそう大した時間もかからないと思うし)

 頭の中で財布の中身と相談していたのだろうが、諦めて店を後にしてしまった。お姉ちゃん、これ欲しいな? とでも頼めば私はイチコロなのだが……健気な妹分に、一肌脱いであげましょう。


 夕飯前にペトラちゃんを捕まえて、好きな色と宝石とを尋ねておく。彼女は赤っぽい色が好きそうだと思っていたけど、私のイメージとは違い濃い青系が好みのようだ。アクアマリン系よりサファイア系だな。蒼石を加工すればいけそうだ。ちなみにミッター君は紫系を好むとのこと。男物のアクセサリーの知識はないけれど……装飾品関係も勉強してみようかな。もしかしたら魔石を単品で売るよりも良い値が付くかもしれない。売る気があるかは別として、造形が良い方が単純に嬉しい。

 とはいえ、流石に今からヴァーリルへ戻って真銀を打つわけにもいかないし、台座はともかくチェーンの加工はそもそも時間があっても厳しい。

(というかあれだな、いっそその辺りは全部真石で作るか。変質させれば強度はそれなりになるし、着けていても目立たないし、いざという時……間違いなく金属よりも良い値が付く。どうしようもなくなった時は売ってもらえばいい。おまけに加工が楽──これがでかい。金属アレルギーなんかの心配もないだろう)

 色魔石を宝石のように加工して、トップだとかチェーンだとか、そういうのを全て浄化真石で。これならすぐだな。一応参考程度に、適当にアクセの類を買ってこようかしら。


「ただいま。──今度は何、アクセサリー?」

 翌日、出かけた三人の少年少女達とかち合わないように探査で避けながら、装身具などを扱っているお店を回ってデザイン重視で色々仕入れてきた。

 地球産の物の知識があればよかったのだが……残念ながらそれほど深い知識は持ち合わせていない。ダイヤモンドのカッティングとか勉強しておけば一財産になったかもしれないのに。

「おかえり。うん、練習も兼ねてね。耐熱とか耐寒とか、自作できると捗りそうじゃない? その時無骨なものよりは、可愛い物の方がいいでしょ」

 イメージ通りに作れるのは大層便利だが、集中していないとすぐに崩れる。どこ行ってたんだろう──なんて考えたら、グシャッと……やり直しだ。

「いいね……それはいいね! それで今は造形の練習中ってわけだ。ねっねっ、私のは?」

「ないよ」

「……拗ねるよ?」

 剣の柄に手をやらないで欲しい。それは拗ねるとは言わない。

「そうじゃなくて。私達のはさ、二人で力を合わせて作った……そんな物にしたいんだよ。リューンが術式を、私が魔石を、二人の作品を合わせて……ってね。ただの飾りでよければいくらでもプレゼントできるけど、それじゃつまらないじゃない?」

「……大好き」

「私も大好きだよ。そんなわけで、作るのは別に構わないけど……形だけで愛は篭ってないようなものにしかならないよ。これただの練習だし」

 私にとって浄化橙石はただの粘土だ。世間様の評価は知らないが、私はこんなもんで作った装飾品をもらっても──相手によっては嬉しいかもな。リューンが可愛く渡してきたら何でも受け取ってしまいそうだ。

「そうまで言われたらねだれないじゃない。まぁ……今は我慢してあげるよ」

 それだけ告げると、ベッドに腰掛けて上機嫌に剣の手入れを始めるリューンちゃん。可愛いんだから、もうっ。

 ちなみにこの剣は神器になっていなかった。鑑定ではきっちり霊体干渉と出ていたが、種別は聖剣でも魔剣でもなくただの『剣』。評価は不能で極めて鋭利で強固とのこと。アダマンタイトの強度はしっかりと鑑定結果に反映されているようだ。


「どうよ?」

「おー……こりゃまた……お金の臭いがするね」

「魔石そのまま売るより儲けられそうだよね」

 一通り粘土細工で練習をしてから本番に着手してみたが……割りと今すぐにでもアクセサリー屋さんが開けそうだ。お手本をそのまま模倣してみたり、心の赴くままにと色々適当にこしらえてみたが、これは我ながら結構な物じゃないかな。変形の練度が活きている。

 今回作ったメインのペンダントも、小さなリングを噛み合わせたチェーン一つ取ってしても莫大な値が付きそうだ。変形と変質で多少魔石の質が落ちてしまったのか、天然物の浄化真石に比べてやや存在感があるが……ちょうどいいかもしれない。全く見えないと身に着ける時に困るし、おそらくこれでも特上以上の査定は付くはずだ。

 ペンダントトップまで含めて、限りなく透明に近い浄化真石製。そこに綺麗な楕円体に加工した色魔石を嵌め込み、これまた真石で鈎を掛けて固定している。長さはアジャスターで調整できるように頑張ってサイズを整えた。流石にフックは作れない。金属製でもかなり怪しいが、魔石でバネを作るのは無理だ。

 傍目には宙に色魔石が浮いているようにしか見えないだろう。強度も金属ほどではないが、それなりにはなった。日常で身に着ける分には困らないと思う。きちんと変質を施しているので摩耗にも強い。

「ただ、ペンダントは術式仕込むのが難しそうだね……ブレスレットとかならどうかな?」

「色気がないことを言っちゃえば、防具に仕込むのが手っ取り早いんだけど……そこは腕の見せ所だね。耐寒耐熱くらいならたぶんペンダントの、その宝石くらいのサイズがあればいける。腕力とか魔法強化はブレスレットくらいの領域がないと厳しいかな。魔力強化になると今の私じゃちょっと無理かも。勉強しておくよ」

 カタログみたいなものがあればもっと色々作れるんだけど……自分の足で見て回った方がいいな。一度再現できればもう現物に用はない。


 数日後──。

「──というわけで。はい、プレゼント。魔導具でもないただの飾りだけど、好きにしていいよ。南ではぐれても、売れば船代の足しにはなると思うから」

 ギルドの依頼をこなして帰ってきた三人に、サプライズだ。

「足しというか……はぁ、もういいよ。その金銭感覚、本当にどうにかしなって」

 エルフのお小言は無視だ。ソフィアには浄化緑石、ペトラちゃんには浄化蒼石、ミッター君には浄化紫石を加工した、お揃いのペンダント。ミッター君が身に着けるにはちょっと可愛らしすぎるかもしれないけど……まぁ、そこは我慢して欲しい。

 ケースもちょうど良いサイズの木箱が置いてあったので、それをもらってきた。色々買ったらサービスでつけてくれたので、あの店は優良店認定している。値段も手頃な物が多かった。

「わぁ……すごい……ありがとうございます! ──これ、えっ……? もしかしてこれ、浄化真石……ですか!? 宝石もこれ、浄化蒼石じゃ……すごぉーい!」

 おー、真っ先に気付いた。よく分かったね。木箱の蓋を開けて驚きの声を上げた直後のことだ。ペトラちゃんはこういうの詳しいのかな。

「そうだよ。身に着けてるだけで壊れるような強度はしてないけど、戦闘する時なんかに着けるのは止した方がいいね、防具としての性能は皆無だから」

「あ、ありがとうございます……。あの、浄化真石って……あまり詳しくはないのですが、こ、これ……査定で上とか付くのでは……?」

「元は特級品だよ。加工の過程で少し質が落ちたかもしれないけど、それでも特上以上にはなると思う。大事にしてね」

 ペンダントを自前のハンカチの上に置き、その上から丁寧に眺めていたミッター君の身体が凍りつく。原価自体はそう大したことない、量が量だし。

「あ、あ、ああ、あの……お姉さん、これ……もしかして、私が物欲しそうにしてた、から……ですか?」

 うちの聖女ちゃんは目に涙を浮かべてプルプルしてる。かぁいい。

「あれ買ってあげてもよかったんだけど、それじゃ面白くないからね。お姉ちゃん自作してみたんだ。中々綺麗な緑に仕上がったと思わない? 頑張ったんだよ」

 魔石の『変質』具合で色合いが微妙に変化することを発見できたのは収穫だった。リューンとあれこれ相談しながら、色々とサンプルを作ってメモと一緒に保管してある。浄化蒼石を濃い青にするのが大変だった。何度も割れるし、やり過ぎると黒っぽくなるし。あれらは冷房の燃料行きだ。


 緑色のペンダントを手にとって首にかけてあげると……うん、可愛い! これはとてもプリティーだ。やっぱり今からでもローブ着て杖持たない? お姉ちゃん全部買ってあげちゃうよ?

「可愛いよ」

「あ、ありがとうございますぅ……大事に、大事にしますぅ……」

 泣いて喜んでくれた、こういうのは嬉しいもんだね。習作だが、習作なりに丁寧に作ったんだ。大事にしてくれると嬉しい。

「ああそうだ。言うまでもないけど、出処が私だってのは漏らさないでね。私これで食べて行く気はないから。剣もそうだけど、ルパやガルデの露店で買ったとか、そんな感じで口裏合わせておいて」



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