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第百五十三話

 

 三十日近くかけて港町までの護衛を終え、夕方近くにギルドへの報告を終えると、少年少女達は宿でダウンしてしまった。

 聞けば長期の護衛任務は初めてだったとのこと。思えば私もそうだ。この手の依頼をこなすには、些か準備が足りていなかった。

 テントや寝袋、毛布などもそうだし、食料も……まぁ、エルフのせいでもあるのだが、頻繁に買い足していた。魔法袋を持てない縛りはきつそうだが、元々三人はお金が足りなくて、私の言い付けがなかったところで魔法袋どころではなかったとのことだ。この点は気にする必要はないだろう。

 防具に関してもまだまだ三人共貧弱だし、安定して稼げるように頑張って欲しい。

 自分で言うのもなんだが幸い武器は一級品なので、無理せず堅実に稼ぐのに不足はないだろうと思う。手入れも精々血を拭ってしまえばそれでいい。ペトラちゃんが魔物を屠るたびに大喜びで抱き付いてくれるのが気持ちよ……嬉しかったです、まる。

 折れない細剣というものは中々お目にかかれないとのこと。本当に喜んでくれて嬉しく思う。

 ただ皆まだ成長途上とあって、色々と課題が残されているのは確かだろう。筋力とか、体力とか。

「リューンもお疲れ、大変だったんじゃない?」

 今は訳あって私達と三人は別々に部屋を取っている。疲れ果てていた三人は特に異を唱えることもなく諾々と従い、今頃は夢の中だろう。

「私はそんなに。身体強化あるし、気疲れはしたけど、それくらいだよ」

「じゃあ──今から鑑定一件お願いしたいって言ったら、やってくれる?」

「いいよ。結界石が必要な?」

「必要な系。あと頼んでおいて悪いんだけど、これの結果はリューンにも教えられないかも。封印するかどうかを決めたいんだ」

「封印……うん、わかった。いいよ」

 これの扱いには本当に気をつけたい。一見アダマンタイトには見えない。どちらかと言えば迷宮産っぽい。ただ、下手な迷宮産より確実に上の性能をしている。いずれ役に立つことがあるかもしれないが……それでも使うかどうか、頭を悩ませる。

 次元箱から結界石を取り出し、それを配置してもらってから、メモ道具と『黒いの』もどきを用意する。

「これ……『黒いの』じゃない! ど、どど、どうしたのこれ!?」

「作った。ただごめんね、細部はちょっと……口に乗せたくもないんだ。似てるのは形だけで、過去のあれとは別物だよ」

「ふーん?……そこまで言うなら聞かないでおいてあげる。それにしてもそっくりだねぇ……」

 刃先が下を向かないように細心の注意を払って机に置き、リューンが鑑定のために意識を集中させ──。


 魔剣 無名 評価不能 特記事項:神器。不壊。魔力貫通。切断力強化術式。剣身保護術式。極めて鋭利。


(あー……こうなるわけね。魔剣って……神器って……不壊って……祝福されちゃった系? 私の祝福で壊れなくなっちゃった系? どうしよう……)

 恐らくあれだ、コポコポするまで浄化を込め続けた冷却水を、結界に閉じ込めて剣に当て続けたのが原因だろう。

(祝福されちゃったぁ。てへっ)

 ふざけないとやってられない。どうしよう、これ……。

 いつだったか、第三迷宮に入り浸れば不壊を量産できるのでは……なんて考えたことがあった。

 いつだったか、私が祝福することで物が壊れなくなるならいくらでも祝福するのに……なんて思ったことがあった。

 いざそんなものを作り出してみると……ビビる。他に言葉がない。

(っていうかこれ、アダマンタイトでなくても不壊になれば……属性剣とかも不壊で作れ……る……よね。それよりもこれ無名ってことは……名付けすればもっとすごくなる? 勘弁してよ……)


 剣とメモを次元箱にしまい込み、その後で結界石を片付ける。しばらく考える時間が欲しい。

 現状アダマンタイト製の武具なら、意図して神器化させることが恐らく可能だと思う。量産できると思う。不壊となってしまった以上、これはもう火山の火口に投げ込もうが強力な酸に漬け込もうが消失しない。

 原因はおそらくあの浄化水……だと思うんだけど、浄化黒石も正直かなり怪しい。

 あんなに緩みきった、リラックスしきったアダマンタイトの姿を見たのは初めてだ。リューンの剣はあんな風にならなかった。浄化真石を二、三樽分使えば神器化するのか? お化けを切れる剣が不壊で残ればかなり心強いけど……。

 浄化黒石は謎の魔石だ。瘴石共々一般的な用途はほとんど無いに等しい。

 思えば私が初めて手にした魔石は浄化黒石だ。道を踏み外してからは縁が切れてしまったが、今新たな縁が生まれている。私がこれを上手く活かせるのは、本当にたまたまなのだろうか。

(ひょっとして、私は……私の名もなき女神様は──)

 ──なんてね。


「ど、どうしたの? さっきからずっと考えこんでるけど」

「うーん……それがね……うーん……」

 正直言い難い。これの存在を公にしていいものだろうか。リューンになら打ち明けても……うーん。

「結構厄介事なんだけど、聞いてくれる?」

「水臭いなぁ、今更だよ。私以外に誰が相談に乗れるって言うの?」

 甘えてもいいかな。リューン以外にこんなこと打ち明けられない。一人で一生抱え込むか、一生一緒に背負ってもらうかだ。

「そうだね、今更だよね……大好きだよ。じゃあ、これ見て」

 慈愛の表情で私を見ていたエルフの顔が凍りついたのは……まぁ、予想できたことだ。


「ちょ、ちょっと……何よこれ……!」

 結界石を所望され、それを再設置してからメモを見せて話を始める。私の結界も全ての阻害を最高強度で仕掛けて二重にしてある。

「作れちゃった……神器」

「作れちゃったじゃないよ! ど、どどど、どうすんのよこれ……!」

 エルフは半泣きになっているが、私も正直泣きたい。どうすんのこれ……。

「言ったじゃない、封印するかどうか決めるって。──下手したらリューンの剣も神器になってるかも。十で言えば二か三くらいだと思うけど、可能性は」

「えぇ……ちょっと待ってね、流石に今すぐ鑑定は無理だ……明日、明日のお昼。また鑑定しよう」

 事の重大さはリューンもよく理解している。私達は不壊の剣であわあわする運命にあるんだろうか。

「うん、それは正直助かる。それでね……これ、名付けで性能が変わるかも──」

「ああぁぁもう聞きたくないよぉぉぉ……その可能性……あるよね。当然だよ……。私はまだ名付けとかそういうのしてないけど……ど、どうするの?」

「名付けはする。これがもし他人の手に渡ったら、なんてことを考えたら……保険をかけておかないとおちおち夜も眠れないよ。何らかの干渉で次元箱から取り出されて、それを奪われたら取り返しがつかないから。これの名付け後と、リューンのを鑑定して、神器化してたら更にもう一回。後三回くらいお願いすることになるかも。言うまでもないけど、これソフィア達には絶対に言わないからね」

「うん、私も絶対口に乗せない。──ね、ねぇ。これひょっとしていっぱい作れるの?」

「私にとっては……だけど、特に希少な物は使ってないよ。ヴァーリル並みの設備があればどこでも作れる。適した場所はあるけど」

 魔石炉の工法は頭に入っているしメモも取ってある。砂はそんなに珍しいものでもないし、アダマンタイトも……ヴァーリル以外では手に入らないなんて代物ではない。


「……魔導靴とか鎧とか、不壊にできる?」

「試してみないと何とも言えないけど、恐らくできると思う」

「……」

「……」

 リューンはおそらく履いたことがなかったはずだけど、私には金属製の魔導靴は馴染み深い品だ。

 鎧の類は身に着けたことがない。リューンも基本的に嫌っているが、流石に不壊ともなれば話が変わる。お揃いで身に着けていたあの魔導服なんて鼻で笑える防御力を素の状態で保有することになるわけで。術式を仕込めば利便性も格段に向上するし、それが破損することもない。

「防具系の術式、使いそうな物を今のうちから見繕ってもらえないかな? 今すぐ作るってわけじゃないけど、南で用事が済んだら一度ヴァーリルへ戻ろうと思うんだ。仮に不壊にならなくてもあるに越したことないし」

「そうだね……うん、それがいいね、流石にね。不壊なら私も……文句言えないよ」

 矛盾という言葉があるが、それが通るのはただのアダマンタイト製の武具までの話だ。

 不壊ともなれば、剣で鎧に斬りかかったところで鎧は斬れないし、剣も折れない。絶対に。盾の方が強い。

「防汚って術式で込められるんだよね?」

「鎧にって話は聞いたことがないけど、普通に込められるよ。ただその辺に売ってはいないと思う。あれだよね、もうありったけ、なんでも、片っ端から手に入れていけばいいよね?」

「資金は全部出すからお願い。武器に使えそうなのもね」

 とはいえ、現状私もそこまで資金に余裕があるわけではない。魔石か武具かで資金集めをしないと……。フロンに真石買って貰うのが手っ取り早いんだけど、迷宮産魔導具を所有されてる間は正直近づき難い。近くにあるだけで一発アウトとは思えないけど、何を以て察知されるかが分からない以上は距離を置かざるを得ない。

 そういえば──。

「ねぇ。話変わるんだけど、リリウムって今何してるの? 別行動してるとは聞いたけど」

「ルナにいるよ、普通に修行中。たまにフロンの手伝いしてお小遣いもらってたけど……連れて行くの?」

「いきなり私が現れて、一緒に南へ来い! なんて言ってもね。正直リリウムのことはかなり好きだから会いたいし、また仲良くしたいとは思うけど……急ぎではないかな、ソフィア達のこともまだまだかかるし」

「へぇー……ふーん……そういえばサクラもリリウムのことは大層可愛がってたよね? 最初殺そうとしてたのにね? そっかぁ、可愛いと思ってたんだぁ? ほー……」

「何拗ねてるの。私別にリリウムに手出してないからね?」

 可愛いとは思っていたけれど、そんなこと言ってない。

「どうだかなー。ペトラに抱きつかれた時も嬉しそうにしてたしなー。ソフィア凄い顔してたよ? 見てた?」

 ペトラちゃんは私よりもたぶんある。抱きつかれればそりゃあ嬉しい。ソフィアはない。リューンよりもない。

 しかしなんだ、少しはソフィアも構ってあげないとダメか。爆発されてもな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 焼き餅……! 顔面を両手で覆いたくなりました。可愛い。 毎日読んでから寝るのが日課です。ありがとうございます!
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