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第百二十三話

 

 まず覚えておかなければいけないこととして、瘴気持ちを浄化してしまうと、神格の糧になるあの光が極端に少なくなってしまうということが挙げられる。

 神格の成長か浄化黒石かのトレードオフだ。黒石は大した用途もないとフロンが言っていたし……基本的に瘴気持ちは浄化なしで屠殺すればいい。

 悪霊については基本的には命を大事にするが、可能であれば魔石にせずに殴り倒したい。第三迷宮の死神程度の魔物なら粘ってもいいかもしれないが……どうしたものか。

 当たり前の話ではあるのだが、在野の魔物は殺し尽くしてしまうと次が生えてこない。瘴気持ちは、普通の魔物や魔獣が瘴気に侵されてああなるわけで、殲滅しないよう注意が必要になる。

「──牧場? いや、さすがにそれはあんまりかな、そもそも手がない。後は迷宮にどれくらい瘴気持ちが出るかだよなぁ……」

 ここ数日で、泉の西の瘴気溜まりの瘴気持ちはかなり数を減らしてしまった。その原因を浄化できるかどうかは試そうとすら思わない。是非とも、延々と瘴気持ちを生み出し続けてて欲しい。

「瘴気溜まりを消そうとする勢力は敵だ。絶対に許してはならない。これは必ず阻止しなくては──って、なんか言ってることが悪役っぽいよ、私」


 狩場は南大陸に据えるつもりでいる。

 ならアルシュの瘴気溜まりにいる瘴気持ちは、殲滅してしまっても問題ないのではないだろうか? リューン曰く、北大陸は瘴気持ちが少ないらしい。これを逃すと次はいつこの規模の群棲地と出会えるか分からない。

 ぼちぼち死体の腐敗が始まる頃合だろうが……そこは我慢しよう。腐肉も瘴気溜まりも瘴気持ちも、等しく浄化するわけにはいかない。

 本当は私だってそんなところに近づきたくない。腐肉に虫が湧いているかもしれない。考えるのもおぞましい。

 とはいえ魔導具……迷宮産魔導具の恩恵に与れない今、早急に女神様の技法……《結界》を会得し、《次元箱》を取り戻さなければならない。


 ベッドに仰向けに寝転び、十手で手遊びしながら考えごとをしている最中、不注意で十手が宙に浮いてしまう。

 とっさにこれを引き寄せしようとして、失敗する。手の中に収まらず、腹の上に落ちてきた。そのまま身体が硬直する。

(……引き寄せもダメなの? っていうか、女神様の言ってた『真の技法』っていうのはなんだ、浄化と結界だけじゃないの?)

 引き寄せができない。ふわふわの索敵もできない。以前の浄化もどきも、おそらく今の私にはもうできない。そして没収されたけど、次元箱のようなものがその内使えるようになることは、はっきりと直接明言されている。

(この技法は女神様の力だ。あの人は何ができるんだ? 浄化と結界だけじゃない。少なくともここに次元箱が加わる。──そもそもあの人はどうやって私を見つけたんだ? ここから地球にいた私を《探して》、それで《呼び寄せ》た? 私がどうやってここに呼ばれたかはともかく、索敵と引き寄せは権能の一部……ってことでいいんだろうか)

 結界と浄化が使えれば最低限不満はないが、次元箱の存在が明言されている以上、これを使わずにおく手はない。そして索敵と引き寄せもできるようになるかもしれないし、ならないかもしれない。引き寄せはともかく索敵は切に欲しい。

「こりゃあ……アルシュの瘴気持ちには全滅してもらうしかないね」


 それからせっかく生えた浄化を戦闘では一切使わぬまま、ひたすら森とアルシュの屋台を往復する日々が続いた。

 眠るのは神域の横穴でいい、宿代がもったいなかった。今はその分を食費に当てて、ひたすら魔物の討伐を続けている。

 おそらく段階を追って技法が生えるのだろう。私はたぶん今も過去も変わらず、最初から《意思伝達》の技法を持っていて、一度死んでから《浄化》が生えた。そして《探査》が生えてからは討伐速度が大幅に向上し、町へ戻るのももったいないと感じるようになってしまった。

 《探査》。私がふわふわの索敵として使っていたものの本来の姿だろう。何やら色々できそうだが、現時点では魔物を魔石の種類で絞り込んで、瘴石持ちに限定して探せたり、人の位置が分かったりする。範囲はそれほど広くないが……今はそれでも十分過ぎた。

 身体から神力を飛ばしている感覚は全くないのだが……これはどういうことなんだろう。色々検証したいが、今は遊んでいる場合ではない。


 それから数日して生えたのが《転移》だった。おそらくこれが引き寄せの本来の姿なのだろうが……これは人前では絶対に見せられない。

 この世界において転移は禁術だと広く知られている。フロンの転移を知っているのはほんの数人と言っていたが、私は誰にも口を割るつもりはない。

 十手を引き寄せることはできたが、引き寄せで十手の元へは跳べなくなってしまった。ただの転移になる。

 あれはやはりゴリ押しに近かったのだろう。女神様と私の繋がりを利用した。

(──なら神力をばら撒くのはお止めなさいとか、そりゃないでしょうよ女神様。どうやって神域から出ろって言うんですか)

 神力が散らばらないように管理しなさいと頼んだのに、自分の後継者が最初から最後まで一貫して神力をばらまき続けたわけだ。保険を掛けていた女神様には先見の明がある。案の定私はやらかしまくって……早々に死んだのだから。


 西の瘴気溜まり近辺の瘴気持ちを狩り尽くし、泉の東の狩場から生き物が消え去った時分。

 ここでやっと、ようやっと《結界》と、ついでに次元箱が同時に生え、私は久し振りに宿に帰ってベッドで眠ることができた。

 その後追加で二日ほど森の瘴気持ちを探し回って屠殺していったが、数が少なかったためかこれで頭打ちなのか、何か新たな技法が生えるようなことはなかった。

 ただ神力は間違いなくこれで成長している。今後も見つけ次第瘴気持ちは潰していくべきだろう。


 《結界》。私の名もなき女神様の本質、本領だが、現時点ではそう大したことはできない。私の知識が足りていないのだ。

 私がこれまでに知り得た結界は三種。

 聖女ちゃんや結界石の『認識阻害』、王都外縁部に埋め込まれていた『魔物除け』、そしてエルフ謹製の『足場魔法』だ。

 今の私にできることは──移動しながら認識阻害を展開したり、物理障壁の足場魔法を魔法も防げるように改良して《結界》として行使したり、存在しうる全ての結界を解除できるであろうことが確信できたり。

(……悪どい使い方ができることは絶対にバレちゃいけない)

 次元箱は女神様の真の技法からはランクの落ちる物のようで、空気の心配をする必要がないのと、転移機能付きの魔法袋のように、中に入らなくても外から物を出し入れ可能になってる以外は機能にそれほど変わりはなさそう。

 容量はかつて使っていた次元箱の半分の半分もない、四畳程度だろう。物置と寝所とで併用するのは少しきつい。神格が上がれば容量が増えないだろうかと淡く期待をしている。

 内容物は、日本から着てきていた服を含めて一切合切が消失していた。


(うん、概ね過去の自分の機能は取り戻した……。身体強化とか女神様が十手から小手を破壊したアレとか、まだ分からないことはあるけど)

 身体強化の四種掛けはできない。浄化が《浄化》になったことで攻撃力はそれほど変わっていないと思うが、素の防御力がかなり落ちている。魔導服もないし。

 ふわふわは引っ込んでいるし、神力をばら撒くようなことにはならないはず。そろそろ移動を始めよう。



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