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第百九話

 

「聞いてもいいよ」

 ソファーにふんぞり返って言葉を待つ。

 浄化真石は安いものじゃない。その上需要が多く市場では取り合いになっている。供給があるからと言って手に入るとは限らない代物だ。

 私の首を縦に振らせることができれば、これを独占できる。安定供給可能だ。その為の転移は経費として扱ってもらうが、さてはて私は高いぞ? 一体どのような取引材料を──。

「私は魔力回復を促進する装飾品……魔導具を持っている。かなりの高品質だ。これを提供してもいい」

 即決しそうになった。反射的に首が縦に、身体が前に……落ち着け。リューンが笑っているところを見ると、彼女は知っていたみたいだな。私が欲しがっていると漏らしたのも彼女かもしれない。後でお仕置きだ。

「姉さんも知っているだろうが……高品質の迷宮産魔導具は、なぜかセット、二つ出てくることが多い。同時ではなかったり出てくる場所も違ったりするが、リューンと揃いで着けている顔の装飾品と魔導服……かなりの物だな? 私の魔導具もそういう類の物だ」

 それは置いといて、興味深い情報だ。確かにもしかしたら……と思ったことはある。兄弟姉妹や双子の神々、それにあやかったものだと考えていたが……高品質な物限定なのか。

「そしてこの手の魔導具は、二つ装着したからといって効果が重複するようなものでもなくてね。全てではないかもしれないが、私が持っているこれはそういう物なんだ。正直、提供することは惜しくない。折角揃っていたんだ、売りに出す気はなかったが、姉さんになら提供してもいい」


「リューンが言っていたエイフィスにいる知り合いって、フロンのことだったの?」

 魔力回復の魔導具に心当たりがあると以前パイトでリューンが言っていた。それのために彼女を数年売ろうかと本気で考えた。よかったねリューン、売られないで。

「エイフィス? ……ああ、奴か。残念ながら違う。そしてあんな玩具達と一緒にしないでくれ。言ったはずだ、私のこれはかなりの高品質だと。一割二割どころではないよ。魔力の器次第だが、実質的な使用可能量は倍以上になると考えてくれていい。何なら数日試してみるかい?」

 どの程度の代物か、計るのは簡単だ。枯らしてから十分に回復したと判断できるまでの時間を比較すればいい。そしてここまで自信満々に言うのであれば、倍以上になるというのも嘘ではないのだろう。正直滅茶苦茶欲しいのだが……何を要求されるんだ私は。

「──それで、私に何をさせたいの?」

「無理の無い範囲でゴーレムと、浄化真石……オーガレイスの魔石を集めて欲しい。無論送り迎えは私が請け負おう」

「期限は?」

「ゴーレムの方はもうそう大した量を必要としない。最初から合金化するつもりだったからな、予備を含めても十日分程度あれば十分だ。ただ、浄化真石はとにかく量が欲しいんだ。四十八層に一日一回向かって集まる数を、五百セットでどうだ?」

「一日に何度も足を運べば五百日はかからないと」

 一つ当たりパイトに卸していた三十八万として、幽霊大鬼の数を五十と想定すると……九十五億か。八十万換算なら二百億だ。この程度の拘束で切に欲していた魔力回復の魔導具が手に入るなら、正直お買い得だと思う。フロンにしても二万五千個の浄化真石を手に入れられる機会なんてそうそうないだろうし、これは互いに大いに利がある取引なんじゃないかな。

 オーガレイスがどの程度いるかは実際に一度殲滅してみないと分からないが、五十も六十も所要時間は大して変わらない。おまけに送迎付きで楽ちんだ。

「そうだ。他の階層……死層の物が実用に耐え得る物であればそれも数に入れてもらって構わないし、四十八層へ時間を置いて何度も出向いても構わない。それ以上の数が集まったらそれは現金で購入してもいいし、何らかの魔導具と引き換えにしてもいい」

「いいよ、それで手を打とう。浄化真石五百セットとおまけでゴーレムを十日分ね。それ以上については確約できないけど、覚えておくよ」

「そうか! そうかそうか……ああ、ありがとう! これでかなり目標が現実的になる。動力部の仕様も変更できるな……ああそうだ、これがその魔導具だ。効果は身に着けている間だけだ、覚えておいてくれ」

 そう言って魔法袋から取り出した小箱を渡される。中を開けてみると……なるほど。彼女が常に身に着けている飾り気のない銀色のネックレス。これがそうだったというわけだ。

「魔石はまだだけど、受け取ってしまっていいの?」

「構わないさ。姉さんは約束を違えないだろう。それならば、いつ渡しても同じことだ。毎日魔力を枯渇寸前まで消費して鍛錬をしているのは知っている、それは大いにその助けになるだろう」


 後日検証したところ、幽霊大鬼の数は約六十。おおよそ八時間程度の時間を置けば数が戻ると判明した。

 朝夕の二回を二百五十日分で三万個の浄化真石を集める。これが当面の私の仕事だ。


「でも話がまとまってよかったよ。結構お買い得だったんじゃない?」

 その夜リューンをお仕置きした後、ベッドで首元のネックレスを触りながらそう言われる。案の定というか、私がこれを欲していることを漏らしたのはこの駄エルフだった。そう漏れて困るものでもなかったけれど、もう少し慎重にとか、相談して欲しかったとか、思わないわけではない。

「まぁね。毎日行けるとも限らないから半年以上はかかるだろうけど……ずっと使える物だからね。魔力の消費をどうにかするのは本当に喫緊の課題だったから、何とかなる目処が立ったのは素直に嬉しいよ。ありがとうね」

 だがまぁ、このエルフが私のためを思ってくれて行動してくれたのは分かっている。私も別に怒っているわけではない。

 身に付けたい魔法も最近は色々と増えつつある。それが存在するかはまた別としても、格を上げていかねば今の私ではろくすっぽ術式を刻めない。際限なく格や器が育っていくとも思え──いや、どうだろう? 私はその辺の事情が普通の人とは少し違うわけだし。

 このネックレスでどの程度成長が促進されるかはまだ分からないけれど、ないよりはある方が絶対に良い。千年が五百年になるだけでも可能性は大きく広がる。保有できる術式の数、量が明確になれば、また考えることも増えるだろう。


 私は基本的に朝が早い。冬場は流石にベッドから出たくなくなるが、それでも日が昇る前には目が覚めることが多い。

 そしてフロンも朝が早く、リューンやリリウムは朝が弱い。そしてこの二人はフロンに弱い。

 したがって我が家の朝は早い。健康的でいいことだね。

 起床すると前衛組は一通り身体を動かし、リューンは家の掃除や洗濯といった家事を始める。リリウムは修行を兼ねて散歩に出掛けることが多く、その過程で食事を調達してくる。

 その間私はフロンの送迎で浄化真石を狩りに出掛け、私を迎えに来る頃にはおおよそお昼前といった頃合になる。

 特に用事がなければ四人で食事を取り、その後はそれぞれ迷宮に行ったり買い物に行ったり、休憩したりと自由。私は夕方の真石狩りに困らない程度に魔力を消費し、また狩りへと向かう。夕飯を食べて、後はお風呂に入ったりして一日が終わる。

 この生活はとにかく楽だ。家事や食事の調達を他の三人で済ませてくれるので、私は狩りや修練に集中できる。全くやらないわけではないけれど。

 リューンやフロンは余暇に魔導具を作ったり魔石や素材を加工したりして時間を潰していることが多い。居間の一角は工房のようになってきていて、フロンとリューンは最近はずっとこの辺りにいる。

 その手の生産的な活動が得意そうなドワーフとエルフのハーフであるリリウムは、お嬢的な見た目通りと言うべきか……。彼女は身体を動かす方が好みのようだ。

 彼女はやっと気力を使ったままの日常生活での擬態や気力の再展開にも慣れ始め、最近は以前ほどぴーぴー泣いたりはしなくなっている。格もだが、器の向上が目覚ましいと喜んでいた。


 エルフに囲まれていると時間の流れが穏やかだ。また冬がやってくる。



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