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王都はぐるりと石の壁に囲まれいてその中にすっぽり城下町が収まっている。当然王宮の近くの土地は高級地で外郭に近づくほど家賃はある程度安くなる。
しかしロンが借りているのはそのまたさらに外側の王国騎士の土地。どこに住んでるのだかわからない人たちのだいたいはどこかの騎士領地に一小屋借りている状態だ。基本的に農耕や牧畜、さもなくば騎士の屋敷に出入りして清掃などに従事している。ロンも今はその一人であった。
どうせ領主は顔を覚えていないし、とりあえずの仕事さえしていれば食いっぱぐれることはない。しかし、ここに来てロンの頭を悩ませていたのは金銭のことであった。
「今月に入ってからすごい勢いでなくなってる。」
領地の端っこのあばら家で、自前の丸椅子に腰掛けて、ロンは自分の帳簿を眺めていた。
「ロンは無駄遣いし過ぎなの。」
ミーティアはふわふわと空中に横たわっている。引っかかる場所もないのにどうやって寝ているのかは疑問だが、とにかく怨念としてはリラックスし過ぎな気がする。
「いやあのですね、ミーティア様…」ロンは訴えたい。
毎度毎度、魔女による“復讐”のおかげで必ずお金を払って逃げ出しているのだ。お金を払うときの意識、すなわち逃げ出すときの意識は完全にロンのもので、しでかしたことをすばやく認識して必要なお金をおいて逃げおおせる。
お金を落として逃げるので、大抵の従業員は一瞬気取られて判断が鈍る。おかげで顔を上げたときにはもうすでに見えなくなっている、という寸法である。
「店に対するいたずらばっかりなんですよ。」
「ロンはワタシのやり方に文句があるみたいね。」
ククク、と不敵に笑う。
「だけどこれが邪悪な魂による制裁なのよ。恨むならうかつにワタシの処刑場に立ち寄った自分にしときなさい。」
「…次の目標は決まってるんですか。」
次の邪悪な制裁もなるべく把握しておきたい。迷惑料を計算しやすいからだ。
「次ねえ…昨日のあの子に嫌がらせをしに行きましょうか!ワタシの恨みを…」
「違うでしょ!?」
「えっ…」
思わずロンは叫んでしまった。
「ミーティア様の私物が市場に流れているから流している人物を突き止めなくてはならない、そのためにあの子の協力は仰ぐべきですよ。」
「え、ええ…そうね。ワタシもそう思ってた。アイデアを先に言うなんて生意気なやつね。」




