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男はロンと名乗った。先ほどと打って変わって、いやまるで人が変わったかのように頭をかき自分がご迷惑をおかけしたのかもしれないと謝ってくる。
「えっ、じゃあ何も覚えてないの?!」
「はい。…時々あるんですこういうこと。」
釈然としない。あんなに喚き散らしておいて、ぶっ倒れて記憶がないなんて言われてはこちらの怒りのやり場もなくなるというものだ。コスモは顔をしかめた。
「でもなんで、ベッドに連れてきてくれたんですか?」
「放ったらかしにはできないでしょう?」
憲兵を呼ぶこともできたはずだ。とロンは言う。
「できればそうしたかったんだけどね」
取り扱っているのは競り落とした魔女の私物である。魔女の私物をめぐり男が錯乱した末に倒れた、なんてことが外に漏れたらますます客足が遠のくばかりか、最悪自分が人をおかしくする邪悪なものを売りつけていると疑いをかけられ捕まるかもしれない。
「勘違いしないでよね。これは自分の身を守るためなんだから」
ロンも重々承知しているようで、彼女の主張に対して深く頷いて応えた。
「今回のことはこれでお互い秘密にしておくってことにしてさっさと出ていって。それで終わり。」
コスモは吐き捨てるように言った。確かに口論になってはいたが、店に被害らしい被害がない。となると魔女の品物の件を無視したとして、例えば憲兵に訴えても厳重注意ですんでしまうだけ。ならばいっそお互い見なかったことにするのが最善である。
(今はまともに会話できそうだし…)
「ま、とにかくあれはシラフじゃなかったってことにしておくよ、おっさん。」
「いや、待って」ロンがハッと向き直った。
「そんなに年取ってないですよ?むしろあなたより少し年上ぐらいな感じで…」
ロンは成人を迎えて五年目だといった。
「じゃあ私から見たら十分おじさんよ。」
その言葉がロンにはずいぶんとショックだったらしい。いや、そんなはずは、と頭を抱えている。
その時なにか思い出したのか、ロンはサッと頭を上げた。
「そうだ、ちょっと聞きたいことが…」
「ええ…?」
おもわず声に出てしまった。勘弁してほしい。ただでさえ早いとこ出て行ってほしいのだ。それに時々何もないところに視線を送っているのが不安を確信へと変える。
(こいつ絶対やばいやつだ…)
「これは大事なことなんです、迷惑でしょうが、答えていただけませんか。」
コスモの気分は察しているらしい。
「あの品、ミーティアさ…魔女の品物は一体どうやって手に入れたんですか?」
「いや、いきなり錯乱して自分のだ!とか言った人に教えられるわけ無いでしょ」
一蹴してやった。




