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自分が出会ったから。ロンはそう言って笑っている。驚くほど単純な理由で、腑に落ちない点も多々あるが真意を誤魔化そうとしていないことだけは確かであった。
「ロンは全体的に言葉足らずなんだよ」
ミーティアは苦笑いで返した。
彼と付き合ってきてよくわかった。今だって従うに値する具体的な理由を聞いたつもりが、トンチのような答え方をされてしまった。
だがゆっくり一つ一つ聞いていけばいい。彼が何を考えているのか、欠けた穴を埋めるように彼と話し合えばいいのだ。
ミーティアの眉からふっと力が抜けて穏やかな表情に戻った。
「俺からも一ついいでしょうか」
「なァに、ロン」
ミーティアが少し体を横に向ける。腕を組んで落ち着いた余裕っぷりを醸し出す。
「ミーティア様はなぜ俺をしもべにしているんですか」
いつもミーティアは言っている。魔女に魅入られてしまった者の定めだと。
「…んん…」
「文句の一つや二つ、言いたいこともありますが…さっきも言った通り、俺はミーティア様の力になりたいんです」
「…んんん」
唇を固く結び、チラチラと横目でロンの視線をうかがってきた。相変わらずまっすぐ注ぐロンの視線にいくらか気恥ずかしくなったのか、ミーティアはプイっと顔をそむけて背中を見せてしまった。
「…だから」か細い声が漂ってくる。
「え?」
ロンが耳を傾けたときミーティアが振り返った。
「しもべはとやかく考える必要なんてないんだから!ワタシにこれからもそうやって従ってればいいの!」
絶対先程のつぶやきとは言い換えている。ロンは直感したが、これ以上は追求できない。
(まあ、これから少しずつ聞いていけばいいよな…)
ロンの目に映る、少し偉そうな魔女の笑顔。
「わかりました、ミーティア様。ここからの計画はミーティア様にお任せいたします」
そう言ってロンは頭を垂れる。ふんぞり返った丁度真ん中に彼の傷跡が見えた。ミーティアはその傷にそっと触れた。
昨夜も潜り込んだ、会場の傍、草木が生い茂る丘に二人は身を潜めた。ロンが地図を取り出しミーティアが中を覗き込む。
「ロン、その地図燃やしてみてよ」
「…なるほど、やってみましょう」
昼間なら火の明かりはそこまで目立たない。カチカチと手際よく火打ち石を打ち鳴らして紙の端に火花が落ちた。息を吹きかけ、火の勢いを強める。少し大きくなってきたところで、燃焼部を下に向けて火を上らせる。じっくり燃えていく火を二人で見つめていた。
やがて広場の方から歓声があがる。いよいよ花見の会の開幕のようだ。
「ロン、ロン」
彼の方を叩いて会場の端の一点を指さした。
「あそこのあたりに潜んでて」
騎士たちの壁が薄い一角。なるほど、このボロ布が活かせそうだ。何しろおおよそ人が着る服には見えないのだから、ある程度の迷彩効果は持っているだろう。
「あそこでどうしていればいいんですか?」
「合図を待つの」
「…わかりました」
まだ具体的に何が起こるかはわからない。それでもロンは潜むように茂みの中をコソコソ歩いていった。
ロンの背中が草花で見えなくなった頃、ミーティアは灰になった地図に手を突っこんだ。何やらかき混ぜるような仕草をしたと思っていたら、手を引き抜く。その手にはミーティア用の地図が握られていた。




