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花見の会場は当然ながら例年よりも賑わっていた。一般客と、申込者、そして王族が一堂に会す、たいへん大きな宴である。流石にそれぞれの間には気安く近づけないよう柵などで隔たりが設けられている。
コスモと父親は申込者の席にいた。父親がこっそり事前に申し込んでいたらしい。
「父に花見へ行こうと誘われててね…」
彼女にとって父がそういうことを言い出すのは珍しく、断るに断れない雰囲気だったらしい。
そしてコスモが申し訳なさそうにしていた理由がもう一つ。
「…会場はどうやってぶち壊すんですか」
ミーティアたちが暴れづらくなるかもしれないという思いからだった。案の定ミーティアはコスモと別れた後、腕を組み悩んでいた。
「…計画はやめにして、俺たちも普通に花見の会に加わりますか?」
「それは…やだ」
口を尖らせる。確かに復讐計画を別の機会に回して、十日前最初に提案したように花見をするだけの選択肢がないわけではない。
「ミーティア様」ロンは焼けたボロボロの服を正してピシッと彼女と向かい合う。
「俺は、あなたの無念を晴らしたい。晴らしたいのですが、これまで行ってきたことといえばせいぜいイタズラぐらいで、ようやくオークション会場を潰したのが復讐の第一歩でした」
「これが二歩目なんだもん…」
子どものようにうつむく。
「わかっていますよ、王室に一泡吹かせてやれるかもしれないですからね」
「でしょ?だから、やる。コスモにはちょっぴり申し訳ないけど、顔見せたんだからわかってもらえるよね」
二人で並んで会場へと歩き続ける。開場までもう間もなく。行列はかつてないほど長かった。みな身なりよく、富める者も持たざる者も張り切っている。ロンがこの中に紛れるとすると、おそらく一帯は騒然となってしまうだろう。だがミーティアの目指す騒動はそれではない。
「…教えていただいていいですか?」
「うーん…これは、なんていうか。一人でやりたくて」
「計画の内容ではなく」
「え?」
ピタリとまつげの揺れすら止まってしまう。それほど予想だにしない発言であった。
「あの販売会のボヤ騒ぎのあとからずっと今まで、そうやって俺に詳しい話をしてくれないじゃないですか」
ロンの目はまっすぐ向いていた。ただ蚊帳の外にされたという不満、などではなく、純粋な頼ってほしいという気持ちがこもっていた。
「それは…」
「俺は、魔女のしもべなのでしょう。ならばちゃんと骨の髄まで使うべきです」
「本屋とか、揚物屋とかちょっと迷惑がってたし…」
「でもミーティア様に逆らったことはないですよ」
ロンはいつだって何でもやってくれていた。確かにぶーぶー文句を垂れることもあるが、基本的にミーティアが傷つかない範囲でしかしない。
「…」
黙り込むミーティア。
「教えてください」ロンは片膝を付きその頭を垂れた。
「俺はミーティア様のために地獄に落ちるのもいといません。俺の積極的な協力を必要としないのはなぜですか」
ミーティアは彼の頭頂部を眺めた。幾度となく入り込んだ入り口だが、この頃は全く使用しようと気すら起こらなかった。ようやく血が止まり、包帯を外せた頭。あの日の、あの裏切り者のセーラが無茶苦茶に踏んだときの傷がまだ赤黒いかさぶたとなって残っていた。




