1'-9
王都の南西に位置する王立図書館は街に住む一般市民にも開放されているが、隣の学問所に通う生徒たちが専らの利用客である。
この図書館には歴史や政治経済、天文、占術など様々なジャンルが取り揃えられているが閉架式なので借りる本は、カウンターの司書に話しかけることど借りられ、外に持ち出すことはできない。ちなみに最近の新作として 『魔女に与えた鉄槌』はここでも閲覧可能である。
勉学に励むものは地下の書庫の方に籠もっており、入り口からカウンターのある一階にいるのは昼間からクダを巻いている怠け者と、一休みする者と、掲示板の写しがここにもあるのでそれをタダで読む者とがポツポツと思い思いの場所で過ごしている。
ロンはミーティアとともにこのアンニュイな空気がこもる空間に来ていた。
「ここ出禁になったら何かと不便なので本へのイタズラはちょっとでお願いしますね」
「子どもみたいに言わないでよ…」
そうは言っても、ミーティアの細い腕は書見台のあの本へと伸びていて、今にも叩き落としたり壊したりしてやろうという意思が垣間見える。
「俺は必要そうな本を探してきます」
「はいはい」
二人がここに来た理由は一つ。噂を定着させるのに必要な信憑性を持たせるための材料集めだ。理由があれば説得力が増す。説得力があればたとえ嘘かもしれないと疑っていても、心の何処かで気にしてしまうのが人間である。
「これを閲覧したいのですが」
そういって必要な本のタイトルが書かれた貸出シートをカウンターに提出する。少し釣り目の細い一筋の白髪が通っている女性に手振りで案内された。
「かしこまりました。お呼びするまであちらでお待ちください」
ロンはおとなしく席について待つ。
するとどこかへ行っていたミーティアが下から飛び出してくる。
「やってやった」
と少し興奮気味である。
「一応聞いておきますが、良いことではないですよね」
「もちろん」ポンと胸を打った。
「悪いことよ」
堂々としたものである。
図書館の地下書庫に入れるのは政治家とか、文官を志す学生さんたちとその教師、そして王宮に仕えている者達である。
「あいつ、山のように本を積んでたから横から突付いてやったの」
その突かれたアンバランスな本の塔を思い浮かべてロンも少しニヤけてしまった。ミーティアは物に触れるようになってからイタズラに幅が出来たのが嬉しそうである。
「その人は宮仕えしていた人なんですか?」
「そうだけど?」
国の重要な位置にいたミーティアが言うならそうなのだろう。
「…なら問題ないですね」
「でしょ」
ミーティアは笑った。
「え、こちら、ロンズ様、ロンズ・デイライト様」
見えているだろうにまるで探しているような素振りでロンを呼びつける女性司書。彼がブツブツなにか喋っているのは知っていたが、まあ、一階部分でグダグダしている人も朝から酔っ払っていたりするわけだし、そんな客の対応はなれたものだ。暴れない限り放っておくに限る。
ロンは両手にこの国の歴史書を抱えて自習室に向かって行った。




