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服を仕立てて欲しいのだが、とある問題に直面する。ミーティアの体にフィットしたもの、となるとその体を用意することができない。
「うーん、取り憑いてから測ってもらいます?」
「……なんで?」
「………まあそうですよね」
ロンの体に合わせて作ったのだとしたら、その服はロンのものだ。それでは意味がない。
デザインのカタログをロンが一枚一枚確認していく。
「あ、これ結構似合いそう」
ミーティアが肩越しに指をさす。男性モノの流行りの服装。ビロビロと長い裾の服はもはや時代遅れで、商人たち然り、いまは下はタイツの上着はすっぽり着れる袖無しが主流。
しかしロンは首を傾げた。
「これですか?」
「ええ…なに?嫌なの?」
「いえ、ミーティア様が良いと言うなら特に問題はないのですが」
「ワタシは気に入ったものは、悪い、というの。何度も言わせないでよ」
悪霊ならではの執着心だろうか。ロンは改めて聞いた。
「ミーティア様、これは“悪い”ですか?」
するとミーティアはしっかりと答えた。
「うん、とっても悪い」
ミーティアが歯を見せて笑う。
ロンがオーダーをすると店の人がなんだか嫌そうな表情をしたのだが、どうせミーティアのことは見えていなかった故の反応である。ロンは別段構う必要はないと判断する。
それでも頼まれると即座に採寸に入る職人気質の店員さんだ。メジャーを持ってロンの腕、腕周り、胴、腰、胴の長さ…と一つ一つ計測していく。
「俺の体型でいいんですか?」
ロンは少し上を見た。その場所にはミーティアがいる。
「当たり前じゃん」
「そうですか?」
そう彼女が言うのでロンもそれ以上は気にせず測られ続けた。
「仕上がりはいつ頃になります?」
とロンは次の行く場所をぼんやり考えながら仕立て屋さんに聞いた。
「十日後ですね」
「…えっ、十日?」
ロンが意外そうな表情をする。
「はい、それ以上早く仕上げるのは無理です。」
仕立て屋さんは毅然とした態度で答える。むしろそれで反発しようものなら、追い出す口実ができるのでそこに若干の期待をしているようだ。
「…いえ、それでいいです」
ロンは素直に答えて前金を払った。
「まさか日をまたぐとは…」
店を出たあと、ロンがぽかんとしたままそういった。そんなことをいうのでミーティアも驚く。
「まさか、ロン。今日出来上がると思ってたの?」
ロンは黙って頷く。
ミーティアは思わず吹き出した。
「そんなことも知らないの、服を買うのは初めて?ングフッ…」
もう一度黙って頷かれる。
「なんだ、ロンも結構世間知らずなのね」
今日買ってプレゼントするつもりだったのに。ロンはポケットにいれていた火打ち石を握った。
「……とすると、どうしましょう。十日後までやることがありません」
ミーティアは口をへに曲げて上を向いた。ロンが彼女の表情が変わるのを眺めていると、パッと目が明るくなる。
「せっかく買ったんだからお披露目しよう。コスモも呼んでね」
「なるほど、それは悪い考えです」
「そうだ、アジャリヶ丘のセバフロックスがちょうど見頃だったよね。」
確かに少し前の掲示板で大見出しになっていた。しかし、ロンは思い出したように首を振る。
「あ、ミーティア様、残念ですがダメです。その日は王室が花見の会を行う日です。事前申し込みした参加者以外参加できません」
ミーティアはムッとした。参加申込の期日はもう過ぎてしまっている。これはどうしようもない。
「いえ、ロン…」だがミーティアは諦めない。
「悪いこと思いついたわ」いたずら好きな笑顔を浮かべる。
「ワタシたちで花見を独占してやろう!」