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しっとりとした少し肌寒い店内。この店の元主も骨董品の管理は湿度が大切だと言っていた。毎日ホコリをかぶらないように手入れをし、日光による表面の変色を防ぐ。
それらを二代目は欠かしたことがないのだが、いかんせん客足が先代よりも遠のいていた。固定客を逃したのも痛い。
「退屈。」
二代目の先代の娘、コスモはカウンターの中にあるチェアに腰掛けてゆっくりこの間買った本を開いていた。『魔女に与えた鉄槌』。発売即重版だったらしくこの間2刷目がようやく書店に入った。
「だいたい掲示板の情報が遅いのよね。」
週一の掲示板では初版の発売が伝わるのにラグが生じる。掲示板が変わる日に必ず広場に向かって情報収集するので発売3日後に最新情報か来られても困る。
(というか、前もって発売の予告をしてくれればよかったのに。)
欲しかった本なのだがいざ読む段階となると余計なことが頭に浮かんで集中できない。
さらに、ベルがなった。
「――ッあ、いらっしゃい……。」
入り口の戸を開けるとドアの上部についたベルが揺れて勝手に打たれるという単純な仕組み。
入ってきたのは、この店ではあまり見ない男で、なぜだかすでにニヤニヤ笑っていて、あまりいい感じはしなかった。コスモは接客のやる気も起きず、そのまま開いた本に目を落とした。
ふんふんと一つ一つ品物を不躾に眺める。店の正面の方にあるのはだいたい先代の父が自慢の目利きで集めてきた骨董品で、これが売れるおかげでなんとか店を続けられている。
二代目にあたる娘のコスモにはその才能が引き継がれなかったので、彼女が仕入れてきたものはだいたい売れ残る。というか品物の価値よりもまず自分の趣味に合うかを優先するせいで売れない、儲けがない、客足が遠のく。だが原因はわかっていても直す気がなかった。
この店に似つかわしくない男が値踏みしながらジロジロ品物を眺めて店内を徘徊している。
(出てってくれないかなぁ…)
今は買ったばかりの本を読みたい。気を散らしながら読むとまったく楽しめないので、このタイミングの接客は御免であった。
しばらく黙って様子を眺める。
すると、男はある品物の前で立ち止まった。
「…これは!」
反対側にいるコスモまでよく通る声で驚く男。
「あっ、ちょっと!」
許可を得ないままいきなり品物に手を伸ばし素手で触れてしまいそうだ。コスモは体格差に臆することなくその手を払った。
それはこの間コスモが競り落とした品物。その出自から誰も買いたがらなかったのが幸いして比較的安価で手に入れることができた。
「ちょっとお客さん、気にいるのは一向に構わないけど、触らないでもらえませんかね?!」
ハタキでササッと骨董品に降りかかるホコリを払う。大事な品物が無事かどうかくまなくチェックしていると思いがけないセリフが男から発せられた。
「これ、ワタシのなんだけど!!何してくれてんの!?」