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「ほ、本当にミーティア様の作戦なの…?」
「なかなか悪いアイデアでしょう?」
「…最悪だよ…」
コスモが棒を構えたまま肩で息をしている。これは危ないと、叩かれる彼の中に大急ぎで、呪詛を唱えてミーティアが入った。唱えるのには集中した方が良いので十数回、そこそこ殴られてしまったが。
「そうでしょうそうでしょう」
「最悪」を最大級の誉め言葉ととらえる悪霊のミーティア。
この作戦は、女性らしいフワフワのスカートの中に、ロンに憑依したミーティアが入り込み会場内に侵入する、というもの。男性が嫌がる女性のスカートをめくるのは誰からどう見てもアウト。それゆえ例え販売会の会場でコスモが少し不審だったとしてもスカートに手をかけるという行為は誰もできないはずである。
「完璧に邪悪な侵入方法だと思うんだよね」
「うう…」
ミーティアはコスモの渋い表情にようやく気づいた。
「…?コスモ、何かヤなことがあるの?」
ロンが自分に賛同しない時とは違い、コスモにはいたわるように言葉を投げかける。
「だって…その、男性を股…足の下に迎え入れるのは…」
「入るのはワタシだから!」
「背的にも…」
「ギリギリ誤魔化せるぐらい!ロンとチェック済みだから平気よ」
この二人は衣料品の店でスカートの下に隠れるなんてそんな変な動きをしてたんだろうか。その時の接客をしていた店員さんがいたたまれない。
「だからコスモは安心して!」
とロンの顔でウインクして親指を立てるが、そのロンの顔だからこそコスモにも受け入れがたいことがある。
コスモは頭を押さえて少し前かがみになった。乙女のプライドとミーティアとの関係で悩んでいるといったところだ。もっと他に策はなかったのか、それ内の猶予はあったはずだが、こんなに頭の悪い結果になるとは思っていなかった。販売会までもう時間がない、コスモが出した答えは…もう明白であった。
今夜は新月である。いつもよりも人が夜の影に溶け込むので、ときどき街灯のそばを歩く男女を見かけると少し安心する。街灯、と言っても警邏をしている衛兵たちが今日のような日は街の端々まで回って灯したかがり火ぐらいであるが。しかし、その数は多く、大通りなどは一見火事かと見紛うほど赤々と燃えている。
王城の見晴らし塔の一角からは街の様子がよく見えた。
「マム、そろそろ」
ほんの少し前まで、彼女はただの召使いの一人であった。
もともと人に取り入るのがうまく、中でも誰が力を持っているかを見抜く力が強い。王都において権力者はもちろん王、といいたいところだが国には国の事情がある。重要人物に近づくついでに王室お抱えの占術師にかわいがってもらえたは僥倖であった。
「副収入って最高…」
そんなことをつぶやき、夜の街に別れを告げる。のしのしとらせんの階段を下りていく、彼女は”雄牛”のセーラ。
見てくれはよくないが、この会場に現れただけで金持ちが色めき立つのが見てわかる。まるで恋する乙女のように大の大人がきゃあきゃあと声を上げて、期待に満ちた眼差しで彼女を見上げる。セーラは優越感に浸りながら会場を見渡した。
その中に彼女の天敵がいたことを全てが終わった後で知ることになる。




