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ドスドスと木の床を踏み鳴らして怒った様子の男が近づいてくる。
「なんだァ?」
酔っぱらいは、それだけでもう水を差された気分になり顔をおもいっきりしかめた。それでも手を止めようとはしない。
「貸して」
男は店員から金属製のトレイを受け取る。おじさんは何をするのかジロジロとその青年を眺めた。周りの客は男の持つ異様な雰囲気に気圧されたのか一歩下がる。
酔っ払いが身を乗り出す。
「…なんか文句でもっ…ンバッ!!」
ガン、と鋭い音が店の隅まで響く。
トレイの底がきれいなカーブを描いて凹んでいた。
おじさんはクラクラと頭を回しその場合に倒れてしまった。続いて低い呻き声がしたのでひとまず安心。
男はピクピク痙攣するおじさんを一瞥しホコリを払った。
「ご馳走様」
トレイを裏返し、クレーターのようになったくぼみの真ん中に食事代と銀貨三枚を添えて店員の彼女に手渡す。
「えっ?あ…」
無言でさっそうと立ち去る男。他の酔っ払いたちも彼が通り過ぎるまで小動物のように声を潜めていた。
「…ありがとうございました!」
助けたことか食事したことか、どちらのことに対して言ったかはわからない。男はそのまま夜の街に消えて行った。
「…で、ロン。君はその人をそのままにしてたのかい」
あくる朝、早速憲兵を引き連れた騎士に呼び止められて事情聴取を受けているロン。
「まあ、酒の場だからねェ」
と少し小太りの憲兵さんが顎を擦る。あの後、目覚めたおじさんが怒って憲兵に訴えたらしい。
「話聞く限り悪いのはその人だからな…」
憲兵を連れてきた騎士もロンに同情的である。おじさんの訴えではとにかく、自分のやったことは隠されていて、ロンが殴ってきたという旨だけが伝えられていたようだ。
「だが手を出したのは君の方だね?」
「はい…」
「ううーん…簡単なのはお金払って示談にしちゃうことなんだけど…」
「は?なんでよ!?あのエロジジーが全部いけないんじゃん!」
誰にも見られていなくて聞こえていないミーティアが憤慨する。もちろん、おじさんを殴ったのは彼女であるが、実行犯はロンである。そして今回の騒ぎは、ロンとしてもミーティアは間違っていないと考えている。先に手を出したのが悪かった。




