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“雄牛”のセーラはその二つ名の示す通り、牛のような巨体と引き締まった筋肉を持ち合わせる肝っ玉の持ち主である。彼女は常に笑顔でミーティアに従事し、何か一つやり遂げたことがあるとこんなことを言うのであった。
「ミーティア様、差し出がましいようですが…」
いつもはいらないほどぺちゃくちゃしゃべる彼女が、この時は必ず最後までは語らず自嘲しながら相手の顔色をうかがうのだ。
そして普段の彼女の働きっぷりを理解していたミーティアは、そんな彼女に仕事の報酬に加え、親愛の証として贈り物をしていたのである。
「あンの恩知らずめ…!」
ミーティアは、コスモから聞かされその頃のことを思い出したのか怒り心頭である。悔しそうに肩を強張らせ歯ぎしりをする。
「たしかにこの店にも彼女にあげたものがあった…」
「うわ…」
「でもいくつか数持ってたからすぐには気づかなかったよ…しかも手鏡はあげた覚えないし」
いつの間にか少し値段の挙げられている(ギャリオン金貨五枚のところが八枚になっていた)手鏡を悲しそうに見つめるロン。いや、その中のミーティア。
「なるほど、つまりセーラはちょっとずつ集めていたミーティア様からの賜り物を全部お金にしていたと。……あれ?」
コスモが何か思い出したのか、不思議そうな顔をする。ちらちらとロンの顔を伺いなにか言いづらそうな顔をする。
「コスモ、何かあるの?」
「いや、なんというか…うーん」
「ロンには聞こえてないから言っていいよ」
手をひらひらさせてコスモに対しては自信の余裕っぷりを披露する。
「…ミーティア様って、その」
歯切れが悪い。だがミーティアはまだニコニコして相手の話を聞こうと悠然と構える。
「セーラに服とかあげたこと…ある?」
ぽかんと口が開いた。ミーティアは目をぱちくりとさせて一瞬止まった。
「え、あげたことないけど…」
同性と言えどまず体格が違いすぎる。自分のお下がりなどもらっても喜ばないだろうことはわかっていたので渡したことはなかった。
「…そっかァ……」
コスモは沈痛な面持ち。
「……に、濁さないで…ちゃんと話して」
その後の展開を想像すると恐ろしいが、ここまできたら聞かざるを得ない。
「つまり、えと…販売会の一番の目玉がね、なんていうか、高貴な人の衣類なわけで…えー、まあ…それが一番高値で取引されてて」
コスモが言葉を選びながら途切れ途切れに伝えていくと、それに合わせてミーティアがみるみる青ざめていく。
「み、みんなコスモみたいに女の子だよね!?」
コスモの渋い表情がすべてを物語る。
「…ぐぐぐ、アキンドどもめ…」
「いや、その…あまりにも高くて普通の人は買えないの…」
「嫌ァ!!うそ!?ウソウソ!!」
これ以上は酷である。商人よりもコレクターの金持ちのおじさんに着用済みの衣類が売られているという事実は何遍でも死ねる。
「でも大丈夫!」
だが、コスモは立ち上がってロンの手を取る。
「?」もう半べそのミーティアがコスモと目を合わせる。
「私が全部買い取るから!買い取ってみせる!」
「コスモ…!」
ミーティアはロンのゴツゴツした手でコスモの柔らかな手を握り返す。
「ごめんね、初めて来た時あんなこと言って」
「いいよ、ミーティア様だってわかってたらもっと私も対応違ってたし」
少女たちは言葉を交わし固くつながったのであった。




