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その後も、何度か試してみた。直接会話するためと憑依する感覚を正確にするためににミーティアがロンの中を出たり入ったりする。その往復をする度にロンの意識が途切れる。
結果ーー
「今はミーティア様が入っているの?」
「いや、今は完全に俺の感覚だけど…」
「じゃその顔に手を当ててくねくねするのやめてよ!」
ロンが若干女性っぽくなった。
一通りできそうな事は試してみたが、ついにミーティアがコスモの中に入ることはできなかった。
「うーんどうしてだろう…」
「考えられるのは」ロンの口を借りてミーティアがしゃべる。
「コスモはロンほどアホじゃないから、ってとこかな」
「…ロンさんってアホなの?」
本人が聞いていないからといえど言いたい放題である。
「そ、無警戒すぎて取り憑くのも楽勝だったし…初めて取り憑いた日はもう爆笑だったわ。知らないうちに知らないところに移動してて…なぜだか周りの人に怒られているんだもの。城の兵士たちに追いつめられてたところで意識を返してあげたから軽くパニックを起こしてたの」
ケラケラ笑って少し遠目がちになって懐かしむ。
なかなか悪霊らしいことをする。今そんなつもりは毛頭ないが、商人として彼女の不興を買わないことをコスモは胸に誓った。
「でもなんとかしてコスモの中に入らないとな」
ミーティアは腕を組んだ。
「私だけでも買い占めることぐらいならできるけど、出品者に制裁を加えるとなると憑依は必須…」
「ああ、そうそう」
ミーティアが思い出したように手を打つ。
「その出品者って誰?もう教えてくれてもいいと思うけど」
そもそも内密に行われている『王室公認販売会』である。おおっぴらにするには少し後ろ暗い点が多い。そもそも本当に王室が公認してるかも怪しい。宰相の印はあるが彼は政治家だ。王家の者ではない。
だが、ミーティアに味方をすると決めた以上はコスモもその者のことを教えるほかなかった。
「セーラと言って王宮で侍女をしているものです」
「はァッ?!」
ミーティアは荒ぶった。
口をあんぐりと開けて、わなわな震えながらコスモに指をさす。
「セーラって、あの…雄牛のセーラ?!」
「え、そうなのかな。とりあえずすごく体がおっきくくて目がギョロっとしてて…」
「浅黒くて筋肉質…!あいつッ…!!」
ミーティアはロンの体を震わして全身で怒りを表した。