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腑に落ちない点を多々残しつつも、変な喋り方になったロンをミーティアとして扱うことにする。
「ま、とにかく、コスモって言ったっけ?あなたもワタシの秘密を知ったからにはもう逃れられないから」
ミーティアが鼻を鳴らして少しあごを上げる。
「逃げられないって言ったって…」
「まだ、反抗する心が残っているようね…だけど無理。じきにコスモもロンと同じようにワタシに運命を縛られることになるよ」
くっくっく、と今度はあごを引いて悪魔的な笑いを見せてきた。確かに大の男の表情がコロコロ変わるので怖いといえば怖いのだが、それは別の怖さだ。
「そうじゃなくて」ため息を吐き出す。
「説明。どうして占い師ミーティアの霊はその男の人と会話ができるのかを教えてよ」
ミーティアはキョトンとする。さらには
「…わかんない」
とそっけなく返事をした。
「じゃ、なんでその男の人だけには見えるの?」
ミーティアは腕を組んで頬に手を当てた。人差し指でかいて、少し間を置く。
「……たぶん魔術の抵抗力が弱いの、ロンは」
「…ええ?」
呆れたコスモはテーブルに突っ伏す。
「じゃあ、幽霊は魔術によって作られたってこと?」
「違うと思うけど」
「なんでよー!」
そのままバタンと机に倒れた。幽霊が魔術による産物だとしたらそれはそれで新しいオカルト情報である。だがミーティアの答えは歯切れが悪いので、ますます疑いのほうが大きくなる。
「なんで生まれたのかもわからないの?」
「まあ、そう。気がついたら意識があった感じ」
目を見れば嘘をついていないのはわかるがはぐらかされているようで段々とイライラしてくる。
「その人と交信できる理由も謎、生まれたことも謎、とにかく私物の流通先を突き止めたい…はァ!」
強く、あからさまなため息をついてみせる。ミーティアはビクッと震えた。
「わがまますぎて話にならない。あなたが本当にミーティアの霊だとしても、なにか私に利益があるとは思えない」
少し早口で、思っていることをストレートに伝えてしまう。
「その男の人に頼ればいいじゃない?幸い、自分のことも何一つわかってないんだから」
相手は怨念らしいので、どれだけ傷つこうが構わないと思っていた。突き放して、二度と関わりたくない、という意志を示す。
だが、目を伏せてしおらしくうつむく男の姿がコスモの視界に映った。
「……」
「そ、そんな顔したって…」
「わからないの…」
こざっぱりした短髪と剣を振るうためのしっかりした腕がかすかに震えた。
「だって…ワタシ…いつもみたいにお告げの通りに、ワタシの役割だからやってただけなのに…腕を縛られて…棒で、な、殴られて…誰も助けてくれなくて……っ…」
目の前の自分より年上の青年がまるで何も知らぬ乙女のように瞳を濡らす。
「そんなこと…してないのに……っ…誰もいない牢屋に閉じ込められて…何日も……何日も…………」
男の言葉がつまった。




