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ドアベルが乱暴に鳴り響き、ヅカヅカと男が乗り込んできた。
「ひゃっ?!」
店主のコスモは当然驚く。見るとこの間の男が笑いながら入ってきたではないか。もはや恐怖しかない。だが、ここは自分の店だ。コスモはキッと相手を睨みつけゆっくり立ち上がった。防犯のための握りやすい棒もカウンターに忍ばせている。その柄に手を起きながらコスモは怒った。
「あの、今日はもう閉店してるんだけど」
「カギかかってなかったから」
(無かったら入ってくんのかい!)
相手の思考はすごく面倒なお客さんである。
「…まあ待ちなさい」
男はまたカマっぽい口調でしゃべる。時折口角をニヤッと持ち上げ、落ち着くように手のひらをパタパタと上下させる。
「ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」コスモもだいたい察しがついている。「品の出処なら絶対言いませんから」
毅然とした態度でチン入者と対峙する。舐められてたまるかという意地があった。
「いや、そうでなくてェ…」
男の方もでかい態度を改めることなくまたしてもニヤニヤと勿体つけてしゃべる。
「『王室公認販売会』についてね。訊きたいことがあるの」
「えっ…!?」
コスモはとっさに暖炉に目を向けた。手紙が炎に勢いを与えている。この男が入ってきたのはつい先程。コスモは困惑する。ただ、その表情のせいでコスモがその販売会について知っていると相手に伝わってしまった。
「さあ、知っていることを教えなさい」
俄然勢いをます男の尊大さ。しかしコスモは折れなかった。
「メリットがないわ」
こちとら商売人だぞという意志の表れである。不利になろうともリターンは必ず狙う。手には棒を取り、牙を向き臨戦態勢である。魔女の品を扱っていることで憲兵のもとへ駆け込まれようと、どう考えても怪しいのはこの男の方である。品は正当に買い取ったものだ。盗品などは一つもない。
「…いいのよ、ここにあるあの鏡とか、クシとか、ネックレスとか、帯紐とか全部本当はワタシの物なんだから持ってかせてもらっても」
男は、陳列棚にこっそり忍ばせている魔女ミーティアの逸品を的確に言い当てていく。
(……こいつ、やっぱり…相当なマニアね…!)
毎度「ワタシの」には腹が立つが目利きとしては間違いない。同じミーティアフリークとしてはこの出会いは本来なら喜ばしいものだった。
「盗もうものなら、容赦しない」
少女らしからぬ物騒な発言。お互い全く譲ろうとする様子がない。カウンターを挟んで無言のにらみ合いが続いた。
先に口を開いたのはコスモだった。
「…もしかして、同業者?」
それなら目利きについても、コスモの品物を奪おうとする態度についても、『王室公認販売会』の噂についても知っていておかしくはない。
今回の開催に呼ばれていない、という可能性が考えられた。違反者や悪質な買い手は取引所への出禁を食らってしまう。意味のわからない“ワタシの”という発言も、競り負けたからこういう失礼なことを言うのだ、と言えそうだった。
だが帰ってきた返事は
「違う」
と一言だった。
「あなたさっきメリットがどうのとか言ってたよね。なら、間違いなくメリットになることがあるの」
「話だけ聞かせて」
そう言われてはとりあえず聞いて見る他ない。
そういうコスモに対して男はふふん、と鼻で笑いながら彼女を見た。
「ワタシの秘密を教えてあげる」
「っ興味ないわ!!」
思わず声を上げてしまった。オカマのことを知りたいなどいつ誰が言ったのか。
「えっ、待って結構すごい話なの。本当。え、知りたくない?」
「自身がすごいっていう話で本当にすごかったことなんてないよ」
「いやいや、あのね…」
珍しく慌てる男。ミーティアはどかっと丸椅子に腰掛けた。
「どうぞ、お引き取りを」
座った瞳で口元に笑みをたたえながら手のひらを、出口を案内するように差し出した。
「ああ、もう!これじゃ埒が明かないっ!チェンジ!チェンジ!!」
男が急に頭をかきむしり、急にガクッと膝が落ちた。
「また倒れないでよ!?」
コスモが慌てて立ち上がると、再び男と目があった。
「…すみません。迷惑をかけたと思いますが、我々はあなたの協力を必要としているのです」
柔和な、これまた体つきからは想像できない、心のある穏やかな男性の声が聞こえてきた。
「俺はロン。『王室公認販売会』について伺いたいことがあるのです。」
青年はロンと名乗った。