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9話

模擬戦が終わり、再び集められた面々はそのまま受付嬢の指示に従って各自解散ということになったのだが、


「申し訳なかったであります」

「ごめんなさい」

今俺の目の前には何故か謝罪をするオーディルと勇者セイラがいた。


帰ろうとしたら受付嬢に引き止められギルドの一室に呼ばれ、入った途端これだ。わけがわからない。

少なくとも身分が高いこの方々が頭を下げている状況はまずいということは確かだ。


「お二人とも頭をあげてください…セイラ様もオーディル様も一体なぜ俺なんかに謝っているのですか?」

すると、頭をあげたオーディルから何故ああも強引な模擬戦になってしまったのかの説明を聞いた。


「なるほど、俺の魔力回路が魔族に似ていると…」


「似ているというか、ほぼ同じであります。ただお主の場合、人と魔族の2つの魔力回路が重なるように存在しているのであります」


オーディル様の話によると、人の魔力回路は偏りなく全身に行き渡っているのに比べて、魔族は心臓付近に魔力回路が集中しているらしい。俺は普段は主に人側の回路が動いているが、魔法を使用した瞬間魔族側の回路も同時に活性化しているようだ。


おそらく俺の魔法発動条件である胸へ魔力を注ぐという行為がその起動の鍵になっているんだろう。


「カイロがあなたを人であると判断した理由は、魔法の発動時のみ魔族の回路が動いているのを視て特殊な魔法の一つであると判断したらしいわ」


「なるほど…しかし、どうしてこんな一冒険者に対してわざわざ謝罪を?セイラ様の立場ならこの程度なら模擬戦の一貫として必要な行動であったと処理すれば済みそうですが」


俺の言葉にセイラは真剣な表情で答える。


「私は人族を守る勇者。魔族の疑いがあるなら被害が出る前に今回のような手段を取るわ。人族を守る、それが勇者の使命。罪悪感を感じることもあるかもしれないけど、間違った事をしたとは思わない。けどね、勇者である前に私も一人の人間で、悪い事をしたら謝るのは当然よ」


勇者としての真剣な表情が崩れ、セイラは微笑みながら続きを話す。


「だから、今ここにいるのは勇者でもなんでもない一人の女の子だと思ってちょうだい!」

白銀の鎧や聖剣の輝きに勝るとも劣らないその笑顔に俺は思わず見入ってしまう。


「そして、我輩もただのカイロであります!」

「…」

セイラの作り出した雰囲気を一瞬でぶち壊したオーディルを俺とセイラがジト目で見つめ俺たちはこれをスルーすることに決めた。


「とりあえず、謝罪を受け入れます。要件はこれで終わりですか?」


「模擬戦中も言ったけど、もっと気軽に話していいわよ。私もカイロも不敬だとか言うことは無いわ。こっちも貴方のことをディアと呼んでもいいかしら?」

まぁ向こうがこう言ってるんだから普通に話すことにする。むしろこれを受け入れないほうが不敬だと怒られそうだ。

「わかった。そっちの好きに呼んでくれて構わない」


「ありがとう!こっちもセイラ、カイロと呼んでくれると嬉しいわ。それでね、ここに呼んだ要件はもう少しあって、ホルンを案内してくれない?」

「案内?何でまた…」


「決まってるわ!知らない街にきたら美味しい物を食べたり、観光したりしたいじゃない!いつもはギルドだったり街の人にお勧めを聞いてるんだけど、ディアもこの街にいるんだから詳しいでしょ?勇者として公表されると気軽にそう言うことができなくなるからその前に堪能したくて」


確かに今後街中で勇者と知れたら人だかりで移動するのも一苦労だろう。

「けど、カイロは貴族、しかもオーディル家だろ?大丈夫なのか?」


「問題ないであります。オーディル家とはいえ我輩は三男で表舞台に立つこともほとんど無いものでありますから…現にディア殿もギルドから説明されるまで分からなかったでありましょう?」


なるほど…できるだけ目立たないようにそう言う人材を選んでいるのかも知れない。

「案内くらいならいいが、流石に俺に女の子が喜ぶお店とかは分からないからもう一人案内役として呼んでも構わないか?今回召集された中にいた女性の冒険者なんだが」


「あら?もしかして最初らへんに戦った子かしら?あの子も強かったわね、確か名前はアルムって名前だっけ。印象的な武器だったし結構いい一撃を貰ったから覚えてる。いいわよ、呼んで貰っても構わないわ。」


防御を必要としたのは二人だけと言っていたが、俺とあと一人はアルムだったのか…流石だな。後でどうだったか話を聞いてみよう。


「ああ、それであってる。じゃあ明日ギルドの入口集合でいいか?」


「わかったわ。じゃあまた明日会いましょう!カイロ行くわよ」

「楽しみであります!」


この模擬戦に乗り気じゃなかった筈なのに目を付けられるわ、街案内を頼まれるわ、世の中上手くいかないもんだな…

けれど、人か魔族かわからない半端者に人だと言ってくれた二人の頼みを断ることはどうしてもできなかった。



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