8話
Side セイラ
盗賊狩りと呼ばれる男、名前はディアだったかしら。
盗賊をたった一人で討伐し続けているらしい彼がこの程度な訳が無い。多数を相手にするにはそれを覆す圧倒的な何かが必要だ。私だってこれまで盗賊と戦ったことはあるけどそれなりに苦労するもの。
こんなふうに結界まで張って無理矢理戦うなんて本当は私も好んでやっている訳ではない。魔道具越しにカイロから指示があったからだ。
その内容は、『その男から魔族の特徴が視えるであります。しかし、どうも違和感を感じるからそれをどうにか引き出してくだされ。ギルドはこちらで対処いたしまする』とのことだった。
カイロの魔法は他者依存型で発動条件は対象の目視。その魔法は相手の魔力を視ることができると言う補助寄りな魔法だ。
相手の魔力の流れを視ることで魔力回路を確認し、その発動条件やどのように作用する魔法なのか、さらに魔力の流れ方である程度の強さを視ることができるらしい。どうも強い人は回路の動きが最適化され流れがスムーズだとか。
そして私は、カイロのその違和感の正体を引き出すことに成功した。魔法の種類は千差万別と言えど、魔族の力をその身に宿す魔法は見たことも聞いた事もなかった私はディアに聞かずにはいられなかった。
「一応聞いておくけど、あなた人間よね?」
私は彼の目をじっと見つめ答えを待つ。
「ああ、それはもちろんだ。ギルドにも所属しているし、そこら辺はギルドも保証してくれる」
そう答える彼の紫の瞳が一瞬悲しみの色に染まり、その言葉はまるで自身に言い聞かせているかのようだった。きっとこれまでに同じような質問をされた経験があるのかもしれない。
彼が隠そうとしていた物を無理矢理暴いておいて、その上それを見て相手を傷つけるなんて私って最低ね。
軽い自己嫌悪に陥っているとカイロから声が届いた。
『セイラ殿。相手が魔法を使用したことで、こちらもハッキリと魔力を確認することができたであります。見た所非常に魔族に似ているだけでおそらく人間のはずであります』
人間のはずね…カイロの言葉にひとまず安心する。
「ならいいわ。続けましょう。」
見た目は普通の魔法とはかけ離れているけど、発動前の胸に手を当てる行動から自己強化と考えていいはず。
一回一回発動条件を満たさなくてはいけない単発の魔法と違って、自己完結型の魔法は一度発動すると効果が継続することが多い。だから発動条件が分かったとしても既に発動したらその場ではその情報は意味がない。
私が言葉を言い終わると同時に、魔族化による強化を行なったディアが高速で接近してくる。
私は接近してくるディアを待ち構える。もう数歩でお互いの剣の間合いに入るという所でディアの剣が黒紫の魔力を纏い、私の風刃のようにその魔力を放ってきた。
それを私が横に跳び回避すると同時にディアは黒剣を突き出してきた。それはまるで最初の打合いの再現のようにお互い剣を重ねる。
「やるわね。けど、まだまだこれからよ!」
私が反撃に入ろうとした瞬間、周囲の結界にヒビが入る。
「そこまで!実力を確認するには充分、模擬戦はこれにておしまいであります!」
魔道具からの声ではなくディアにも聞こえるような大声で私の結界に外から介入してきたカイロが模擬戦の終了を伝えた。